第11話 謀反の疑い

 隣国に山城やましろという小さな国があった。山城は、秀和殿の父の代より敵国であるが、今回、同盟を求めて山城の者がやってきた。

 諸国との取り交わしについての役、山城は、広和殿の担当である。

「あのー、なんで同盟を? 昔から敵なんですよね?」

広和殿は、結城についての書を読んでおり、山城が敵国であることを知っていた。それには、家臣一同感激していた。

「広和殿の見事な国づくり、耳に入りましたぞ。山城は、山に囲まれた自然の要塞のような国にございます。先祖代々から結城の敵国でございましたが、食糧調達、民の要望等を鑑み、同盟を結ぶ決心といたしました」

「食糧調達ってさ、山の幸とれるじゃん」

「山城は、山しかないのです。しかし、結城へ行けばさまざまな食糧を調達することができます。それは、結城が山、海に接しているということだけではなく、結城に他国からの食糧が届けられているからなのにございます。城下町が賑わっていると聞きつけた民が、結城へ流れている現状もございます。同盟を結ぶことで、山城もその恩恵を受けたいのです」

「それ、結城にとってメリットある?」

「めりと?」

「んー、結城にとって良いこと、ある?」

「山城は、結城より高い山が多く、結城で手に入らない食材が沢山ございます。もちろん、戦となれば山城も参戦いたしますので」

 殿は、しばらく考えておった。目をつぶり、座禅を組んでいるかのように少しも動じない殿を、山城はじっと観察する。すると突然、殿が、

「わっかんねー」

と大きな声で叫んだのだ。殿は後ろに倒れ、頭抱えていた。

「殿?」

家臣も驚いたが、それ以上に山城家一同は何事かと思ったであろう。

「とりあえずさ」

殿は起き上がり、笑顔を見せた。

「待っててもらっていいですか?」

「はあ」

 すると、殿は走ってその場を去った。どこに行くかと思いきや、秀和殿のもとであった。


 「山城には、気をつけなければならぬぞ」

「わかってる。同盟、結んだほうがいいかな?」

「城下町が栄えたくらいで、のこのことやってくる男ではないんだがの」

「じゃあ、帰ってもらう?」

秀和殿も迷っていた。

「何か、裏があるように思えてならぬ。しかし、同盟を断れば、敵国と組み、攻めてくるであろう」

「小さい国だけど、戦闘力は強いからね。立地上、戦に向いてる条件そろってるし」

 広和殿は、この数週間で、多様な知識を身に着けていた。それには、秀和殿も驚いていた。

 「相手の策がわかればいいのだが……。忍びを送るか」

「……家臣を送ってみない? 本当に信じていいのか調べるために」

「そんなことをしたら、家臣が斬り殺されるだけじゃ」

「もし家臣に何かあったら、同盟は結ばない。今すぐ結城は攻撃します、って」

「ほう。同盟は結ばずに、家臣を送るということか?」

「そう。猶予期間を設けるの」

「猶予期間か。よいではないか。しかし、送る家臣についてはしかと考えよ」

「田島くんがいいと思うんだよね」

「田島?」

「なんか雰囲気違うんだよね。やばいこと考えていそうな、嫌な予感がする」

「ほう。謀反を起こすやもしれぬということか?」

「そういうこと」

秀和殿は、田島についてはすでに調べていた。

「しかし、田島が山城をもつとなれば、相手の思うつぼであろう」

「そうならないように、忍び、出しといてよね」


 その後、殿は山城に今のことを伝えた。

「猶予期間でございますか」

「そう。猶予の間は、俺の家臣を山城さん家に滞在させてもらいまーす!」

明るくにこやかに話す殿を前に、山城は疑問を抱きながら聞いておった。

家臣たちは、少しざわついたが、すぐに静まった。

「で、山城さん家に行く人なんだけど……じゃーん! 田島くんです!」

 田島は、まさかの決定に驚いておった。敵国に送られる人物ということは、斬られるのが常ではあるが、殿から信頼されていなければその役にはつけない。頭を下げ、殿に忠心を誓うとともに、心の中で何を思い描いていただろうか。



 山城へは、特別役として迎えられた田島。道中、山城の者とこう会話を交わす。

「広和殿は、愉快な殿であるな」

「ええ。理解できぬほど、まこと愉快にございます」



 秀和殿は、広和殿を呼んだ。

「坂本」

「はっ」

 坂本から、田島についての見解を聞く。

「田島は以前、山城との戦でを務めた男にございます。しかし、結城が攻め込まれる中、田島とその家臣の者については、だれ一人としてけがをも負わなかった。加え、結城の情報が漏れていたことから、我々は田島に謀反の疑いをかけたのです。しかし、山城とつながっているという情報はなく、降格のみの処分にいたしました」

「重臣たちには、田島の動きに気をつけるよう申しておった。だが、特に問題はなかったとのことであったのう」

「ええ。なかなか口の堅い男でして、酒を飲ませても、何も出てきやしませんでした」

「広和が疑っておるということは、とんでもないことをしでかしそうやのう」

 広和殿は、黙って聞いていたが、ここで初めて口を開いた。

「っていうか、田島君が怪しいって知ってたんだ」

「田島の親が謀反人でのう」

「じゃあ、なんで家臣のまま仕えさせてんの? 危ないじゃん」

「だから、坂本や松山という優秀な家臣をそばに置いておるのじゃ」

「俺は?」

秀和殿は、とぼけた顔をする。

「……忘れておったのじゃ」

「はあ? めっちゃ危ないじゃん。隅田君と原君がいつもついてるわけじゃないしさー」

「……すまぬ」

「疑ってはいたけどさ、謀反の可能性が高いなら言ってよね。この前いっしょに囲碁したけどさ、俺、殺されるとこだったじゃん」

「まあ、そう焦るでない」

「田島は、広和殿を手にかけるようなアホではございませぬ」

その坂本の一言に、広和殿が物申す。

「それ、どういうこと?」

「広和殿を殺したとて、今の結城を滅ぼすような脅威にはなりませぬ」

「なんか失礼だよね」

「とにかく、忍びは送っておいた。今は、連絡を待つだけじゃ」

「もし、謀反の疑いあったらどうするの?」

「斬るのじゃ」

「え?」

広和殿は、秀和殿の突然の口調の変わりようにとまどった。

「マジで?」

 広和殿は、なにかを思い出したように言った。

「その忍びに頼みたいことがあるんだけど」



 山城に到着した一行は、田島の歓迎の宴を開いた。

「結城は、何を考えておるのかのう」

「さあ。まずは同盟を結びましょう。親密な関係になってから、橋本と手を組む方が、効率がよい」

「村を橋本に引き渡したそうじゃないか。敵に領地を明け渡すほど、軍事力が衰えておるということか?」

「それはまだでしょう。秀和殿が広和殿に目をつけている隙に孝和殿を攻めれば、一気に勝てるでしょう。なにせ、孝和殿は戦が下手であります」

「そうだな。」

田島は、やはり山城とつながっていた。



 坂本は、田島のことを広和殿には任せておけなかった。

「殿。山城を広和殿にお任せして大丈夫でしょうか?」

「心配か?」

「はい。田島が山城と組み、同盟を結ぶことになったならば、相手に言いくるめられる恐れがございます」

「そのときは、そのときじゃ」

秀和殿には、なにか考えがあるようであった。

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