週刊少年 ???



 ホームルームが終了し、あっという間に放課後になった。結局、カミハラからは「謎の漫画が送られてくる」以外の情報は得られなかった。しかしそれでも、休み時間中に我らが白本さんにこの話をしたところ、快く引き受けてくれた。いつもすみません、という感情が湧いてくる。


 おれと剣也、白本さんの三人で集まると、早速カミハラのクラス――一年A組に向かった。


「そういえば訊きそびれちゃったんだけど」


 歩きながら白本さんが尋ねてくる。


「各務原くんってどんな人なの?」

「オタクのイケメン」


 剣也がこれ以上ないくらい完璧な答えを述べた。おれもまったく同じことを言おうとしていたのだ。


「アニメとか漫画の話になると熱くなって、若干めんどくさくなるけど、基本的に良い奴だよ」

「もちろんアニメや漫画が絡んでも良い奴だぜ? 漫画貸してくれたり、今期のおすすめアニメを教えてくれたりするからな」

「そうなんだ。わたし、アニメとか漫画とかよくわからないんだけど、大丈夫かな?」

「心配ないよ。別にオタク以外のすべてを敵視しているような奴じゃないから。それにおれもそこまで詳しいわけじゃないしね」


 ただ、カミハラが日常的に吐くネタの影響でそこそこ詳しくなっている。

 A組を覗くとノートやら教科書をバッグに突っ込んでいたいたカミハラと目が合った。おれが手を上げると、カミハラは急ピッチで荷物をまとめてこちらにやってきた。


「連れてきてくれたのか? 眠りの――じゃなくて白本由姫さんを」

「ああ」

「で、どこにいるんだ?」


 きょとんとした顔で辺りを見回すカミハラ。


「あっ、えっと、ここにいるよ」


 おれの後ろで白本さんがぴょんと跳ねた。どうやらおれと剣也が並んだことで小柄な彼女を隠してしまっていたらしい。二人でさっと左右に避けた。

 白本さんと対面したカミハラは目を見開いた。それから自らの顎を手に添え、白本さんを色んな角度から凝視する。


「え、ええと、何かな?」


 困惑した表情で白本さんが言った。

 その一言で我に返ったらしいカミハラは心の底から申し訳なさそうに何度も頭を下げた。


「ああ、すまない。本当にすまない」

「おいおい、カミハラ。いまのは『ただしイケメンに限る』も流石に通用しないくらいのガン見っぷりだったぞ。白本ちゃんを鑑賞するために呼んだのか?」


 呆れ気味に剣也が言う。

 カミハラは慌てながら眼鏡の位置を正し、


「……すまない。ただ、すごいなと思ってな。まさか彼女のような存在がいるとは」


 そのまま白本さんを真っ直ぐに見据えた。


「白本さん、君って存在が二次元っぽいね」

「え!? あ、ありが、とう……?」


 カミハラの謎の台詞に思いっきり首を傾げる白本さん。お礼は言ったものの、褒められているのかわからず疑問符が付いている。


「白本さん、いまのはカミハラ流の最大級の賛辞だから」

「そ、そうなんだ」


 しかしカミハラが言ったこともわからなくはない。白本さんの持つ独特の雰囲気は、その浮世絵離れした容姿と相まってどことなく二次元のキャラクターのように錯覚させる。


 白本さんはカミハラと出会って五分も経ってないうちに振り回されまくっているけれど、こんなんで謎解き(?)に協力してくれるのだろうか……。まあ白本さんならきっとしてくれるんだろうが。


 ぱんぱん、と剣也が手を叩いて自己紹介(?)を打ち切った。


「カミハラ、そろそろ本題に入ろうぜ。昼間言ってた謎の漫画の件についてだ」

「ああ。漫研の部室に現物があるからそいつを見せよう。ことのあらましについては移動しながら話す。……というか白本さん。相談に乗ってくれるのかい? 俺、大分あれだったけど……」


 流石に失礼をしたという自覚はあったらしい。これに白本さんはいつもの柔らかい微笑とふわふわした声音で答えた。


「うん、びっくりはしたけど、気にしてはないから」


 よくできた子である。


「いや、本当にごめん、白本さん……」


 カミハラは何度も謝った。



 ◇◆◇



 漫画研究会の部室に向かいながらカミハラの話に耳を傾ける。


「最初に漫画が送られてきたのは、ちょうど三週間前だった。いつものように俺は部活の先輩たちと遅くまでアニメの話で盛り上がっていた。今期は『リゼロ』がいい感じだ、とか。やっぱり最終的には『ジョジョ』でしょ、とか。今期のアニメも終盤だというのに二クール以上の作品の話をするのも変な話だったがな。もちろん来期のアニメの話もしたぞ? 『ラブライブ! サンシャイン!!』が遂に始まるな、とか。μ'sは不滅だ、とか。あ、当然漫画の話もした。『鬼滅の刃』には期待している、とか。『BLEACH』随分と長いこと最終章やってるけど流石にもうすぐ終わるよね、その前に月島さん出てくるよね、とか」

「楽しそうで何よりだけど大分脱線してるぞ」


 いい加減つっこむと、カミハラは取りなすように咳払いをした。


「アニメや漫画の話になると、つい、な」

「お前が勝手に始めたんだろうが」


 剣也が呆れながら言う。


「話を戻そう。下校時間ギリギリまでそんな話をして盛り上がった俺は帰るために昇降口に向かったわけだ。そして下駄箱を開けると、中に大きめの茶色い封筒が入っていた。覗いてみると、中には半分に折られた一枚のB4用紙に描かれた漫画……というか、Gペンで描かれた一枚絵があったんだ」

「Gペン? 一枚絵?」


 剣剣也が眉をひそめる。知らない単語らしい。おれも一枚絵の方はわかるがGペンはわからない。白本さんが口を開いた。


「Gペンは漫画を描くためのペンだね。先が尖ってて、そこにインクを付けて使うんだよ」

「その通り。けど最近はデジタルが主流だから、Gペンを殆ど使わない漫画家も多い。一枚絵というのは、一枚の紙に背景とキャラクターが描かれた絵だ。まあわかりやすく言えば漫画の扉絵みたいなものだ」

「ふぅん」

「続けるぞ。次の漫画がきたのは二週間前……つまりは最初の漫画がきてから一週間後だな。今度は朝、登校したときに下駄箱に入っていたんだ。こっちは一枚絵じゃなくちゃんとした漫画だった」

「同じ封筒に入ってて、同じ画風だったの?」


 白本さんが質問する。カミハラは頷いた。


「ああ。封筒も画風も同じだったよ。まず間違いなく同一人物だろう。……次が一週間前。この日も二週間前のときと同じ登校直後に下駄箱で見つけた。こいつは一枚絵だった」

「ふむ。下駄箱に漫画が入っていた時間はバラバラなのか」


 剣也が呟いた。カミハラは頷く。


「ああ。たぶんおれが漫画を手にする時間帯は関係ないだろう。俺や『作者』が登下校する時間によりけりさ」


 それもそうだろう。


「ちなみに今朝も下駄箱に入ってた。一枚絵がな」

「ということは、各務原くんは既に四枚の漫画を受け取っているってこと?」


 白本さんに対し、カミハラはこくりと首を動かした。

 ふむ……毎週火曜日に送られてきた四枚の漫画ねぇ。色々謎めいているけれど、とりあえずはそれらを見てみないことには何の推理も……ん? 待てよ。

 おれが思ったことと、次に白本さんが尋ねたことがシンクロした。


「結局のところ、わたしは何をすればいいの? その漫画の『作者』を特定すればいいのかな?」


 カミハラはかぶりを振り、


「そこまではしなくていいよ。全校生徒の中からたった一人の人間を探し出すなんて、流石に無理だろう?」


 いや、割りとその芸当できるよ、白本さん。既に何度かやってるし。

 しかしそれらを知らないカミハラは続ける。


「俺が白本さんに解いてほしいのは、漫画の意味だ」

「漫画の意味?」


 剣也が言葉を反芻した。


「送られてきた漫画、それらすべて意味不明なんだよ。一種の暗号だと俺は考えてる」


 暗号の、漫画……?

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