第三十五話「魂」

『また汝であるか。何度やっても』

「そうだよ、まただよ! ほら、さっさと来いよ!」


 はい、記念すべき第四十回目の挑戦です。本当にありがとうございました。


 ……じゃねーよ。何だよ記念って。何がありがとうだよ。ふざけんな。

 回復薬だってタダじゃないんだ。ああ、使ってしまった回復薬が勿体ない。死に戻りペナルティーでロストした回復薬が勿体ない。


 これも全部、あの狼が暴れ出したのが悪い。三十七回目から毎回、残り二割程度までは減らせてるんだが、体力が二割を切ったところでこの狂犬、いきなり走り回りやがった。


 顔に土球撃ち込んでもダメ。トパーズの突撃は当たらない。

 ならば、ラピスがダメージを稼いでくれるのを待つために、回避し続ける必要がある。三十八回目、三十九回目では暴れ回る法則性を見出そうと頑張ってみたが、あえなく失敗。あれは完全にランダムだな。無理だ。


 魔法でダメージを加えていくとしても、ランダムだと魔法が避けられた時に辛くなる。そもそも当たっても暴走状態では怯んでくれないんだからどうしようもないが。


 うん。これ、軽く詰んでね?


「ま、それでも挑戦しないことには勝てないんだけどな」


 大きく息を吸う狼。その場で座り込む俺。


 試合開始のゴングハウリングが鳴り響いた。


 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~


「《土球》! からのダッシュ!」


 よし、今回もトラックの轢き逃げからは逃れられたな。


 現在、“森林の大狼リェース・ヴォールク”の体力は残り五割だ。

 こんだけ何度もやっていたら攻略法も見えてくる。


 最初にハウリングからの突進をいつものパターンで避けた後、総攻撃を仕掛ける。最近はラピスを半分にしないで全部一気に投げ付けてるのが違うっちゃ違うか。


 総攻撃の後はまた、俺に突っ込んでくるので、土球からのダッシュで避ける。かすったらすぐに回復薬で回復して手を叩きまくる。後ろでは総攻撃の真っ最中。

 トパーズの怯みから脱したらまた突っ込んで来て、土球、避けて――その繰り返し。


「トパーズの突撃も当たったな。残り三割、ここからが厄介だ。トパーズ、アウィン!」

「はっ! お兄ちゃんが呼んでます!」


 総攻撃中の二人を呼び戻す。

 狼もすぐ怯みから立ち直るだろうから、すぐに要件を伝えないと!


「はい! アウィンです! トパーズさんも連れて来ました!」

「手短に話す。次にあの狼が突進してきたら――」


 計画を聞いたアウィンはトパーズと一緒に走り出した。

 狼は既に向かって来ている!


「《土球》! ぁぐっ!」


 くそ、掠ってしまった。

 アイテムボックスから回復薬を取り出して割る。飲んでる暇はない。身体に触れれば回復する仕様なのだ。なら割る一択だろ。

 全快にはならなかったか。まあ、次の突進を上手く躱せば《HP自然回復》で全快に持っていけるはずだ。


 狼はというと、すぐにこっちへ向き直り突進の準備完了状態。トパーズとアウィンの姿はない。

 だが、それでいい。相手はHPが減ったら暴れ出す猛犬だ。その境目の見極めにはラピスのスリップダメージだけでいい。

 今は毒にも掛かっている様子。いいぞ、このまま暴走する一歩手前まで引き付けてやる。


「来た! 《土球》!」


 ……よし、躱した!

 相手のHPはどうだ。残り二割。いつもこの辺りで暴れ出す!


「トパーズ、アウィン! ここだ! やるぞ!」


 俺はおもむろに狼へ背を向ける。すると少し先に、角を向けたトパーズが目に映る。

 きっと、後ろではアウィンが連撃を決めているのだろう。


「さあ、来いっ!」


 トパーズが俺を目掛けて飛んでくる。仰角は十度。胸の高さだが、少し右にズレている!


「ここかぁあうおぉぅ!?」


 何とか右脇でトパーズを受け止めたが、物凄い勢いで後ろへと吹き飛ばされる!

 だが、俺とトパーズでは質量が違う。すぐに失速し始めるが距離は充分!


「アウィン、離れとけよ!」

「はぃー」


 さすが、速いな。てか、俺が言う前に離れてたんじゃなかろうか。勘か?

 でもまあ、そりゃそうか。狼には分裂したラピス、そこに俺とトパーズが突っ込んで行った訳だ。


 そこは、回転攻撃の範囲内危険地帯


「ほら、お前の餌が飛び込んで来てやったぞ」


 ――暴れる前に食いついてみろよ。


 狼の右足に力が入る。後ろ足を跳ねさせ反時計回りに一回転。狼から見て俺とは逆側を回った足は遠心力を乗せて。


 俺を、吹き飛ばした。


 瞬間。脳が揺れる。

 進行とは別の方向へ無理矢理力が加わり、三半規管がめちゃくちゃだ。

 直撃した右肩は吹っ飛んだ。衝撃が全身を走る。

 何度も味わった激痛。その度に意識が遠のく。


 左腕に衝撃。地面にでもぶつかったのか。

 高い所からの落下ではないのでダメージはない。木じゃなくてよかった。と、残っていた微かな思考が言った。

 何でだろう。横に飛ばされたからだ。壁にぶつかった時は速度と体制でダメージ計算が行われるからだ。


 思考が追い付いてきた。

 それと同時に、角の生えた白い兎が見えた。

 考える必要もない。

 その瞬間、感じたのだ。


 ああ、勝った、と。


 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~


「お兄ちゃん! やりました! 狼さん、いなくなりました!」

「あー、そうだな」

「勝ちましたよ! わたし達、勝ったんですよ!」

「分かったから、ちょっとボリューム下げろ」


 アウィンの高い声が頭に響く。なぜ、女の声は高い必要があるのだろう。てか、アウィンは声変わりまだなのか。キンキンしてうるさい。


 俺が吹き飛ばされたあの時。

 トパーズは右脇に抱えられていた。その後、右側から衝撃を受けた俺の右腕の拘束が緩み、トパーズは晴れて自由の身となった。本当は胸に軽く持つはずだったんだが、結果的に上手く行ったからよかったな。


 狼の回転は一回転のみ。しかも、タイミングは俺が範囲内に入った瞬間。その条件なら、トパーズには攻撃が当たらず俺だけが吹き飛ばされると踏んだ訳だ。

 その予想は見事当たり、トパーズは推進力を保ったまま、狼の懐へ潜り込むことに成功した。


 後は、至近距離からズドン。

 残りのHPはラピスとアウィンのお陰で二割を切っていたはず。トパーズなら余裕で削りきれる。


 そして、目の前に浮かぶウィンドウには。


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 東の森ボス“森林の大狼リェース・ヴォールク

 討伐報酬


 大狼の毛皮 ×3

 大狼の素材 ×7


 東の森ボス“森林の大狼リェース・ヴォールク

 ソロ討伐報酬


 なし


 東の森ボス“森林の大狼リェース・ヴォールク

 初回ソロ討伐報酬


 大狼の魂 ×1

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 大狼の魂って、なんぞ?

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