第百十三話「状態異常なら仕方ない」
「っと、とと!? ここは……って、ラピスさん! 早く、早くラピスさんを……! あ、お兄ちゃんっ! ラピスさんが! ごめんなさい、わたし、またドジしちゃったみたいで……。と、とにかく大変なんです! すぐに戻らないと!」
アウィンの《リコール》はどうやら間に合ったようだな。
だが、混乱というか、
だが、今はアウィンを落ち着かせるよりも先にやらなければならないことがある。
『おい、アウィン! 何焦ってんだ、お前はよぉ!』
『ええ。ワタシがどうしたって言うんです?』
「トパーズさんと、ラピスさん! 大変なんです!」
『何がー?』
『……くぇー?』
「すぐ、すぐに戻らないと。ラピスさんが死んじゃむぐぅ!?」
「とりあえず、これを飲め。毒になってりゃ頭も回んねえだろが」
アウィンのステータスにハッキリと浮かんでいるアイコンは
テイムモンス達、ESOの住人にとってステータス異常はリアルなもの。毒になれば身体的ポテンシャルが落ちるし、正常な思考も失われる。
俺やトパーズ、チンチクリン達がいるのに《リコール》されたと気付かないのが何よりの証拠……って訳でもないか、アウィンだし。
ステータスが正常でもアウィンのオツムでは気付かない可能性が高いな。
癒香のところで買った、丸薬状の黒い解毒薬を摘み、アウィンの口の中へ押し込む。
これを飲めば一瞬で毒は消え去る。毒が回るのも消えるのも一瞬ってところはゲームだよな。
って、うわ、アウィンの眉がわかりやすく下がってきた。
アウィン、解毒薬苦手だからなぁ。
おいコラ、苦いのは知ってるが、ちゃんと飲め! 俺の指を舌で押し返してんじゃねえよ!
今度は涙目で見つめてきた。泣き落としか? そういうのはもうちょっと成長してからするんだな。
残念な胸元へ
「んじゃ、HPも減ってるし、その解毒薬はHP回復薬で流し込んで……アウィン、さっさと指を放せ」
「んむむむむぅー!」
またか。
アウィンが毒になった時はいつもこうだ。
テンパり、冷静さを失い、一気に言いたいことをまくし立てるわ、HPは刻一刻と減っていくわで解毒薬を口に突っ込むしかなくなる。
んで、抜く時に何故か抵抗にあうのだ。
舌を指に絡めるな。吸うな。腕を掴むんじゃない。
「らいたい、おにぃふぁんは、いつもいちゅもわらひをないがしろにしすぎなんれふ! もっろいっふぁい、わらしにあまふぇさせてくれらって」
「いい加減にしろ」
「あうっ」
空いている左手でチョップ。その隙に咥えられていた右手を救出する。
うっわ、べっとべとじゃねえか。
「あっ……わたしのご褒美が。至福の時間がぁ……」
「何がご褒美だ。ほれ、さっさとこれで流し込め」
「流し……? うっ、うええぇぇぇ……」
口の中に苦いものがあると気付いたらしい。
全く、世話の焼ける……。
HP回復薬をおちょぼ口になったアウィンの口元へ持っていき飲ませる。
あーもう、口をすぼめてるから飲ませにくい。ほら、少しずつでいいから首を上に傾けて。
『仲良しさんだねぇー』
『ここだけ見れば、ほんとただの兄妹だよな。旦那とアウィン』
『くっ……。ワタシはこのまま精神力を強化されていいのでしょうか。状態異常になれる確率を、
『ラピス姐は相変わらずだな』
『……くーかー』
……よし。これで大丈夫か。
ステータスを確認しても、毒のアイコンは消えている。HPも回復薬のおかげで全快だ。
恐らく、アウィンの食らった攻撃は例の仕込み針。
俺も何時間か前に一度食らって死にかけたやつだな。
俺の
それだけ聞くとアウィンも死にかけるような気がするが、アウィンの極振りは
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
プレイヤー名:テイク
HP 1000/1000
MP 7070/7070
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モンスター名:アウィン
HP 3210/3210
MP 20/20
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
アウィンのレベルは俺よりも低い。それでも、俺のHPに比べて三倍以上の体力を持っている。
700程度のダメージと、200の毒による継続ダメージもそこまで苦にならないのだ。
「アウィン、違和感とかはないな? これからまたひと仕事頼みたいんだが」
「あ、あう……。えと、その」
「何かあるのか? なら、先に言っといてくれよ。後になって対応させられても困るからな」
「あの、お、お兄ちゃんは、さっき、わたしのことを子供っぽいって思いましたか……?」
「…………は?」
何言ってんだ、こいつ。
今は敵の目の前だぞ。こんな無駄な問答してる場合じゃねえんだよ。
しかし、アウィンの目は真剣そのもの。
ほっとけば、作戦に支障をきたす可能性も無きにしもあらず。
子供っぽいか、ねえ。
……。
「オモッテナイヨ」
「うわぁぁぁー! 絶対思ってました! 絶対に子供っぽいって思ってたやつです、それ! ラピスさぁーん!」
『よしよし。
「いや、さっきのどこに大人っぽい要素があったってんだよ!? 幼児体型が幼児退行してただけだろが!」
「うわぁぁぁぁーん!」
『
『ひっどーいっ! ぶーぶー!』
『くぇ! くぅかーっ!』
「んだよ、事実を言ったまでじゃねえか。なあ、トパーズ」
『やめろ、旦那! オレを巻き込むんじゃねえよ!』
なんだってんだ、揃いも揃って。
子供らしいと思われたくないだろうと、嘘まで言ってやったというのに、なんで俺が悪いような雰囲気になってるんだ?
いつもは退屈そうなハーピーにまで怒られた。
いや、あれってただ《光球》を全然出してないから催促してるだけだったりしないか?
試しに《光種》を出してみると、間髪入れずに飛びついてきた。
よし、お前はそこで大人しくしてろ。
「うっうっ、ラピスさぁん……。はっ! そうだ、ラピスさん! 大変なんです!」
『そういえば、ワタシがどうって言ってましたね。何があったんです?』
「わたしが逃げてる途中でラピスさんが消えちゃったんです! きっと、どこかに落っことしちゃったんです……。ごめんなさい、ラピスさん! すぐに戻って助けに行かなきゃ!」
「そのラピスはお前が抱きついてるやつだぞ、アウィン」
「ほえ?」
なるほど。
ラピスを《リコール》で呼び戻した後、アウィンが急に逆走しだした理由が分かった。
頭の上にいたはずのラピスが消えたから落としたと勘違いして戻ろうとしたらしい。
なんとも、アウィンらしいというか、なんというか……。
とにかく、
まず一つはアウィンという戦力が増えたこと。
この点は、純粋な強化だな。選択肢の幅が増える。
ドジを踏まないか見ておく必要はあるが。
で、もう一つが厄介な点だ。
アウィンが引き連れていた大量の敵モブ。そのこれからの動きが分からない。
特攻蜂に関してはローツ北の扉に近かっただろうし、そっちへ向かっていく気もするが、アウィンから離れてついて行っていたタンクマンティスはどこにいるのかすら不明だ。
もしかすると、後ろから迫ってくることだって有り得る。
気をつけておこう。
「あれ、ラピスさん、増えました?」
『アナタも強化されているらしいですよ、アウィン』
「盗める回数が増えたはずだ。んで、アウィンにはこの役目を任せたい」
アウィンが来たこと自体は好都合。
高機動が一人いればやれることは飛躍的に増える。
さて、仕切り直しといこうか。
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