057 転換

 時刻は10時過ぎ。8月ならではのうるさい蝉の声が鳴り響く。日差しは強いし風は吹いていないから蒸し暑いくらい。おかげで汗が服に張り付いて気持ち悪い。こんな日は水風呂か、川で水遊びがしたいなぁ。果物を井戸で冷やして食べるのも良いよね。僕とハンナはそんな事を話ながらアラン様達と一緒にアレハンドロの門に並んでいた。一応護衛と言うことで、荷馬車の外。

 最初は荷馬車とは離れていたけど、結局襲撃は無かったので一緒に行動することにしたんだ。この暑い中衛兵の皆さんはテキパキと荷と人相を調べて税を取り、人々の列をアレハンドロの中に入れている。


 いよいよ僕たちの番。アラン様と職人の親方さんが人数と積み荷の報告をし、税を払って中に入ろうとする。すると門番が決まり悪そうに


「すまんが、あんたらを通すわけには行かない」


と税の受け取りを拒否した。親方が理由を尋ねると


「実はあんたらに犯罪の容疑が掛かっていると報告があったんだ」

「殺人だって? 確かにここに来るまでに盗賊を駆除したのは確かだが、それは罪にはならんだろ?」

「それはそうだが、しかし我々の所に……」


 と、押し問答……。暑いし、段々双方の声が大きくなってくるし蝉もうるさいしで、僕たちより後ろに並んでる人達がうんざりした顔をしている。

 僕はあんまり暑いので微風を吐き出すチューブを作り、顔や背中に当ててみた。結構涼しい。これはホバーの魔法の応用だ。


 しばらくすると、昨日見た色黒の兄さんと糸目の人が衛兵数人と一緒にやってきた。様子からすると二人が衛兵達を引き連れているようだけど……。チンピラ風の色黒が衛兵達を引き連れている様子を街の人達は遠巻きに見ている。

 その一団が、門番とやりあってるアラン様達の間に割って入ってきた。


「おう、マサース教授さんよ。あんたらには首都で犯罪の容疑が掛かってる、アレハンドロに入れるわけにはいかんのよ」

「あ? お前誰だ?」

「あーーん? 俺か? 俺はビダルだ。首都のとある方から依頼されて犯罪者が街に入り込むのを防ぎに来たって訳よ」

「お前の顔の方がよっぽど悪党じゃねぇか。大体犯罪ってなんだよ」

「んだと、こら! この殺人鬼共! お前らにはとある貴族の子弟を殺した容疑が掛かっているんだよ!」

「そんなわけあるか! 証拠を出せ証拠を!」

「お前ら相手に証拠なんか見せるかよ。馬鹿じゃねぇのか? 司祭様が言ってたとおりだ」

「司祭様?! ひょっとしてそいつの名前は」

「おっといけねぇ口が滑った。まぁいい、そういう事だ」

「昨日の襲撃だけじゃ飽き足らず、こんなせこいことまでしてくるとはな」

「ふん。何とでも言えば良い。どちらにしてお前らは街には入れないぜ」

「そんな馬鹿な」

「おっと、先に言って置くがな」


 色黒改めビダルがニヤニヤと笑いながら


「今日、領主のマカリオ様はご気分が悪いそうでな。例え親友のマサース教授が呼んだとしても来ない、と聞いてるぜ」

「用意周到なことだな。まさか分かった。そういう事なら別の所にでも行くさ」

「おっとそいつも駄目だ」

「あ?」

「近隣の町や村にはお触れが回ってる。もしお前らを村に入れれば犯罪者の仲間と見なすってな」

「つまり王都に戻れってことか?」

「それを決めるのは俺たちじゃないぜ。さぁ、そうと分かったらさっさとどっか行っちまえ。コミエ村なら匿ってくれるかも知れないぜ? まぁそん時はコミエ村も犯罪者の仲間入りってわけだがよ! ギャハハ!」


 どうやら、昨日の襲撃との二段構えになってたみたいだね。今回の職人さん達は、コミエ村の特産物を作る大事な人だ。どうにかしないと……。

 もし王都まで戻っても無事に済むとは思えないし、大体王都に居づらくなったらこっちに来た人達だ。きっと帰りたがらない。


「くそったれ、こうなったら……」


 アラン様の目が殺気を帯びはじめたところで僕は割り込んだ。ここで手を出して本当の犯罪者になってしまっては困るからね。


「アラン様、行きましょう。ここで押し問答しても無駄ですよ。今はどうしようもありませんし、一端出直しましょう」

「お、昨日のガキじゃねぇか。出直しても無駄さ。あ、そうだ。昨日の姉ちゃんを寄越してくれたら、お前だけは中に入れてやっても良いぞ」

「いえ、結構です。僕たちは行きずりに警護を請け負っただけですので、普通に冒険者として出入り出来ますからね」


 僕がそう言うと、門番も頷いた。さすがに冒険者組合までは抱き込んでないみたいだね。ちょっとほっとしたよ。


「じゃぁ、僕はもうしばらくこの人達と一緒に行きます。おかしな事をしないか見ておいた方が良いでしょう?」


 と提案するとビダルがニヤニヤとして


「そういう事なら構わねぇさ。戻って来たら報告しろよ?」

「ええ」

「おい、クソガキ! おかしな事ってどういう事だ!」

「さぁ? とりあえず、後ろもつっかえてますし、動きましょう」


 不機嫌なままのアラン様達を僕が引き連れる形になったんだ。行く方向は東。西に向かえばコミエ村だから、反対方向。

 1時間ほど進んで、門からつけてきている人が居ない事を確認する。ロジャーはまだ動けないみたいなので、そこはハンナに頼んだ。こちらをずっと進めば他の町に着く。しかしそれにはまた時間が掛かる。そして僕はそこまで行くつもりはなかった。


「おい、クソガキ、どうすんだ。こっちはコミエ村と反対だぞ」

「ええ、ちょっと考えがありまして」


 周辺の道にも人が居ない事を確認すると、僕たちは再び泡倉に入った。

 すると早速アラン様が寄ってきた。


「なるほど考えたな」

「何をです?」

「とぼけるなよ。このお化け泡倉に俺たちを入れて置いて、お前だけでコミエ村に向かうって寸法だろ?」

「違いますよ」

「じゃぁどうするんだ」

「コミエ村の方に向かうのは確かですけど、コミエ村には入りません。多分見張り役がいると思うんです。だからそこを通り過ぎて海まで出ようと思います。海辺に僕の部下が見つけた良い場所があるんですよ。そこに村を作ったらどうかと思って」

「村、か。といっても一緒に来てるのは術理具なんかの職人だけだぞ。大工はいねぇんだ。そこはどうす……、あぁ、エルフに頼るのか?」

「えぇ、まぁそうしようと思います」

「お前の力があれば、魔物が入ってこない壁くらいは作れるか。しかしそれでも中心に神殿が必要だな。神殿がない村も有るには有るが、病気や怪我があったとき周りが助けてくれるからだ。自警団も必要だし、村を作るのは中々難しいんじゃねぇか?」

「神殿には僕が仮に入りますよ。一応神殿の預かり子ですし、神術も使えます。自警団についてはアラン様、誰かいませんか?」

「んーー、宛てが無いわけじゃ無いが、王都に戻ってみないと何とも言えんな」

「形が付くまでは、泡倉に住んでもらうようにしましょう。僕も大して詳しく考えてるわけじゃ有りませんし、皆で話しあえばもうちょっと良い考えが浮かぶかも知れません」


 そうしてるとハンナが


「……皆待ってるよ」


 と告げにきた。

 その後、僕のたたき台を元に皆と話し合いをしたんだ。


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