第百十四話「フェアリー救出作戦(改)」
視界を埋め尽くす緑、緑、緑。
タンクマンティスの背や腹がところ狭しと並んでいる。
聴覚を塗りつぶすのはやかましい
何匹いるのか分からない程の特攻蜂が奏でる
ここまでは今までと同じ。
絶望的な状況から何も変わっていないように見える。
だが、闇夜を照らす火種のように。
光明を導く光のように。
緑の中に時折見える赤と白。
ディアンドルという名の民族衣装を着たアウィンだ。
カマキリ達の間を飛ぶように駆けていき、青いビー玉をぶちまける。
もちろん、これはラピス。さっきまで俺がやろうとしていたことをアウィンに広範囲でばらまかせている。
そして、不快な
「ふっふふーん! お兄ちゃんエキスを注入したわたしは誰にも止められませんよっ!」
『アウィン、調子に乗るのはやめなさい。アナタにはまだ仕事が残っているんですから』
「羨ましいんですか、ラピスさん?」
『羨ましいんです。当たり前でしょう』
「大丈夫ですよ。お兄ちゃんから任されたお仕事です! しっかりやりきって見せますからっ!」
問題なく進んでるようだな。
ただ、アウィンに効率的なラピスの配置が分かるはずもなく、闇雲にラピスを投げているだけってのは何とかしないといけない。
ま、そこは俺の領分だ。どうとでもなる。
一つ問題があるとすれば。
『元気だねー、アウィンちゃん!』
「ああいうことは俺に聞こえないとこでやってくれないもんかね」
『お兄ちゃんエキス!』
『くぇー』
『羨ましいんだって!』
『かーかー』
くっそ、ステレオで煽ってきやがる。
てか、左からくっついて、くーかー言ってくるハーピーの胸がしゃがんだ俺の肩にぶつかって意識が逸れんじゃねえか。
俺の好みは年上美人だ。
ロリ巨乳はお呼びじゃねえんだよ。
『わー、顔が赤くなってるぅー。なになに、わたしによくじょーしちゃったー? いやらしー』
「お前は有り得ねえよ、チンチクリン。ほれ、アウィンがトパーズを追っていったってことは、ここからが俺達の仕事だ」
トパーズはアウィンがラピスをばら撒く前に、さっきと同じように突撃で数を減らし、そのままローツ北の扉まで逃げて貰っている。
今回は少しだけ仕事を増やしたがな。
トパーズの跳んでいった方向は無残にも木々が薙ぎ倒されている。
新しい指令は目印創造という名の森林破壊。
フェアリー達には悪いが、必要なことだ。諦めてもらおう。
ほら、さっきも
さっきトパーズの通ったルートを再利用してるから少しは破壊を抑えられるはずだし。
大丈夫。心優しい森の住人さんは許してくれるさ。
……許してくれるといいなあ。
主に鱗粉的な意味で。
アウィンがトパーズの作った
その腕や身体に青いスライムは一切見えなかったし、首尾よくアウィンに任せたラピスを全員ばら撒くことはできたんだろう。
ラピスを投げていた際にアウィンへとターゲットを取った敵モブ達がそれに続く。
これでまた、数が減ったな。そうは見えないのが恐ろしいところだが。
トパーズもアウィンも後で《リコール》する必要がある。
ラピスを連れて行くと、せっかく散らしたラピスまで俺のところへ《リコール》することになってしまう。
だが、まっすぐ進むトパーズはいいとして、アウィンはラピスなしだと確実に迷うだろう。
そのためにトパーズが扉までの道を作ったって訳だ。
『俺達の仕事だーって言われても、わたしも鳥ちゃんも何したらいいの?』
『……くぁー』
『そもそも、これでほんとにみんなを助けられる?』
「……お前がサボれば失敗するかもな」
『むむむー。言ったなぁー! いいもん、かんっぺきにお仕事をこなしてあげようじゃないか!』
まただ。またこのチンチクリンは強がる。
今にも襲われている仲間のもとへ飛んで行きたいだろうに、気丈に振る舞い自分の不安を誤魔化そうとする。
痛々しい。
『
「ちょっと集中する。二人のことは任せた」
『……はい』
アウィンに預けていない、残っているラピスにハーピーとチンチクリンを任せて、俺はミニマップと自分の視界に写る風景を照らし合わせていく。
久々に脳ミソを酷使してみますかね。
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カマキリTが左へ旋回。ラピスLかMの有効範囲内。判断保留。
移動中のカマキリJが右の鎌を五十度仰角させた。三十五度以上。あれは攻撃体勢。ラピスに釣られてるな。以降は無視だ。
ラピスD、I、Jの中心にいたカマキリGが動いた。
ミニマップ上の光点がラピスのいる位置。カマキリは肉眼で確認しないといけない。
ラピスが敵を引き付ける有効範囲は半径五メートル。だが、カマキリの影に隠れてしまえばその範囲はより狭まる。
あのカマキリGはどの有効範囲にも入っていなかった要注意カマキリだ。
進行方向は……ラピスL方向か。
こいつはちょうどいい。
「ラピス、チンチクリンを三メートル手前に、左にも二メートルだ」
『了解致しました』
肩にいたラピスがいなくなり、また新しいラピスがその位置へ補われる。
肩にいて、俺の指示を聞いたラピスは今頃、背後にいるラピス達へ伝言を伝えていることだろう。
程なく、ミニマップ上に映る光点の一つが動き出した。
まず手前に。その後左へ。
この光点の正体はチンチクリンの運ぶ一人のラピスだ。
特攻蜂に狙われない範囲でしか動けない制約はあるが、上空から近付けるのは大きなアドバンテージ。
空中戦力を使わない手はない。ハーピーも合わせて二機の爆撃機が手中にあるのと同義だ。
ちなみに、指示の伝達方法はこっちにいるラピスが動くことで伝えている。
大まかな位置に着いたなら、後は俺のハンドサインで。
「今だ」
肉眼では捉えられない。
だが、確実に今、青いビー玉が落下したはず。
カマキリGは食いついた。Tはどうだ。
……よし、狙い通りに動いてくれている。二体のカマキリに囲まれれば特攻蜂も“仕込み針”の敵も手出しは難しいだろう。
これで、俺からおよそ四十メートル圏内の懸念されるカマキリはあと五体。
だが、二十メートル内にはいなくなった。全てのカマキリと蜂はどこかしらのラピスへと攻撃を仕掛けている。
「十五メートル前進する。問題無ければ更に五メートルだ」
『ハーピー達は呼び戻しますか?』
「ああ。頼む。また特攻蜂の位置を確認しなくちゃいけない。それまでは俺達の近くにいてもらった方がいい」
『了解です。伝えてきます』
……ふう。
これでやっと二十メートルか。
フェアリー達のいる場所まではあと五十メートルほどあるか。
残り三回ってとこだな。
後ろから敵が迫ってくる可能性もある。
迅速に。かつ慎重に。
気を引き締め直した方がよさそうだ。
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