★★★ Excellent!!!
ミステリと物語の幸福な融合によって演出される、ある決定的な破局 戸松秋茄子
もしも、あなたがまだ本編に目を通していない場合、このレビューを読むのはお勧めしません。ミステリーは何の先入観もなく読むのがベスト。評者がいくら表現に気を使ったところで予断は生まれうるものです。Excellent!!!の文言を信じてまず本編に目を通してください。いいですね?
賢明な読み手が去ったところで、告白しましょう。当初は安易な「額縁」を使ったものだなと侮っていたんです。それがまさかこんな展開になるなんて! その真意が明かされるに至り、まんまと作者の術中にはまっていることに気づかされました。それも、ただ驚きがある、というだけでなく、この構成そのものがある登場人物の心情、ためらいを表象する小道具として機能しているではないですか! また、ある関係性のミスディレクションに心理的な必然性があることも見逃せません。
どんでん返しはときに書き手を盲目にします。自信のあるアイディアであればあるほど、特定の形に固執することになり、かえってバレバレになったり、整合性の面で破綻が出てきたりということがままあります。その点、この作品はいい意味で力が抜けており、自然体でプロットにひねりを加えることに成功していると思います。
短編小説とは、ある特定の瞬間を切り取ることに長けた表現形式です。その瞬間に向けた効果の集中。それこそが短編の本分と言えるでしょう。本作において、それはある男女関係の決定的な破局という形で訪れます。その瞬間の鮮烈さはこの「額縁」でこそ演出しえたものであり、物語とミステリが幸福な融合を果たした結果に他なりません。
うっかり、本編の前にこのレビューを最後まで読んでしまった、そこのあなた! まさかとは思いますが、このまま本編を読まずに引き返したりはしませんよね? いってらっしゃいませ。願わくば、拙文が幸福な読書体験の障りとなりませんよう。