第62話 給与明細


【今月の給与明細・アディティ=ディアーナ】

クラン【炭の従士】の活躍に応じた取り分。


【Bランク】報酬22万

Bランク・大鰐の調査同行12万

魔獣バニップ討伐1体×120万→取り分10万


【Cランク】報酬54万

魔獣アーヴァンク討伐1体×4万→取り分1万

魔獣パイア討伐1体×10万→取り分2万

魔獣エリュマントス討伐1体×12万→取り分3万

魔獣キリム討伐1体×13万→取り分3万

魔獣シュリーカー討伐1体×5万→取り分2万

魔物マンドラゴラ捕獲4体×5万→取り分5万

魔物ワームの討伐1体×5万→取り分2万

魔物トレントの生態報告2万→取り分1万

魔物ウンゴリアント討伐8体×5万→取り分15万

魔物ウンゴリアント体内の金品から特別報酬+20万


【Dランク】報酬11万7千

薬草採取依頼5回計2万→取り分5千

薬草調合依頼3回計3万→取り分2万五千(ソロでの達成)

新種発見報告1回計5万→取り分2万

魔獣オルトロス討伐1体×3万→取り分5千

魔獣コカドリーユ討伐2体×3万→取り分2万

魔獣グーロ討伐1体×1万→取り分2千

魔獣アハイシュケ討伐1体×10万→取り分3万

魔物オオムカデ討伐1体×2万→取り分5千

魔物オオガニ討伐2体×2万→取り分5千


【喫茶店給仕係】報酬1万5千6百

時給800円×32時間

摘み食い・カップ破損・茶葉の無断使用−1万


アディには金貨9枚(90万相当)渡される事となる。

金貨9枚、と言ってしまうと味気ないが明細を見た後だと重く感じられる。しかし、シベックとノーブルは本当の給料をアディには教えていない。アディもノーブルがいないと何も出来ないという自覚があるのか報酬に文句は無い。


「はぁ…」

「…何で疲れた顔してるパパ?」

「いや、仕事辞めてアディに養ってもらおうかなぁ…っと」

「はい?娘にそんな無茶言わないでよ、もう!」


(無茶じゃないんだよアディ…少人数【クラン】という自分ルールが通るギルドの形態だからこそ未成年にこの配分が出来るのは納得しましたが…)


「…はぁ」

「?」


(貰ったら貰ったで世間体とか今後の生活に混乱が生まれそうで怖いんですよね)


「アディちゃーん、注文良い?」

「はいはーい、ってあなた達は出禁って言ったじゃん」

「何の事かなぁ?というか給料出たって聞こえたよ!おごってよ!」

「イヤです〜可愛い服買ってノーブル様とデートするんだもーん」

「何ィ!」「許さん」「変わってよ〜」「連れてけー!」

アディは窓際の丸テーブルに座る女子集団の元へと駆け寄っていくと喧しくお喋りを始める。


「ノーブル様」

「ん?」

アディがカウンターから離れるのを見届けたシベックが小声でノーブルに問いかける。


「失礼ですが…ノーブル様って月どれくらい稼いでるんですか?私が預かってるとはいえ貰い過ぎな気が…」

「うん?そんな事は無いですよ?」

シベックとノーブルは背後のテーブル客には聞こえない声で話す。


「2人ともアディちゃんに聞こえないように…寄って寄って」

「…はい」

「…どうぞ」

カウンターで男3人が顔を近づけ、声を小さくする。



【大鰐のノーブル・今月のギルド貢献明細】


【Sランク】報酬なし

竜鱗の採取

・拒否

冥王の死体回収

・拒否


【特Aランク】報酬140万

迷宮ダンジョン【世界樹の根】の攻略

・妖精族と交渉中

迷宮ダンジョン【竜の住処】の攻略

・拒否

迷宮ダンジョン【冥王の洞窟】の攻略

・応援要請・ハーディス家の私兵団同行を条件に受諾

・【廃坑】にて冒険者救出活動

・【廃坑】までのルートの確立

階層ダンジョン【時の針】の攻略

・拒否

迷宮ダンジョン【地獄の底】の攻略

・拒否

【竜人族の集落】まで王族の護衛

・拒否

【冥王の洞窟】まで騎士団の案内

・拒否

【竜王】の剣客

・拒否


【Aランク】報酬220万

神獣グランガチ発見報告、生態報告(査定中)

幻獣アメミットの調査

・未発見・糞の採取に成功

魔獣テーバイの調査

・発見・戦闘・角の欠片採取に成功

神域イピリアの調査

・発見・神域内の雨水と同質の魔力を持った鱗の採取に成功

神域エントの調査

・発見・接触・【魔物エント】として更新要請


【Bランク】報酬160万

魔獣ヒッポグリフ生態報告、育成報告、羽根の採取10万

魔獣バニップ1体×120万→死体回収依頼−20万→取り分90万

魔獣オドントティラヌスの調査

・戦闘・戦闘・鱗の採取に成功

魔獣カトブレパスの調査

・未発見・汚染された植物の採取に成功

魔獣グリフォンの調査

・発見・戦闘・羽根の採取に成功

魔物グリーンマンの調査

・発見・戦闘・妖精族の介入により中断


【Cランク】報酬140万+240万

魔獣・魔物被害の救援依頼

魔物ウンゴリアント体内の金品から特別報酬+240万


【Dランク】報酬80万

魔獣・魔物被害の救援依頼


【今月のクエスト報酬980万】


ギルド支部への仲介費−10万

ギルド本部への報告費−10万

ギルド支部への個人消耗品の取り寄せ−20万

ハーディス辺境伯私兵団への特別手当−120万(6名分)


クラン【炭の従士】への資金援助+1250万

【ハーディス辺境伯爵領・南部辺境】

カプノス商会

炭の村セベク交友会

プルー湖猟師の会

プルー湖料理研究会

獣人族の村ワハシュ動物愛護団体

ハーディス本家から、たまには家に帰ってきなさい交通費

ハーディス本家から指名依頼の仲介費・報告費の援助

ハーディス本家から指名依頼の食費・装備・消耗品の援助


【カピストラーノ=ロッソ=プレッチャ侯爵】

世界の鳥獣愛好会として


【オラーン=ヒノ=ヴェルメリオ】

ダンジョン探索隊カルセドニー設立者として


【メリーディエース子爵領】

南部貿易商の町カポック・プルー湖物産支援会


【ピエトゥース子爵領】

香りの町ルピシア・紅茶愛好会


クエスト受諾率60%

クエスト完遂率80%

ジョブ評価【ハント】A+

ジョブ評価【ガイド】B+

ジョブ評価【ヘルプ】D−


ギルド総合評価

クラン【炭の従士】B+

・南部辺境の魔獣被害を優先する傾向。依頼主の私利目的が強い依頼は申請は難しい。プルー湖周辺であればランクを選ばずに引き受ける

冒険者【大鰐のノーブル】B

・諸事情によりランクはBに留まる。本部の監督官による監査が済み次第Aランクに昇格予定


「大雑把だけどカプノスさんの所への投資や喫茶店経営含めたら月々2000万くらいは稼いでるかな?Aランクの依頼なんて調査してるだけで儲かりますし」

「…」

「…」

ヒソヒソと2人に告げるノーブル。貧乏貧乏言う割にしっかり冒険者として稼いでる事に呆れる2人。


「いや普通、1年に4回の調査報告すれば充分ですよ?…ノーブル様は勇者・魔王級の力をお持ちだから稼げるんです…というかソロで幾つ引き受けてるんですか」


「アヒルの散歩がてらに見つけたりしてますね…【神域】に入った時は焦りましたけど…」

「散歩で魔境に行かないで下さいよ…」

「と、とりあえずノーブル様が私どもの投資で無理してないか不安だったので、私は少し気が楽になりました」

カプノスはホッとした様に紅茶を口にする。


「工場の皆には色々頼んでるし、援助も貰ってるから投資って言うのも何か変ですけどね…そういえば東部と北部やってる【金貸し】って上手く行ってる?」

「ええ、南部辺境に滞在してる冒険者の半分以上はすでに線路工事に日々を費やしています」

「…改めて思いますが、借金した冒険者を土木業者として扱うってどうなんでしょうね」

カプノスの返答に何とも言えない表情をするシベック。


「いや、真っ当な仕事を軸に趣味で冒険者すれば良いっていう有難い話じゃないですか」

「物は言いようですね」

「僕がそう思って無いとやってられないんですよ、最近は木炭用の材木の為に【枝打ち】をする魔法を覚えましたよ」

「土木業だけでなく林業にまで目覚めましたか」

「まぁ、風系の魔法の練習がてらに覚えたんですけどね…木を渦状の魔力で包んで枝を弾き飛ばす魔法【ドレス・アネモス】です」

指をクルクル回しながらドヤ顔するノーブル。


「へぇー、とは言っても迷惑な風系の魔法なので使い所を選びそうですね」

「服も選びますね、アディちゃんがスカートやワンピース着なくなった魔法なので」

「その事実に父としてどう反応すれば良いか分かりません!」

シベックはノーブルに訴える。


「ノーブル様ぁ、注文受けて来ましたよ…3人とも近づけて何の話してんですか」

「ん?アディちゃん可愛いねって話」

「嘘ですね」

「バレたか、風系の魔法でアディちゃんのパンツが丸見えになった話」

「何言ってんですか、もぉ!」

「痛い!?あれ?何でパパ殴られたの!?」

パコンッと木製のトレイでシベックの後頭部を殴るアディ。


「あれ?何の話してたっけ?」

「プルー湖東部の…線路工事の話でしたっけ?」

「ノーブル様が林業に転職した話でしょ」

「えっ?ノーブル様が私と結婚して林業に腰を落ち着けるんですか?」

「しないよ!?」

ノーブルの必死なツッコミを無視は空しく、アディは鼻歌混じりで注文の品の用意に取り掛かる。


「…えーと確か冒険者への金貸しの話…?」

「ああ〜、そんな話でしたね。とは言ってもお金を南部辺境内で回してるだけで儲けとかは特にありませんが」

「外にお金を回さず労働力を雇えるのは良いですが、私兵団が借金取りみたいな事になってますよ?団長としてこれで良いのか不安ですよ全く…」


「働かせずに放って置いたら盗賊にでもなりそうだし治安維持には大切な事ですよ。冒険者が多くなりましたが南部辺境の主戦力はハーディス家の私兵団ですから」

「いや、主戦力はノーブル様でしょ?湖に引きずり込まれてから魔獣を制圧する人なんて聞いた事無いですよ」


「水辺に対応した魔法が多いんですよ僕は。冒険者として稼げるのもプルー湖周辺だけでしょう」

「……まぁ、そういう事にしときましょう、あっ、あと近い内にギルド本部からノーブル様に対し視察が入るそうですよ」


「ああ、ランク昇格についてですね。聞いています。本部…って事はガルダ王国なら王都からか、ご苦労な事で」


「その件で何ですが、私兵団の諜報から連絡が…あー…アディはちょっと…」

「む…少し待って下さい、注文の品が用意出来るので…」

紅茶をカップに注ぎながら答えるアディ。


「あっ、アディちゃん今日は日も落ちたし、それ運んだら看板を店に入れて終わりでいいよ。工場の友達とゆっくりしてて」

「え?掃除は?」

「ん?まぁ、たまには1人でやるよ」

「ダメですよ、私もやります!パパ今日こっち泊まってくから!よろしく!」

「え?僕の晩御飯は?」

「おい、シベック。娘のお泊まり宣言より晩御飯ですか?」

素のシベックの反応に呆れるノーブル。


「今日の昼食会の残りがまだあるからパパはそれ温めて食べて…あっ用意出来たんで行ってきまーす」


「まぁ、あの魚のシチュー美味いんで良いですけどね。別に…」

「良いのか…」

トレイに注文の品であるお茶を乗せてカウンターを離れるアディにシベックは肩を落とし愚痴る。


「…さて話の続きを」

「アディちゃんを外したからには物騒な話ではありそうですね」


「ええ、監督官の護衛を引き受ける予定だった冒険者が2日前にプルー湖北部の湖畔にて水死体で発見されました」

「…!」

「えっ?」

目を見開くノーブルと思わず声に出すカプノス。


「…水死体ね…外傷は?」

「無いですね、死亡しての発見が早かったのか、顔の形が変わる前に身体を調べましたが外傷らしいものは無かったそうです」

「顔の形?ああ…浴室や水に浸かって亡くなったりすると腐敗した空気で身体が膨らむんでしたっけ?」

カプノスがシベックの返答について確認をする。


「僕も…湖で一度見たことありますが、毛穴から血が吹き出て、顔はパンパン、身元の特定が大変でしたね…温泉に浸かって死ねたら幸せかなって思った事もあったけど、あの死体見たらその気は失せましたよ」

ノーブルは苦笑しながら自分用に入れたカップのお茶を揺らす。


「温泉ですか…ノーブル様が良ければ共同浴場にお湯を溜めた浴室作りましょうか?」

「この話の後じゃなかったら即決してたかなぁ…」

「あっ…も、申し訳ありません…!不謹慎でした…!」

慌てて頭を下げるカプノス。謝罪は店内を気にして小声であったが必死さが窺える。


「いや、気にしないでカプノスさん。それより今度、みんなで獣人族が管理してる温泉にでも行きましょうか?それで評判が良ければ共同浴場に取り入れるのは良いかも知れません」

「おお…!私たちは西部以外あまり知らないので良い刺激になるかも知れませんね」


「まぁ、その話は一先ず置いておいて…私兵団はその亡くなった冒険者を気にしてるんですか?いや、領民だからか?」


「いいえ、一週間前に南部辺境に来た余所者です。王都で活動していた冒険者で、ランクはB−。ジョブは【ヘルプ】」


「ふーん、寄生してランクを上げたタイプか…」


ギルドには冒険者の能力を明確化する為に【ジョブ】がある。

【戦士】や【魔法使い】を想像する者が多いが、既に廃れ統合されている。


【ハント】狩猟や採集を実行する者。

【ガイド】噂話や伝承を解明する者。

【ヘルプ】運搬や解体を補助する者。


その3つで1番評価が高いジョブとランクが冒険者の肩書きとなる。


「自殺か他殺かは別として監察官の護衛については可哀想だけどBのヘルプなら、代わりを用意して話は終わりでしょう?」

冒険者は死因は様々である。それを1つ1つ追っていては辺境の私兵団では手が足りない事をノーブルは知っている。


「残念ながら終わりではないんです。監察官の新たな護衛は【王国騎士団】。その集団がセベク村にやって来るそうです」

「…」

「…」

固まるカプノスとノーブル。悪い事をした訳では無いが騎士が動くという事は仕えている【主】がいるという事実。

監察官と冒険者の護衛だけならギルドという枠内で済む話が一気に崩された。


「…」


ノーブルは話が長くなりそうだと口の中を潤す為にカップの液体を口に含み舌で転がす。

これから起こる喧騒を予想して紅茶の味とは別で苦い顔をした。


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