102.心が滅ぶとき
きっと最初から間違えていた。
願いを胸に抱いたあの時、全ては決定づけられていたのだ。
あの戦いも、あの戦いも、あの戦いも、あの戦いも、あの戦いも。
死に物狂いで足掻いてもがいてつかみ取った勝利は、平坦な一本道をただ歩くことと何も変わらなかった。
こんなこと、一度だって望んだものか。
カガミさんが帰ってきたら、みどりが笑顔で祝福してくれていて、アカネが少し遠くから、でも温かいまなざしを向けていて、北条さんは少し怒った風だけど、でも優しく抱きしめてくれて。
そして陽菜もそこにいる。よかったね、と嬉しそうに笑っている。
そのはずだったのに。
この願いが間違いだったのだろうか。
友達を戦いに巻き込んだことの罰がこれか。誰かを犠牲にしてまで願いを叶えようとは思わない――そんな矛盾した心が罪だったのか。都合よく誤魔化し続けた結果がこれか。
でも、だけど、こんなのは耐えきれない。
大切な幼馴染を手にかけるなんて、そんなことをするくらいなら躊躇いなくわたしが死ぬ。
なのにそれすらできない。見上げれば園田とアカネがいる。わたしが死ねばあの二人も助からない。彼女たちを道連れにすることはできない。
心が悲鳴を上げている。
今にも引き裂かれてしまいそうだ。
どうしようもないのか。
他に道はないのか。
三人とも助ける道はないのか。
考えるたび時間は過ぎる。園田とアカネが死に近づく。
陽菜。
いまあなたは何を考えてる?
顔は笑ってる。
この戦いを楽しんでいるように見える。
でも、こんなことを楽しめるような子だっただろうか。
陽菜は誰より優しくて、虫も殺せないくらいで。
だから一年前のあの時、わたしに声をかけてくれたんじゃないの?
……それも違うのか。
全部、この時のためか。
わたしの心を支えて、ここまで連れてくるためでしかなかったのか。
――――ちがう!
全ての思い出は虚構。
わたしを騙して、優しく寄り添って、陰から監視していた。
――――そんなわけない! 陽菜はそんなことするような子じゃない!
なら、もう諦めてしまってもいいか。
陽菜なんて、もう。
――――だめだよ! そんなの逃避だ、楽な方に逃げてるだけ――――
だったらこの状況はなんだ。
肩から血を流すアカネはどうしたらいい。
陽菜が指を少し動かすだけでもっと血が流れる。その事実は変わらない。
――――わたしは…………
もう黙っててよ。
そんな良心は邪魔になる。
――――……………………
殺す。
もうそれしかない。
園田とアカネを助けるため。そしてカガミさんに再会するため。
そうだ、思い出せ。どうして自分がここにいるのかを。
ただひとつの願いを叶えるためだったはずだ。
そのためならどんな戦いでも乗り越える。あの時、あのゴーレムを倒した時からそう心に決めていたはずだ。
だから今ここで、改めて
目の前に立ちはだかるものは全て倒すのだと。
ぐしゃ、という音が聞こえた。
胸のあたりで何か大切なものが、赤い飛沫とともに潰れたようだ。
少し心が軽くなったような気がする。
躊躇うな。
今のわたしなら光空を殺すことができる。
五つのプラウの力がひときわ強く鳴動した。わたしの意志に、彼らも同調しているのか。
身体の奥底から計り知れない力が沸き上がる。
寒気がするほど真っ白な光がとめどなく溢れ出す。
これまで押し込められていたものが解放された。
もう戻れない。
終わりがすぐそこに見えた。
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