第66話 妖精と竜


風が吹き、草原の夏草がサラサラと音を立てる中に2つの人影と魔獣。


「アヒル隊長、私は大丈夫ですから、少し散歩して来なさい」

『ピィルル…』

アディが背中を軽く叩くとトストスと離れていく魔獣ヒッポグリフ。その様子を腕を組みジッと見つめるフィオ。


「…」

「…」

無言で見つめ合う2人。


「…その、…何というか、何処から話をすればいいのか困ってしまいますね」

「そうですね」


「ルピシア近辺にはいつから?」

「3日前ですね。フィオ様は【身内】では無いので詳しくは言えませーん」

気の抜けた軽い返事だが、拒絶の意思を含んだ内容に苦笑するフィオ。


「…同じ南部辺境の出身ですよ」

「婚約者の事も省みず故郷を出てった方なんて身内とは呼びませんよ…っというのが率直な思いです」


「む…南部辺境での私ってそんな扱いなんですか?」

「原住民の方とか特にですね。面倒な掟は有りますが身内や誇りを大事にする部族が多いですから」


「そうですか…まぁ、私の事より、アディちゃんですね」

「んぇ?私?」

アディの警戒の意思に呼応して周囲の魔力が軽く弾ける。


「町でノーブル様の魔力を感知し辿ってきたハズなんですが、いたのはアディちゃんでした…その落ち着いた態度を見る限り貴方の想定内…つまり、私は釣られたのでしょうか?」

「ええ、見事に竜が釣れましたよ」


「ふふ…釣った後は如何するおつもりで?目的は何でしょうか?」

「?、何を笑って…まぁ、いいです。私の目的はフィオ様の誘拐です」

少女の口から出た物騒な言葉に微笑みを消し目を細める。パチンパチンと魔力の小さな閃光が煌めく。


「…誘拐?」

「ええ、今がフィオ様を南部辺境に連れ帰るチャンスです。追っ手が誰も来ないのは不思議でしょう?それはノーブル様が貴方のお連れ様を引きつけているからです」


「ノーブル様は私がルピシアに来る情報を…掴んでいたと?」

「あの町の商会はノーブル様のお得意様ですよ。2日前、町に入って情報を入手しました。他の町で馬車の馬が大暴れしたとか悪目立ちしてたご様子で安い値段の情報でしたがね」


「それは何ともお恥ずかしいですね」

「それで?如何します?大人しく誘拐されます?」


「…………いえ、止めておきます。私が消えるとリプカ義姉様も護衛の方も困るでしょう」

「…まぁ、でしょうね。貴方は面倒臭い立場になりましたから、ほんと…大迷惑です」


「………断った私を如何しますアディちゃん?」

「如何もしませんよ。ノーブル様が指定した時間まで足止めしてくれるそうなので…それまで私とお喋りでもしましょうか?」

手首を捻り腕時計をチラリと見るアディ。


「それも良いですが、ノーブル様に会いに行こうと思います。武芸大会があるとはいえ、会える時間は限られていますし…私もこの機会を利用させて頂きます」

「はい?何言ってるんですか?誘拐の同意を得られなかったんです。ノーブル様にはフィオ様が帰る気無しと私から伝えますから会う必要も無いでしょう」

アディの返答に目を見開くフィオ。


「ッ…それは違います」

「なら帰りましょう?ノーブル様と辺境で結婚式挙げて幸せに暮らせますよ?ああ、羨ましい」

バヂンッと一際大きな魔力の閃光が弾ける。


「…ノーブル様がそう仰ってるんですか?」

「さぁ?ノーブル様には王国南部の有力貴族や大公国の交換からお見合い話が引っ切り無しです。損益覚悟でそれを全部断ってるんです。貴方を気に掛けてるんじゃなきゃ何なんですか」


「…」

「貴方は存在してるだけでノーブル様に迷惑を掛けているんですよ…辺境でひっそりと静かに暮らせればいいじゃないですか」

お互いが苦虫を噛み潰した様な苦渋の表情で睨み合う。


「…………出来ません」

「はぁ…確か…6年前の話を聞く限り【トーン】の称号授与は剣王様を静かに隠居させるためというよりフィオ様の降嫁に口出しさせない為の配慮だと聞いています」


「…そうですね」

「だったら何で!?」

堪忍袋の尾が切れたのか声を荒げるアディ。


「!」

「私だったら有象無象が溢れた王都よりノーブル様の隣を選びますよ!?」


「…」

「貴方の話を聞くたびに貴方がノーブル様に相応しいとは思わない!!」

声を荒げるアディにフィオは無表情で向き合う。


「アディちゃん…ノーブル様の幸せって何だと思います?」

「何をっ…静かに、暮らすことでしょう」


「そうですね…でも、その割にはノーブル様って自ら面倒ごとに首を突っ込んだりしません?」

「………それは」


「6年前のノーブル様は…幼く…力も中途半端なのに揉め事の中心にいました。いつも…いつもボロボロになっているんですよ」

「………」


「怖かった…ノーブル様が負けるのもノーブル様以外に私自身が奪われるのも…」

「…」


「確信が欲しいんです…負けない…奪われない安心を」

「…それが王都で手に入ると?」

フィオの語りを腕を組んで聞いていたアディは眉を寄せつつも質問する。


「6年前に手に入るハズだったんです…今回は、私が用意しました。この6年間…私という存在が…私を妻にする事が勇者という称号に匹敵する様に…!」

「王国だけでなく帝国なんかでも活躍してたそうですね…自意識過剰ですよ」


「いいえ、ノーブル様は自分の力の【落とし所】を欲しがっています」

「は?…貴方に付いてる勇者の称号を手に入れたらノーブル様が満足すると?」


「付き添っていたアディちゃんなら分かるはずです。ノーブル様の力は勇者に匹敵します。いえあの方こそ【勇者】に相応しい」

「…む」


「6年前の【魔王】はノーブル様が倒すべき相手だった…それを私のお父様【剣王】が横取りしたんです」

「…王族嫌いのハーディス家の方々と同じような考え方を為さるんですね」

王国内だけでなく各国から魔王を打ち倒した英雄として人気のある【剣王エンヴァーン=トーン=ガルダ】。その一人娘であるフィオが父親を否定した。


「当たり前です…ノーブル様の為はハーディス家の利に繋がりますから」

「私は冥王も剣王様の力も知りません。ですが今のノーブル様の規格外な能力を見ていると剣王様に負けるとは思えません…剣王様が居なくても今のノーブル様なら魔王を倒せる気さえします」


「私は今のノーブル様を知りませんがきっとそうなのでしょう…お父様はノーブル様が幼いが故にその能力を利用した」

「貴方は…自分の父親を否定するのですか?」

やっと共通の認識を持って会話できた事に微笑むフィオ。それに対し父親を尊敬するアディは訝しげな顔で睨む。


「…返すべきなのです、本来の在るべき称号と名声を…でないとノーブル様は【力】を持て余したまま狂った様に彷徨い続けてしまう…私はそれが不安なのです」

「だから…【落とし所】…ですか」


「6年前の私はノーブル様が【勇者】として認められて欲しかった…結果はノーブル様は襲撃に遭い、箝口令が出され、ノーブル様の存在はほぼ揉み消されました」

「…ただのお節介…という訳では無かったと」


「まぁ、私より【厄介な方】は居ますけどね」

「厄介?…王族や貴族の方ですか?」

「ふふ、そうですね」

「?」

口に手を当てて薄く微笑むフィオにアディは首を傾げる。険悪な雰囲気から落ち着きを取り戻したのか。魔力の光は散り、穏やかな草原風景を見渡す心の余裕が出来たフィオは微かに見えるルピシアの茶園の方向に視線を移す。


「さて、今回の武芸大会では各国の精鋭が集まります。ノーブル様の力を認められるには絶好の機会だとは思いませんか?」

「ノーブル様が静かに暮らす事とは離れる気がします。賛同できませんよ」


「むぅ…ココで意見が分かれますか、ノーブル様を想う気持ちは同じだと思っていましたが…」

「元々、ノーブル様を危険に晒す貴方の考えは気に入りませんから…さて、他に何か私から聞きたい事とかあればお教えしますよ?ノーブル様から指定されてる時間まで余裕ありますし」

腕時計を確認するアディは素っ気無い声でフィオに問い掛ける。


「そうですか…私もゆっくり話したいですが町に入る連れやノーブル様が気になりますし、町に向かおうと思います。アディちゃ…」

「は?行かせませんよ」


「えっ?」

「誘拐が失敗したので、王族の貴方と会わせる気はありません。武芸大会まで襲撃や暗殺が怖いですからね…目立つことはしたく無いんですよ。【竜王】なんて注目の的とノーブル様を会わせません」


「好きな相手がいるんです。声くらい掛けてもいいじゃないですか」

「好きな相手を狙ってる人なんて近づけたくないですよ」


「アディちゃんの言う事聞く必要はありませんから…では」

「あっ…ちょっ」

アディに背を向け、タンッと地を蹴って町へ走り出す。


「頂きにて大地を破れ【ブート】」

「!?ッヒャッ!」

その呟きがフィオの耳に届いた瞬間にフィオは横に跳ぶ。

ビュオンッとフィオの背後からアディの飛び膝蹴りが空を切る。


「クソぅ!外したッ」

フィオを通り過ぎ進行方向の先で地面をガリガリと抉りながら着地するアディ。足には魔力で形成した鱗が宿る。


「なっ…!?【竜体魔法】!?」

「頂きにて万物を削れ【オニュクス】!!」

アディの手に鱗が生え、魔力を宿した爪が伸びる。爪の先端をが融合し短剣に化す。

「拳よ【プグヌス】!!」

爪の短剣をフィオは鱗で形成した籠手で弾き返すと軽いアディの体が宙に舞う。


「あいだっ!?……っ!」

猫の様に身体を捻って着地するとアディは間合いを確認しながら息を整える。


「あだだっ…ッ〜〜ハァッ…フゥッ…初見で、フゥ…駄目ですか…」

「驚きました…そういえばノーブル様の魔力を持ってるんでしたね…使えるとは思いませんでしたが」


「そうですよ…眠りにて弱さを知れ【ヴァルサルヴァ】!!」

「!?」

アディは魔力を宿した手を振り払うと魔力が周囲に散って消える。


…ィイイィイイィンとフィオの頭の中から耳鳴りの音が響く。


「これは……ん」

(…ノーブル様の魔法…ですが知っていますよ)

フィオはペロリと舌を出し耳抜きを行うと音は簡単に消えた。


「この対処法は知ってましたか…なら…眠りにて辛さを知れ【サイノス】!!」

「?…………!?ッぷっはぁっ!」

フィオは突然息が詰まった事に驚き、慌てて大きく口呼吸をする。


(なっ!?これは知らない…!ノーブル様の新魔法!?呼吸が上手くッ…)


「スキありっ!!」

「!ッくっ!?」

ダンッと地を蹴りまたしても【竜体魔法】で強化した足での攻撃を行うアディにフィオは鱗の籠手で受け止めるが今度は逆に弾き飛ばされる。


「ッ…ふっ…はぁ…ゲホッえほっ…かはっ…はぁっはぁっ…ッ!!」

「【オニュクス】!!」

呼吸が上手く整えられないフィオに対し、爪の短剣を備えたアディが逃さないともう片方の手で腰の短剣を抜き追撃をする。


「はぁっ!!」

「ふっ…くっ!?」

両腕が繰り出される絶え間無い連続斬り。小さな身体と柔らかさを活かしクルクルと舞い踊る。フィオは苦しげな顔とは裏腹に紙一重で躱すが反撃に躊躇する。


「らぁ!!」

(なんで避けれるの!?自力の差!?魔力が切れる前に…!!)


「はっ…はっ…ケホッ…ふっ」

(…【無呼吸】の連撃はノーブル様の魔力…【竜体魔法】の身体強化を…器用な子ですね!)


ガッと衝撃音が弾ける。

フィオは腰から抜いた【白い木の棒】で爪の短剣で防ぐ。


「くっ…!」

「…ッ!それは【角剣エスス】ですか!」

見た目は木の棒だが、よく見ると樹皮とは違う、動物の血管の様な妖しい線が刻まれている。


「はぁ…はっ、【角剣エスス】存在の息吹を伝えよ【アザトース】!!」

「えっ?はっ!?かっ…」

内臓が丸ごと吹き飛ばされた。そう錯覚させる衝撃に襲われる。

ドドドンと周囲に爆音が響くとアディが吹っ飛ばされる。


「っ…はぁっ!…くっそ!【ドレス・アネモス】!!ッどわっ!!」

空中で風の魔力を纏ったアディは地面に激突するも纏っていた風をクッションに軽く弾む。風の魔力が散り、着地すると力が入らないのか仰向けに倒れ込む。


「…はぁっ、はぁ…ゴホッ…何ですか…これ…はぁっ…風系じゃない…」

プルプルと震える首を持ち上げ、響き渡った爆音の割には周囲の地形に変化はない事に気付くアディ。


(音響魔法…?…けどノーブルが使うものとは質が違う…)


「はっ…はっ…大丈夫ですか…アディちゃん、少し焦ってしまって…はぁっ」

「??、はぁっ…ゴホッ…何言ってるか聞こえません…はぁっ…」

息を絶え絶えのフィオが歩いて来ると声をかけるがアディには届かなかった。


「…耳がやられてますか、ごめんなさい」

フィオは自分の耳を指でトントンと当ててジェスチャーをする。

「…?、あっ…耳を?あっ…そういえばなんか耳の中が気持ち悪い気が……多分【竜体魔法】で治せます…はぁっ…あーもー、ノーブル様に貰った魔力が無くなるぅ…」

視界を腕で隠し、悔しそうに叫ぶアディ。その隣にペタンと腰を下ろすフィオ。


「ん、呼吸が元に、成る程…先程の魔法は【鼻呼吸】を封じるものですか…」

「??、聞こえませんが、なんか悔しい…」

かかっていた魔法が解けたのか荒かった呼吸を整え思考を取り戻し、一連の流れを考察するフィオ。


「はぁっ…はぁっ…少ないですが私の魔力を吸って下さい…」

「??、えっ、何です…ん!?んんん〜」

【竜神の魔力】を込めた腕に鱗が生えるとアディの口に押し付ける。


「はぁ…【加護】という器があるからといって魔力が少なくては意味がありませんね」

「??、んーん〜んんん〜〜!」


「そういえば6年前も竜峰から下りた後にノーブル様から魔力貰ってましたっけ…」

「!?、〜〜んんん、っぷはっ!もういいです!はぁっ…少しだけ聞こえる様になりました!後は平気です!」

顔を真っ赤にしてフィオの腕を振り払うアディは呼吸を荒くして怒鳴る。


「ごめんなさい、…アディちゃん傷つけるつもりは無かったんです」

「…謝らないで下さいよ、私は本気でした。フィオ様に謝られると惨めです」


「惨めなんて…そんなこと無いですよ、【角剣エスス】を使った魔法は久しぶり、帝国のダンジョンにいたAランク級の魔物の時以来使ってなかったくらいだし」

「何ですか、あの魔法…ノーブル様の音響魔法とは違いますよね」


「…相変わらずノーブル様は相手を傷付けず無力化する魔法を研究してるんですね」

「まぁ、より危険な魔法になってる気がしますが…基本はそうですね」


「ノーブル様の扱う魔力は【竜の血】も含めて特殊ですか【音響魔法】の元は【竜体魔法で強化した咆哮】何ですよ?」

「えっ?」

ノーブルは幼少時に飲み込んだ竜の鱗を消化してしまったことが原因で竜人族寄りの身体になっている。


「先程アディちゃんに当ててしまった音響魔法の方がオリジナルに近いですね、ノーブル様は吹き飛ばせる程の音は出せないので、効果的に調整したのでしょう」

「…成る程」


「ノーブル様の魔法は特殊ですから【竜体魔法】があっても対応策を知らないと抗えないのが怖いですね」

「…ノーブル様の魔力って…」


「【海神】様ですよ?教えてもらっていませんか?」

「…ええ、というか教えて良いんですかソレ…?」


「フフ、アディちゃんなら問題無いでしょう?」

「…調子狂うなぁ」


「未だ【海神】様の恐怖は各国に根強く残っていますが、ノーブル様が活躍すれば払拭されると思いません?」

「…まさか、それも含めて勇者に?」


「ふふ、それにしてもアディちゃんに苦戦するとは思いませんでした、久しぶり楽しかったです」

「…何言ってんですか、【竜神の魔力】が少ない今の貴方なら倒せると確信してたのに簡単に負けましたよ。流石は【竜神を祀る勇者】様です」


(出力が違い過ぎる…勝てる気がしない…でも…)


「次は負けません…」

「…………フフ、貴方がノーブル様を愛する限り何度でも挑んで下さい。王都にいる騎士の方より遊びがいがありますよ」


「…頭を撫でないで下さいよ」

「ふふふ、やっぱりアディちゃん可愛いなぁって…やっぱりノーブル様と子供作るなら女の子が良いですね」


「…むぅ、貴方なんかノーブルに振られてしまえば良いんです。王都で会ったら覚悟した方が良いですよ」

「大丈夫ですよ、今から会いに行きますから…っあれ?」


「会えませんよ」

「えっ…あっ…!?なっ!?」

ガクンと膝をつくフィオ。それに対して軽快に起き上がるアディ。


「足が…手…も…」

「さっきの爆音のお陰で【銃声】かき消してくれたので気付かなかったようですね」


「…ッ…ァ…」

「顔の筋肉も動かないでしょう?喋るのは無理ですよ」

クルクルと【仕込み銃】でもある短剣を手で回す。


「………」

「【空砲】なんですけどね。毒の入った袋を銃口に詰めています。撃てば弾ではなく袋の中身がドパーンと舞うワケです」


「…」

「その毒は命を奪う事はありません。ノーブル様を愛する貴方の気持ちは痛い程分かりますから…正直、感動すらしました…私の愛はまだ薄っぺらいようです」


「…」

「ふふん、【炭の従士】永遠で唯一無二の総隊長アディティ=ディアーナに油断は禁物ですよ。獲物を寝て待つなんてウチのクランではしょっちゅうですから」


「…」

「ではでは、とりあえずはサヨウナラ。王都でまたお会いしましょう」


スタスタと歩いて行くアディの元に魔獣ヒッポグリフが近づいて来る。


「ふぅ…まぁ、何とか任務は達成ですかね」

『ピィルルル!』

アディは倒れているフィオを一瞥するとアヒルに跨る。


「さぁ、合流地点に行きますよアヒル隊長」

(バイバイ、フィオ姉…)

『ピィルルル!』

雄叫びを上げ駆け出した魔獣は突風を撒き散らしながらアッという間にフィオの視界から姿を消した。


ザザァ…と風が吹き抜け草原を波打つ音だけが響く。


「…」

(うーん、鼻を封じたのは毒の完治を遅らせるためでしたか…魔力も少ないので完治に時間がかかりそうですね)


「…」

(地面で寝るとか久し振りですね…そういえばノーブル様と一緒に竜峰で寝っ転がりましたね…懐かしい…)


「…」

(6年前にニコ様にノーブル様は弱いと言っておきながら…この様ですか)


「…」

(王国で騎士を圧倒して、魔獣を倒して、帝国の遠征でダンジョン攻略に参加して、各国の剣客を招いて…強く…なったと思ったんですが…)


「…」

(あれ?私は負けたんですかね?…だったらノーブル様はアディちゃんのもの?…それは困りますね…)


「…」

(…会いたいなぁ…ノーブル様に)


「ぅ………」

(でも…私にその資格がないから…)


「……ぅう…」

(お父様が奪ったものを…返さないと…)


「……グスッ…………うぇえ……スン…ぅう…」

(ノーブル様に与えられた力に意味があったと…そう実感させてあげないと…)


「…のぅ……グスッ…ブ……ル…ぅうぅ…さ……まぁ…」

(そうすれば貴方は…力の矛先を探しに行かず…心置き無く静穏を過ごせるハズなんです…)


物語の最高の終わり方とは何だろうか。


愛する人と結ばれて終わる事なのか。


唯一無二の宿敵と相討ちし命果てる事なのか。


勇者と魔王の世界なら勇者が魔王を倒す事なのか。


勇者の力を満足に震えず魔王を別の誰かに倒されてしまった勇者とは何なのか。


平和を認めず争いの炎へと、勇者は羽虫の様に飛び込むのではないのだろうか。


勇者を勇者にしたい勇者は1人泣く。


夏の日光を浴び、鬱蒼と生い茂る草原の夏草に包まれた彼女の涙を見た者はいなかった。



【戦闘結果】

フィオルデペスコ=トーン=ガルダ【弱体化】

VS

アディティ=ディアーナ【人魚化付与】【竜体化付与】


勝者アディティ=ディアーナ


ーGETー

フィオ・無し

アディ・竜神を祀る勇者の魔力


ーLOSTー

フィオ・竜神の魔力、竜人の涙

アディ・炸裂麻酔弾1発

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