第54話 治安維持
夜の森、蛍の光がチラつく暗闇で松明を片手に走る青年。
「こっちへこーい」
不気味な景色に間抜けな声が響く。
それを追う様に黒い脚が蠢き土を蹴る。バキバキと周りの木をなぎ倒して進む。
「アレ?アディちゃんそっちいった」
松明を掲げたノーブルから間抜けな声が響く。
「えっ!ちょっ!?いやぁあ気持ち悪いぃい!!」
『ピィールルル!』
【魔獣ヒッポグリフ】に跨がるアディは悲鳴をあげて逃げ出す。追いかける黒い塊の群れ。
『チキチキチキチキチキチキッ』
【魔物ウンゴリアント】
見た目は巨大な毛深いクモ。
普段は暗闇に潜み、光に反応して獲物を捕らえる。
光れば何でも喰らうため、共食いもするし、炎にも飛び込む【生物】として狂っている【魔物】である。
単体はCランク。夜や洞窟などの暗闇に潜むため倒しにくい敵である。
「アヒル隊長退避ー!ノーブル様から離れるように!」
『ピィッ!』
アヒルは翼をたたみ馬と同じように走るが動きが鈍い。密集した木が邪魔で翼が使えない森では動きにくい様子である。
「どわぁっ!追いつかれる!」
アディは灰色のローブに手を突っ込み短剣を取り出すと装飾の一部を捻る。カチンと音が鳴る。
追いかけて来る戦闘の巨大グモに向かって短剣を構える。
「さようなっラァッ!」
『チギィヂィッ!?』
パァンッと短剣から弾ける音と共に巨大グモが怯むが追いかける脚を止めない。しかし、一体の徐々に動きが鈍くなり、群れの進行を妨害する。
「ノーブル様ぁまだですかぁー?」
背後に迫る巨大グモを見ながら駆けるアディ&アヒル。
「いいよー、そのまま僕の背後に回ってー!」
「はーい!」
ダダダダダッとクモの群れに追われる形でノーブルに向かうアディ&アヒル。そして通り過ぎる。
ノーブルが巨大グモの群れと正面から対峙する。
「【大涙剣プルートーン】破壊の弓と化し、弦を鳴らせ」
ノーブルは【青色に輝く石の大剣】で地面を叩く。するとノーブルの正面の景色が歪む。
キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイン
ノーブルの前方にだけ響き渡る音。
『チキチキ!?』『チッキィ!?』『チキチキチ!?』
動きを止めて騒ぎ悶え出す巨大グモたち逃げたくても、逃げるという選択肢が判断できない。
「放て【破滅の青き瞳シヴァ】」
ギィンッ
『『『ッ!?』』』
一際高い音が響いた後、巨大グモはピクピクと痙攣し、ひっくり返る個体、そのまま崩れ落ちる個体、動きは様々だが最終的には動かなくなる。
ノーブルの背後からヒョッコリと顔を出したアディはひっくり返って死んでいる巨大グモたちを憐れむような表情で見る。
「うわー非殺傷でも【ストレス】で死んでしまうって無茶苦茶な魔法ですよね…ノーブル様の【音響魔法】って」
「うーん、まぁねぇ」
「うわぁ、クモだけじゃなく草木も死んでますね…あぁ、この木も…そのうち腐りますね」
見た目は変わらないが【妖精族】のアディには分かるらしい。
「不便だよなぁ…人には使いたくないし周囲にも気を使うから、使い辛い…今の【シヴァ】とかは特に」
青い石の剣を背中に背負うとアディに向かい合う。
「でも毒でも無く、無傷で倒すから素材採集としては優秀ですよね」
「どうだろうな、ストレスで色変わる奴とかいるから」
「うえー、そういう生々しい話は嫌ですよ」
舌を出し苦そうな顔をする。
「ふむ、それでアディはどう?武器の調子は」
「【バルサミーナ】ですか?問題ないですね。それにしても銃って便利ですね。私でもそこそこ戦えますから、まぁ…ノーブル様がいてこそ動けますが」
「敵を引きつけて逃げ回る役がいるだけでだいぶ楽だから助かるよ」
そういってノーブルはアディの持つ短剣を見る。
【弓剣バルサミーナ】
アディの持つ植物の装飾がされた短剣である。
付属している【仕込み銃】は火薬を使用しない【空気銃】の一種である【麻酔銃】。弾は【ダート(矢)】。
短剣の刃と握りが分かれる【中折れ式】になっており銃床二つに折れ弾を入れ戻した時にテコの原理でスプリング圧縮し空気を溜める。
6年前にノーブルが手に入れた帝国の仕込み銃を持ち帰ったものの、火薬も弾も製造していないガルダ王国では死蔵する事になるため、ドワーフのアイザラと帝国出身のシベックと共に分解、研究し火薬を使わない【遊戯銃】として開発した。
3人で遊んだ後には結局は死蔵する事となる。さぁ片付けようか。そんな時、遊びたい盛りのアディに見つかった。
最初はコルクを詰めて遊んでる程度であったが成長するにつれ護身用として魔改造していき今に至る。
「そういえば銃のダートって何の毒?」
「【アコカンテラの樹液】と【ヤドクガエル】ですよ。カエルも飼育できれば楽なんですけど、何故か飼育すると毒が無くなっちゃうので野生を捕獲しないと行けないんですよね…」
「プルー湖東部にある獣人族が使ってる【僧侶のフード】じゃないんだな」
【僧侶のフード】つまりはトリカブト。
「そりゃあ東部に行って採取するより南部で取れるもの使った方が楽ですから…それよりこのクモどうします?多少の毒ならアヒルにエサにしますが…」
「んー、ちょっと待ってな、ふーっ…せいっ!」
ノーブルは背負った剣を持ち直し一閃。
「おおっ」
ズルリと【魔物ウンゴリアント】の腹が切り裂かれると鉱石や装飾品、金貨銀貨などが緑の血や粘液と一緒に地面に溢れる。
「…うーん、依頼内容って何だっけ?」
昨日の昼に引き受けた依頼された内容を思い出すノーブル。
「えーと【でっかいクモに襲われて積荷を置いて逃げた。積荷の回収を出来るだけお願いしたい。報酬は回収した積荷内容次第で検討する】ですね」
「うーん曖昧だな…」
ノーブルたちは現在の場所はプルー湖の北西。村は無く、中間に私兵団の駐屯所があるだけでひたすら舗装路が続く。
「今日の朝から探索してますが指定の場所には積荷は無し、一応、クモの痕跡を追ってみた結果がコレですから間違い無いのでは?」
「どうだろう、【クエスト詐欺】っぽいなぁ…襲われた行商の噂を耳にした無関係な奴が依頼したような」
「ああ、何回か騙されましたんでしたっけノーブル様が冒険者成り立ての時に」
「ふーむ、本職は情報屋とかかねぇ…とりあえず全部確認する…よっと!」
ズパンッと青い閃光が走る。巨大グモの腹が割れる。
「よくそんな大きい剣を一息で触れますね」、見た人から
【魔剣フリークダイヤモンド】何て言われてますよね?」
【フリークダイヤモンド】
グラム・ダーインスレイブ・バルムンク・ティルヴィング・レーヴァテインといった神話に登場する魔剣の一つ。
「魔剣ねぇ…」
ノーブルは大剣をグルンと回すと肩に乗せる。
【大涙剣プルートーン】
武器の素材して扱えない金剛石の様な、それに近い素材を加工した武器。【何故か】折れない。故に【魔剣】とノーブルの大剣を見た者は言う。
「ホント綺麗な剣…私にもお揃いの作って下さいよ〜」
アディは目をキラキラさせてノーブルの【大涙剣】を見る。
「こらこら、見惚れるなよこの石っころは曰く付きで危険何だから」
「曰く付き?」
「手にした者に不幸が訪れる、幸せの絶頂から一気に海底に沈むとか…かな?」
「いや、ノーブル様普通に持ってるじゃないですかぁ」
「いやいや、凄い不幸じゃん。こんな夜遅くまで仕事してさ」
「明日は休日何ですから頑張りましょうよ。北西の治安が確認で来たら北部と西部の駅が開通されるんですから!更に儲かりますよ!」
「人員増やす事になって僕の給料減るだけじゃない?」
「…」
「フォローしてよぅ…あっ、後はコイツで最後だな」
ノーブルが【大涙剣】を振るう。
ズガァァンッ
「あん?」「何か変な音がしましたね」
デロリと巨大グモの腹から金貨など光りもの一緒に鉄の箱が現れる。
「何だこれ?鍵付きの箱…か?…金属製の【ウォード(突起)錠】か…鍵が無いと開けるのは無理…」
ガチャンと錠の部分が外れ落ちてしまう。
「ノーブル様の剣撃で壊れてますね」
「…まぁ、事故だな…さて中身は………袋?」
ノーブルは鉄の箱を足で蹴って開ける。巨大グモの体液で手が汚れるのが嫌だったらしい。
「袋の中身何です?」
ノーブルのコートを摘みながら声をかける。
「ちょっと待ってて、えーとだな…葉っぱ、何だろ茶葉かな?」
「葉っぱ?見せて下さい………あー」
アディは袋から葉っぱを1枚手に取るとクルクル回し観察する。
「アディ?」
「【カート】ですね」
興味深そうな表情から一気に落胆した様子。
「ふーん、ん?何かの書類で見た気が…」
「南部辺境ではハーディス辺境伯家が規制している植物の葉です」
「…それは…あー、【密輸】か、何か面倒臭い事に首を突っ込んだ気がする」
嫌そうな顔をするノーブル。
南部辺境では多くの種族がいるため、部族間の衝突など争いのキッカケになり得る精神刺激薬の素材の規制が厳しく行われてる。
「お酒を飲み慣れてる方には効果が無いそうですけどね」
「なら僕とシベック効果テキメンだなぁ…嗜好品に縁がない生活してるし」
「昔の部族はこの葉っぱを【お金】代わりにしてたらしいですよ」
「タヌキもキツネも化かす必要が無くていいね」
「それでどうします?」
「うーん、重要参考人として依頼した人は捕縛するように私兵団とギルドに頼むわ」
「依頼主が積荷と関係ない人だったら、とばっちりですね」
葉っぱをクルクルと回しながら微妙な表情をするアディ。
「ネコババしようとした天罰が落ちたんでしょ」
ノーブルが肩をすくめるとアディは苦笑する。魔物や魔獣を倒すだけで平和が守られる訳ではない。そんな事を共感する2人であった。
【戦闘結果】
ウンゴリアント8体討伐。
ーGETー
ウンゴリアントの大顎
ウンゴリアントの粘液
ウンゴリアントの腹部から出た金品・計300万相当
ーLOSTー
ウンゴリアントの脚など
その他はアヒルが消化。
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