=勇者帰還騒動=
第16話 聖女の噂
ガルダ王国【王都アガディール】。
赤色の城壁、赤色の屋根の街に彩られた王都の象徴である王城。
その王城のある一室、様々な骨董、調度品が並べられた美術館の一部と思わせる部屋の奥、幅広でいかにも高価そうな木造の机には大量の書類、側には疲れた顔した2人の男性。1人は机の椅子に、もう1人は立ったまま書類に目を落としている。
机の主で白髪交じりの男は椅子に腰をかけ、ここ数年、正確には4年前から大きく躍動する国情の対応に追われていた。
「えーと…これは…ああ【お隣さんの勇者一行と調査隊】からの申請?なになに…獣人族の村に娼館を作れ?プルー湖・西部の【樹海】の案内しろ?……バカなの?」
「バカですね、獣人族は性に寛容でイイ男となら一夜の付き合いは金が払わなくてもするそうですよ?女性も逞しいですから夫いなくても子供多いのが普通らしいですし…」
「まぁ…いつ間にか子供いっぱい出来てて定住する冒険者の話は有名だしな…つまり申請してくるのは求められない男の苦情か…知らんわそんなもん。」
そう言って書類を【形だけ検討する用の箱】にポイ捨てする。
「はい、次です。宰相」
「宰相言うなよ………えーと…商会、行商人からは…えーとプルー湖東部で取れる【銀粘土】【氷晶石】【竜鱗石】の貿易って…そんなん私が何度もハーディス家に交渉しとるわ!!」
「宰相、その申請と同じくらいハーディス辺境伯から脅迫に近い【苦情】も来ています。」
「ひぃいいい!!…もう嫌だ…まさか私が務めてる時に【魔王】が出現するなんて…って宰相いうな!」
【魔王が出現した代の宰相は早死にする】という逸話を笑い話に酒を飲んでいた頃の自分を殺したくなる。現ガルダ王国の行政やら大法官を兼任する【カピストラーノ=ロッソ=プレッチャ侯爵】。最近、ストレスで過食気味らしく腹がでてきたと嘆く。53歳。
「というより本来、宰相とか言われるべきなの【大家令の双翼】あれ?【双翼の二公】だったか?とにかくあの公爵家だろう?なんでその下の【大法官】の私【第一大蔵卿】の君なんだ?枢密院議長は首飛んだせいで行政全部こっちに来て本当に死にそうなんだが…!?」
喚く宰相と呼ばれてるプレッチャ侯爵に立ったまま苦笑するのは、財政を担当する【第一大蔵卿】を兼任する【ラモン=ロッソ=ブラウン伯爵】。最近、飲み過ぎで腹がでてきたと娘に叱られた。52歳。
他国からは【本物の双翼】など仕事頑張ってたら、王族に成り代わる可能性のある【大家令】の称号を持つ【2大公爵家】より一目置かれてしまった2人である。
4年前の【魔王・冥王トーン出現】はガルダ王国の公表からヒノ大陸全土に瞬く間に広がった。
出現地帯である、ハーディス南部辺境伯領・プルー湖東部では
【冥王トーン】が連れてきたとされる【屍喰らいの幻獣アメミット】が大暴れした高原地帯は【アメミット台地】と呼ばれる様になり、今なお実力派の冒険者・各国の調査隊・称号欲しさの勇者一行が押し寄せている。
その【アメミット台地】では現在、様々な問題が起きている。
まず4年前
【王命】によりプルー湖周辺で発見されたミスリル鉱石の調査に行った調査隊と勇者一行は【冥王トーン】と遭遇、闘い敗北した。というのが王国内部での一般的な見解である。
しかし、真実は違う。
ミスリル調査は行っていたが、【冥王トーン】と共に現れた【魔獣】の群れに逃走。
調査隊と共に【勇者一行】には【王族】【2公】の息子たちがいた。まず案内役に雇われていた冒険者パーティーが足止めしたが消失。そして王国騎士団。と逃走するだけでほぼ壊滅状態に陥ったそうだ。
そのまま壊滅すれば良かったのにプレッチャ侯爵と思う。
壊滅に追い込まれていた【勇者一行】が逃走に選んだ道プルー湖とは反対の獣人族の村に向かう舗装路だった。
本人たちは「走りやすい道を走っただけだ!」と言い訳していたが、「そんなん【魔獣】も走りやすいだろうが!安全の為の道に入って来るんじゃねぇ!!」っと貴族学校でブチ切れた生徒が謹慎を喰らったらしい。
ちなみにハーディス家の長男である。
そんな舗装路に【魔獣】連れて走って来る【勇者一行】にハーディス辺境伯爵家の私兵団が慌てた。
舗装路の先には【領民の村】だけでなく【護衛対象】もいるだから。
幸か不幸か【勇者一行】はハーディス家の私兵団のおかげで【魔獣】の群れから逃れた。
そして、ここからは先は内容は余り詳しく知られていない。
Aランク【屍喰らいの幻獣アメミット】撃退。
報告では
ガルダ王国王位継承権第2位【王子】【メラハ=ヒノ=ガルダ】
【双翼の二公】ヴェルメリオ家の次男【アルトゥ=ヒノ=ヒェール】
が協力して撃退したと報告され、王都は「エンヴァーン様に継ぐ勇者誕生が!?」と色めきだっている。
ちなみにこの噂はギルド関係者だけでなく、貴族であるプレッチャ侯爵、ブラウン伯爵すら全く信じていない。
ハーディス家が何も言わないのは【幻獣撃退した勇者の噂】で盛り上がってくれた方が都合が良いからだ。
【屍喰らいの幻獣アメミット】の【屍喰らい】という死体を食べる習性を持つとギルドに報告したのはハーディス家の私兵団である。
倒したと言い張る2人からは元からギルドが持っていた情報よりも頼りないものだった。
次に
グリジオカルニコ=ロッソ=ハーディス
今年で6歳の存在。
【勇者一行】の3人に露見されていた情報から王族・貴族がは「お前ら暇なの?」っと思うくらい調べ上げたらしいが、なぜ【アメミット台地】にいたのか私兵団と一緒いたのか出生に至るまで謎であった。
ただ【双翼の二公】ヴェルメリオ家の三男【オラーン=ヒノ=ヴェルメリオ】から【ハーディス家の次男と思われる男の子が大事そうにしていた】という情報から【妹】か【養子】【隠し子】はたまた【奴隷】など貴族のお茶会ではたいそう盛り上がったそうだ。
【婚約者】というのが出なかったのは、ノーブルが貴族であり、いずれ長男と同様に王都の学校で見繕うのだろうという意見が占めていたからであろう。
そして、去年ハーディス家が【噂の女児】王都にお忍びで現れたとの情報に王族・貴族、ギルドに商会などまでもが金とコネを使って情報収集した。
結果
「ハーディス家コワい」
情報を探ろうとした人物たちは翌日には【不幸の手紙】が送られた。
国王は頭を抱え、貴族は寝込み、冒険者ギルドのギルド長やら商会の会長はハーディス家の王都屋敷にお詫びの面会が出来るまで門の外で待ち続けることになったそうだ。
ちなみに教会はこのことに関してはほぼ無傷である。王都にある【教会の祭壇】を使うこと【神信魔法】をハーディス家と私兵団の人員のみで行うと事前に連絡が入っていた。
【神信魔法】に紛れて盗み見をしようとした聖職者は【大法官】であるプレッチャ侯爵が首を飛ばしている。
元は聖職者としての仕事を主にしていたプレッチャ侯爵である。教会にも親族が多くいるため今回の件は徹底していた。
それだけの【対価】も貰っていたというのも勿論あるが…
知った情報はあるとしたら【神信魔法】の【結果】に【全員】が「ですよね〜」みたいな何かを諦めていた顔であったことか。
その夜、ハーディス家を招待した国王が冷や汗を浮かべながら、王城の磨き抜かれた輝く大理石の大広間に向かった。
その大広間で豪華絢爛を尽くした色とりどりの料理が並ぶ夜食パーティーで【彼女】は現れた。
まず初見で顔の青い入れ墨に皆がギョッと目を見開いて驚く。中にはグラスを落として割るものもいた。
しかし、入れ墨は直ぐに気にならなくなった。それ以上に美しいものに囲まれていたからだ。
美しく青く輝く【蒼玉】の瞳。
薄桃色にきらめく【紅水晶】の髪。
白と青が薄く重なる【金剛石】と【緑柱石】を散りばめたように輝く丈の長いドレス。
そのドレスを大切そうに摘み上げ【入れ墨の姫】の後ろから付き添う子供がいた。
フィレット=ロッソ=ハーディス2歳
こちらはガルダ王国貴族らしく【国色の赤】のドレスに灰色の髪の左右で纏めて女児特有の可愛らしさがあった、しかし顔は「ドレスを床に付けてなるものかー!」と緊張している様子であった。
誰も目を奪われる中、我に返った者たちは、いくら貴族でも娘に召し使いの真似事させるのは如何なものかと怪訝な顔をし始めた。
そしてハーディス辺境伯爵家の当主である。グリス=ロッソ=ハーディスとその長男である【貴族狩り】のジャンテが現れた。
国王含む、参加者たち…ハーディス家の情報を探っていたものに緊張が走る。
「皆さん存知上げてますでしょうが…我らが先祖代々守り抜いてきた領地であるプルー湖を含む南部の土地は【魔王】によって危険と不安に侵されています…我が愛する息子も手にかかり帰ってきません。」
そう言って周りを見遣る。「オレの息子が大変な時に何してんだ?ああん!?」という意味も込めて。
「そして本日、その息子であるノーブルが【見つけ】、あの【魔王の日】から守り抜いた。【我が娘】を紹介致します。ではニコご挨拶を」
「はい、お父様。」
その言葉には正式に【養子】として迎えたという意味を受け取った参加者たち。
グリスの言葉に短かく返事をし、微笑むと顔の入れ墨は妖しく蠢きいた様な錯覚を起こし、またしても我を失い目が奪われる参加者。
「ただ今、お父様より御紹介に与かりました。グリジオカルニコ=ロッソ=ハーディスでございます。」
透き通る声、まるで物語で謳われる人魚の歌声の様に。宴の参加者を魅了し
「そして本日、教会にて【冥神】様より【冥神を祀る聖女】【冥王より帰還し縁】【勇者の伴侶】を授かりました」
驚愕させたのだった。
1年前、あの夜の宴に受けた衝撃を振り返るプレッチャ侯爵にブラウン伯爵は質問する。
「あれって最低でも【あの子】が生きてる内に魔王は倒されて、倒した勇者と【あの子】は結婚するって神託の解釈の仕方でいいんですかね?」
「まぁ…そもそも本当かどうかも分からないならな」
「…!?…むっ!今更ですが、それ大丈夫なんですか?宰相」
「宰相はやめろって…大丈夫じゃないさ、ただ限界だったのさ」
「限界?」
「【魔王】が出たとは言え、自分の領地に王国に住んでる者だけでなく、各国の調査団やら勇者のガキ共が騒いで領民に迷惑かけてたんだ。分かるだろ?自分の家の前で他人のガキが騒いで、保護者が出てこないんだぞ、それも3年だ」
「ああ…限界って堪忍袋の帯でしたか。」
「私らは八つ当たりを食らったんだ、「本物の勇者がそのうち来るからお前らの力はいらない」ってさ」
「…それだと逆に子供は我こそわ!ってなりません?」
「なるな、それで勝手に死ぬ」
「…ダメじゃないですか」
「だが文句は?」
「………言えませんね」
馬鹿だから死ぬ、故に【勇者一行】
「本当…恐ろしい聖女様だよ…」
「でも貴方と私の孫の義妹さんでしょ宰相?」
「本当…恐ろしい家だよ……宰相いうな…」
ジャンテは去年、成人の儀を終えて、今年結婚している。
妻は
正妻にベルリーノ=ロッソ=プレッチャ
第二夫人にロザート=ロッソ=ブラウン
彼の【貴族狩り】の意味は伊達では無かった。
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