黒の竜と月の蜜


「月を返して貰いに?

  その台詞を言うのは儂の方だ」


 黒の竜が口を開いて話すだけで――

 熱気が少年の前髪をチリチリと焦がしていく。


 それでも少年は退くことなく。

 ただただ竜を睨みつけていた。


「“太陽”と手を組んで、


 そう忌々しげに吐き出された言葉が、少年の耳に止まる。


 …………


「……今、なんと言った?」


 ――月を奪われた?


 ――“太陽”と手を組んで?


「あの“月の蜜”を口にして以来――

 それ以外の物は、とても不味くて食べられたものじゃなくなった」


 ――黒の竜の虚言ということもある。

 だが、人ひとり襲うのに、いちいちそんな嘘をつくだろうか。


 “太陽”というのが、空に浮かび続けているそれなのか、

 それとも別の何かを意味しているのか。


 少年には判断がつかないからこそ――

 黒の竜の話をもっと聞こうと、そう思えたのだった。


「もともと、食事を必要としていなかったが……。

 どうしても、減るものは減る。空腹になるとイライラしてしまう。

 これはもう――」


 ――呪いと言ってもいいぐらいだ。



                         ~『黒の竜と月の蜜』~

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