第六十三話「戦法」
From.繭
おかしい。
テイクは何をしているの。
どうして誰も衣装のことを話題にしていないの?
まさか、衣装の着け忘れとか、ないよね。
繭が大会のために一生懸命作った服を着忘れるなんて、ある訳ないよね。
そうだよね、テイク?
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ヤバい。
繭からメールが来た時は頼んでいた装備が出来上がったのかとワクワクしたが、違った。
そうだ。俺は繭から魔王衣装を受け取っているんだった。
トーナメント表を見る時に外したきりで、完全に忘れていた。
ヤバい。
いや、待て、落ち着け、俺。
俺の試合はまだ残っている。しかも、決勝という注目が一番集まる舞台だ。
テイマー部門ってとこで他の職とは比べられないがな。後ろに、当社比ならぬ、当職比と書いておかなくては。
「よし、決勝でお披露目しようとしていたってことにしておこう」
「何のことですか?」
「繭に貰った衣装のことだ」
「あの、格好いいやつですね! どうして着ないのかなーとは思っていましたが、やっぱり考えがありましたか! さすが、お兄ちゃんですっ!」
「お、おう」
アウィンよ、疑問に思っていたのなら言って欲しかった。
とにかく、これで衣装のことは解決としておこう。
次は、今しがた知った商品のことだ。
だが、こっちのことは切羽詰まっている訳でもない。むしろ、いいニュースだ。
俺を応援しに来てくれた、ミルとサラの姉弟と話していたのだが、その時に聞かれたのだ。
もし、優勝すれば何のスキルをセットするつもりなのか、と。
俺としては、ポカンとするしかない。
一体何の話をしているのか、と聞くのが精一杯だ。
その時に初めて、この大会に賞品があることを知った。考えてみれば当たり前だよな。大会なんだから賞品があって然るべき。
ただ、俺にとってこの大会はエリーへラピスとトパーズの強さを見せつける場でしかない。
賞品なんて考えもしなかった。
で、その賞品なんだが、目録はこんな感じ。
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第一回闘技大会テイマー部門
賞品一覧
優勝
スキルリング(任意)
準優勝
スキルリング(固定)
参加賞
超級HP、MP回復薬
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
五人しかいないからか、四位入賞賞品等はないようだな。
その代わり、参加するだけで他の部門でいうとベスト十六位相当のものが貰える、らしい。
テイマー部門ですら知らなかったんだ。他のとこの賞品なんざ興味もねえよ。ミルが言うにはそうらしい、ってだけだ。
で、その超級回復薬なんだが、HPの方はいいんだ。超級が既に作り出されてはいるが、高値で取引されているから参加するだけで貰えるのはとてもありがたい。
問題なのはMP回復薬。どうやら最近、癒香という薬師のプレイヤーが絶級MP回復薬を作り出してしまったようなのだ。
うん、まあ、俺のせいなんだが。
回復値六百は破格の数字で、最前線クラスの魔術師がMPを使い果たしても、これ一つあれば即戦線復帰できるという、プレイヤー
それが、結構な量出回っているせいで、超級MP回復薬はベスト十六の賞品としては微妙なようだ。ミル達は貰えるならラッキーといった風だったが。
そして俺は、現在の時点で準優勝まで確定している。
つまり、スキルリングとやらを貰えることはまず間違いないのだ。そのスキルが任意なのか、固定なのかの違いはあるが。
これはサラの話だが、任意も固定もそれぞれいいところがあるらしい。
任意は、自分の取得できるスキルから一つを選んで新しくセットできる。つまりは、スキルポイントを一つ貰ったようなものだな。有用なスキルを確実に取得できるのは大きい。
それに比べて固定は完全ランダムでスキルが選ばれる。しかも、レベルを上げることすらできないのだそうだ。ハズレスキルを引いてしまったら即ゴミと化す。
だが、任意と違って現存する全てのスキルから無作為に選ばれるので当たりを引くことができれば神アクセとなる可能性がある。
簡単に言えば、《粘着》や《跳躍》がセットされてしまえばレベルを上げることもできないのでゴミアクセ。
だが、《物理攻撃無効》などのLv.☆で有用なスキルだった場合は二度と手放せない神アクセとなる訳だ。
ま、長々と説明したが、最初に言った通り俺にとって大事なのはエリーに勝つこと。それだけだ。
賞品は二の次。考えても仕方ない。
「ラピス、トパーズ、アウィン」
『『…………』』
「はいっ!」
「今日の試合は、俺達の目的を果たす試合だ。相手はエリー。そして“
「わたしはよく知りませんが、ラピスさんとトパーズさんに意地悪を言った人ですよね! むぅぅ、ひどい人です!」
「ああ、まあ、意地悪……。うん、そうだな。大体そんな感じだ」
「はいっ!」
「で、そのエリーを倒すための作戦を今から説明する。耳かっぽじってよく聞いとけよ」
「カッポ汁……」
「……とにかく、よく聞け。んで、覚えろ」
「が、頑張りますっ!」
アウィンに毒気を抜かれつつも、昨日一晩考え続けた作戦を説明する。
エリーの二体目は考えたところでどうしようもない。つまり、この作戦は。
「さあ、行くぞ。目指すは打倒大狼だ」
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「あら、逃げ出すかと思っていたのですが、
「安っぽい挑発だな。あれだけ捲し立てたんだ、来ねえはずないだろ」
「そうなのですか?」
「……もういい。お前と話してると疲れる」
テイマー部門闘技場、そこに
言わずもがな、俺とエリーだ。
観客席は大詰め。別職部門の一回戦負けしたプレイヤーは暇だろうしな。テイマー同士の戦いってだけで興味を持つやつもいるんだろう。
もちろん、エリーの二体目を見に来たプレイヤーも多いだろうがな。すぐに拝ませてやるから待ってろよ。
「これより、第一回闘技大会テイマー会場、決勝戦を行う! 両選手のテイムモンスター入場!」
俺の足元から扉の開く音、振動が伝わる。重厚な扉から出てきたのはその大きな扉にはそぐわない小さなウサギ。
しかし、その姿を見せた瞬間、会場がざわめいた。
サラとの第一回戦がよほど印象強いのだろう。トパーズもこれから有名ウサギだな。
だが、そんなトパーズへの歓声は突如別の歓声に塗り潰された。
俺の真正面に位置する扉から出てきたのは何度か見た仔犬。
それが、瞬く間に巨大化したのだ。
三メートルを超える体躯。チラリと見える尖った牙。鋭い爪には何かの装備がされてある。
こんな狂暴そうな獣が飼い慣らされているなんて信じられないが、首元に付けられた赤い首輪はこの狂狼に飼い主がいることを物語っている。
出たな、大狼。
コイツを倒して、雑魚なんていないってことを証明してやる。
「決勝戦、始め!」
「やってやれ、トパーズ!」
「お行きなさい、リルちゃん」
今、決勝戦の火蓋が切られた。
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