第三十六話「新しい手札」
「初回ソロ討伐報酬ねえ」
チラリと周りを見る。
スライム、うさぎ、女の子。
「ソロじゃねえんだけどなー」
これは、俺がテイマーでラピス達がテイムモンスだからってことなんだろうな。
“
魔法職は論外。距離詰められて詰む。タンク系もジリ貧だろうな。
近接攻撃職も、相手はボスだしパワー負けするだろ。
出来るとすれば、
ま、色んなタイプを連れて行けるテイマーの特権だな。
ソロ報酬が微妙だと意味は薄いが。
初回ってのは全プレイヤーの中で最初ってことなのか、俺個人で初めてってことなのかよく分からん。
これはさすがに、一人じゃ確かめようもない。
で、大狼の魂ってのは、何なんだ?
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大狼の魂 レアアイテム
“
使用すると《ハウリング》が
使用可能となる。
譲渡、売却不可
(一人のプレイヤーにつき
一度のみ入手可能)
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おおう、なんか凄そうなものだった。
使用すると、あのハウリングが使えるとかなかなかロマンだな。
さすがにあの狼と同じハウリングにはならないだろうが、あれだけ苦しめられたハウリングが、今では俺の手札か。
いいね、そういうの割と好きよ、俺。
「そんじゃ、早速使って……いや、待てよ」
「どうしました、お兄ちゃん?」
これ、さすがに一個使えば俺もテイムモンスも全員ハウリングが使えるようになるとか、ないよな?
とすると、誰に使おうか。
俺とアウィンは有り得ない。
俺がハウリングしたところでダメージは微量。むしろ、その分魔法撃ちたいところだ。
アウィンは近付くスピードもあるし、近付いてから連撃するのが持ち味だ。ハウリングで牽制する必要もないし、それで隙が生まれたら元も子もない。
ラピスに使うのは案外アリな気がするんだよな。
分裂して個体を増やし、遠距離攻撃。相手からは色んな方向に敵がいると錯覚してくれるだろう。
しかも、まさかスライムがハウリングを使うなんて思っても……。
あれ、ラピス、ハウリング使えるのか?
待て、使い損とかしたら勿体なさすぎるぞ。一プレイヤーに一個しか取得出来ないっぽいし。その可能性は大いにある。いや、むしろそんな気がしてならない!
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モンスター名:トパーズ
種族:ホーンラビット(Lv.12)
HP 1260/1260
MP 20/20
ATK 74(+10) (used 12)
VIT 5
INT 2
MIN 2
DEX 6(-3)
スキル
《跳躍》Lv.3
《気配察知》Lv.1
《採取》Lv.1
《ハウリング》Lv.☆
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無難って、大事だと思うの。
極振りしてる俺が言っちゃいけない言葉なのは自覚してる。だが、あれだ、状況によりけり。臨機応変。そんな感じでここは一つ。
トパーズは
ただ、トパーズの《跳躍》を使えば遠距離から一気に近付くことだってできる。遠距離攻撃手段は必要だったんだろうか。
なんか、効率悪い気がするんだよな。
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《ハウリング》Lv.☆
自身の咆哮で物理ダメージを与える。
一度の戦闘で一回のみ使用可能
(このスキルのレベルは上がりません)
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「うわ、回数制限まであんのか」
「お兄ちゃん、トパーズさんが喉痒いって言ってます! 大丈夫でしょうか!?」
「ん、ああ。きっと《ハウリング》の影響だな」
トパーズからしたら異物混入みたいなもんか。
トパーズは小さな前足で喉を触ったり、地面に喉を擦り付けたり、アウィンに掻いてもらったりしている。可愛い。
「トパーズ、ちょっといいか」
「こちょこちょーですー。喉のとこすっごい気持ちいいですー」
アウィンに掻いて貰っている状態のまま目だけこっちに向けるトパーズ。
そのまま、ジッと見詰めてくる。何か言ってんのかね? 俺には言葉が分からないからやっぱり可愛い、としか言えんぞ。
「トパーズ、お前、あの狼が毎回最初にやってた《ハウリング》っての、覚えてるか?」
「ほら、あのガオーっ! のやつですよ! お兄ちゃんがラピスさんの影に隠れてた、アレです!」
「間違っちゃいないんだが、他に説明はなかったのか」
まあ、トパーズも分かったらしくコクコクと頷いてるから良しとしよう。
あと、頭の上でプルプルするなラピス。小刻みな振動で
なんだ、抗議でもしてんのか。物理無効なんだからいいだろ。
「お兄ちゃん、ダメダメですね」
「何がだよ」
「乙女心を察してください。ほら、トパーズさんも喉が痒くてイライラしてますよ」
乙女がどうとか、男の俺に言われても無理だ。何を察しろって言うんだ。
「あー、話を戻すが、トパーズ。お前、あの《ハウリング》やれるはずだからやってみ」
「……いや、お兄ちゃん? そんなこと簡単に出来るようになるはずがないですよ?」
『…………』
「うんうん、そうですよね! もっと言っちゃってください、トパーズさん!」
『…………』
「あ、あの、トパーズさん? それはさすがに言い過ぎでは……」
『……』
「あーあー! わたしは何も聞こえませーんっ!」
いつものことだが、何いってるか分からん。てか、さっさとやってくれねえかな。
少しイライラし始めたところでラピスが頭から飛び降りる。
おお、軽くなった。やっぱ、乗せっぱなしは辛いな。
『……』
「あ、ら、ラピスさん」
『…………!』
『……』
「ひぃっ、ラピス姐さんだあ……」
何がどうなってんだ。
俺からしたらアウィンが独り言を呟いてるようにしか見えないんだが。
とりあえず、ラピスが登場してからトパーズもアウィンも大人しくなったみたいだし、細かいことはいいか。
お、トパーズがこっちを見た。《ハウリング》すんのか?
「大丈夫です、トパーズさん! もし、変な空気になって白けたとしても、全部お兄ちゃんのせいですから!」
「いいから、黙って見とけ」
大きく息を吸いこんだトパーズは、四肢に力を込め、一気にそれを解放しようと喉を震わせる。
そして。
キィィィィーーーー
「わっ、凄い音です!」
「うさぎがキーキー鳴く時って怒りやら恐怖、苦痛じゃなかったか?」
どんだけ喉の痒みにイライラしてたんだよ。耳痛いわ。
で、肝心の《ハウリング》なんだが。対象がいないから何とも言えないな。
それっぽいのは出てきたが。
何気なくトパーズのステータスを見てみる。スキルの技を使ったことになるならMP消費があるはずだ。トパーズは興奮したアウィンと話し始めてるし、大丈夫だとは思うんだが。
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モンスター名:トパーズ
種族:ホーンラビット(Lv.12)
HP 1260/1260
MP 0/20
ATK 74(+10) (used 12)
VIT 5
INT 2
MIN 2
DEX 6(-3)
スキル
《跳躍》Lv.3
《気配察知》Lv.1
《採取》Lv.1
《ハウリング》Lv.☆
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「トパーズ! お前、MPゼロじゃねえか! 大丈夫か!? 身体、ダルいだろ? 全てが億劫だろ? 無理すんなって!」
「な、なになに!? お兄ちゃん、どうしたんですか!?」
トパーズを抱き上げる。恐らく、自分の足で自重を支えることすら面倒になってるはずだ。俺はそうだった。
自分の技でMPが切れたなら回復も早いはずだが、トパーズには《MP自然回復》はない。あの地獄が延々と続くとか考えたくもねえぞ!
「あの、お兄ちゃん」
「ああ、アウィン。今、トパーズは地獄の真っ最中なんだ。そっとしておいてやってくれ」
「そのトパーズさんのことなんですが、全然そんなことはなさそうですよ?」
え?
腕の中にいるトパーズを見る。何だろう、心なしか睨み付けてきている気がする。いや、見詰めてるのか? ダメだ、分からん。
「アウィン、トパーズは何か言ってるか?」
「えっと、とりあえず、お兄ちゃんの言ってることは意味が分からないそうです。自分は至って普通だと。むしろ、喉が楽になって機嫌が良かったらしいですよ」
「そ、そうか」
地獄を味わっていた訳ではないならむしろ、喜ぶべきか。うん、良かった。
トパーズも機嫌が良かったらしいし、万々歳だな。
……ん? 機嫌が
「いって!」
腕に衝撃。
トパーズがヒラリと腕から抜け出す。
そして、俺をチラリと一瞥してアウィンの方へ。
あー、これは気分を害しちゃった感じですかね。
ま、何はともあれ、これで東の森はクリアだな。
次は、西の洞窟、“スケルトンウィザード”戦だ!
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