妖鬼討伐演舞祭の章
妖鬼討伐演舞祭の章 其ノ一
うっとおしくジメジメした季節も終わり、ようやく夏がやってくる。
夏といえば妖怪の季節。地獄の釜の
各寺社、もちろんケノ国の人間たちも一番気が抜けない時期なのだ。
八潮にある星ノ宮神社でもお盆に備えた妖怪対策をしていた。
──イロハの方 もう少し上
「イロハ──! もう少し下にお願い!」
「こんくらいけ──!?」
朝、志乃が起きると例の声が結界を張るように言ってきた。怪しい声の言うことを真に受けるのもどうかと思ったが、あまりにしつこく
(そろそろ何のための結界か、教えてくれてもいいんじゃない?)
──悪しき妖怪 近づいてもわかるように
(本当に? ……信じるわよ?)
志乃は社の前に立つと精神を集中させ、大地を
シャン!!
錫杖の音が目に見えない波紋のように広がり、イロハとトラは思わずたじろいだ。
「大丈夫?! 二人ならなんとも無いと思ったんだけど……」
「うむ、大丈夫だ」
「体重くなった気がしたきとダイジだ!」
(ちょっと! 二人に何かあったらすぐ剥がすわよ!)
──二人無事 何も起きない 辺りに悪しき気配なし
(ならいいけど)
そう志乃が思いかけた時、頭にある情景が映し出された。
(これは……星ノ宮神社の周り……?)
普段は静かなこの神社があまりにも騒がしく感じる。
──生命の息吹 とても多く 激しい
やがてその一つ一つが小さな生き物や無害な妖怪たちであることがわかる。
知らなかった、神社の周りはこんなにも命で満ち
志乃は思わず感動し、声の導きへ素直に感謝した。
ひと仕事終えて、皆でお茶を飲むことにした。社の本殿は風通しが良く快適だ。どうせ誰も来ないしここで飲もう。そして夏は熱い茶に限る。正面の扉を開けっ放しにすると、いい風が入ってきてきた。
──志乃 誰か来る
『おーう! いるげ──!?』
ふいに人の声、完全に油断していた。見るといつの間にか小汚い坊主が石段を上がって来ているではないか。慌てて天井裏に隠れようとするイロハ、だが遅い。
(言うのが遅いわよ! ……ど、どうすれば……)
志乃は頭の中が真っ白になった。
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