056 状況整理

 テントで僕が目を覚ますと、泡倉管理人のセニオとハイエルフののアーダが居て。横にはハンナ。

 ランプの灯りの外はほぼ真っ暗だけど、空気は涼しく、腐葉土の香り。土は硬いけどふかふかの寝袋。僕は快適に目を覚ました。確実に実家より良い寝具だったと思う。


「やぁおはよう皆。まだ暗いね……。寝ても良い?」


 チラリと見る右下には3時50分の文字。日の出にはあと一時間ほどかな? いつも起きる時間より早い。

 僕がぼんやりとしていると、セニオが


「そうも行きません、ご主人様。今後の方針や対応のことなどを決めておきませんと」


ん? ご主人様? 僕のことだよね? まぁスルーしよう。


「ん? セニオはサウルの呼び方変えた?」


 と思ったらハンナが突っ込んでるし。いやまぁいいけど。


「はい、昨日のことがありましたので。私なりに考えました結果でございます」


 昨日、ね。

 本当に色々有ったけど、疲れてぼんやり見てるだけだったなぁ。

 緊急で秘密保持契約を行って。泡倉屋敷に鑑定機が有って助かったんだけど。鑑定機って、世界を流れるエーテルストリームとの通信が出来るとか何とか。その仕組みを使って神界の契約担当から力を借りることが出来る、とか。

 泡倉屋敷だと何故かお金が要らなかったのが嬉しかったよ。だって、全員分の契約金もお金代わりの触媒も持ち合わせてないもの。アレハンドロに帰ってしまえばお金は有ったと思うんだけど。


 食事はハイエルフの住民が何人か手伝ってくれてた、と思う。知らない人居たし。出汁が利いてるスープは皆大喜びだったよ。僕は正直味が分からなかったけど……。でも肉が入ってるのに吐かなかったね。こういう時は吐いたりするのがお約束だってライブラリにあったんだけど。


 そうしてぼんやりしてたら、寝かしつけられたんだよね。うん。で、今に至る、と。


「んー、セニオ、状況を整理して」


 ハンナでも良いんだけど、こういう時はセニオだと思ったんだ。いわゆる適材適所。ハンナはこう口下手、無口だしね。


 職人さん達の体調は、若干問題あるけど馬車に乗るには問題ないこと。アラン様の手は問題なく処置できたこと。手は無くなったままだけど。ただ、アラン様はエーテル枯渇がひどくって、その点ではハイエルフが治療を行ってること。


 ……恐らくアレハンドロでは厄介ごとが待ってること。

 王都を追い出されそうになってた職人さん達。それを拾った、これまた何か厄介ごとを抱えてそうなコミエ村とアラン様。その道中で職人さん達は毒を盛られ、動けなくなったところを過剰な追っ手が殺しに来たんだよね。もし僕とハンナが来なかったら、あのまま皆死んでたと思う。アラン様達全員。

 僕はぶるりと身を震わせる。

 そしてその追っ手が全員身を隠し、死んだはずのアラン様と職人さん達がアレハンドロにやってくるとしたら。

 そりゃもう厄介ごとが発生する気がするよ。


 セニオさんは僕を試すこと無く言う。--如何致しましょう?と。


 泡倉に匿い続けることも可能。ハイエルフ達を派遣し追っ手を返り討ちにすることも可能。神殿の伝手を使い、搦め手を使うことも可能。他に僕の考えがあれば全力で応えます、と。


 --如何致しましょう?


こと、ここに至り、僕は気づいたんだ。これ、僕ひょっとするとちょっとした力があるね。ハイエルフ、一人だって結構大した力があるみたいなんだよね。

 冒険者組合の気の良い冒険者達。半分が僕の配下の三人以下。

 ……配下の一人と冒険者のパーティが、ね。

 そりゃ実戦となればもしもがあるのは分かってる。だけど、組合で見ている限りは敵いそうに無いんだ。

 それがハイエルフの戦える全員と。……いつも偉そうなセニオが加わったら?

 あ、ちなみにアレハンドロの冒険者だって荒事には慣れてるからね。採取をメインにしてるパーティだって、そこらの獣やゴブリンなら蹴散らしちゃうよ? 弱っちい訳じゃ無いんだ。そこは彼らを見くびらないで欲しい。


 で、そこでセニオさんの『如何致しましょう?』が効いてくるんだよね。さて、僕、どうしようかな。




「で、クソガキ、どうする?」

「質問に質問で返さないでくださいよ、アラン様」

「うるせーな。良いから答えろ」


 僕はため息をついた。


 午前5時。要約明るくなりかけた泡倉にある見通しの良い海辺の館。の前の広場。

 赤々と照らされる立派なテントに立派な炊事道具。合間合間にハイエルフが優雅に立ち働き、職人さんやアラン様達が給仕を受けている。

 ハイエルフ達は質素ながらすごく仕立てが良さそうな服で。偉い貴族様その人が給仕していると言われても頷いてしまいそうなほど。

 そのハイエルフ達に給仕される職人さん達はおっかなびっくり。子供達も泣きそうな感じだよ。これ良いのかな?


「おい、クソガキ」


 あ、うん。


「僕の答えは決まってますよ。コミエ村とアラン様に恩返しする、です。だからこれから起こる厄介ごとに積極的に手を貸します」

「よっしゃ分かった。何故そこに俺様の名前があるのか良く分からねぇが助かる。これで方針が決まった」

「そうそう。厄介ごとの原因、教えて頂けますか? それによって僕も振るまい方が変わると思うのです」

「まぁそりゃそうだな。そろそろお前も知っておく権利があるな。すげー単純に言うと、政争だ。コミエ村付の神官であるセリオ・ロエラ準男爵は政争に負けたんだ。で、勢力諸共王都を追い出され、コミエ村を作る事になった。お前の父親は政争に関係無い駆け落ちしたただの職人だ。安心して良い」

「ちょっとほっとしました。しかし神官様貴族だったのですね」

「継承権の無い準男爵だがな。だが、あいつの息子は王都でかなり偉い役人だ。色々と有る。コミエ村を作るときにも作ってからも様々な嫌がらせがあった。で、今年、いつもの三倍の税を納めろと言われたんだ。もちろんカツカツのコミエ村にそんな余裕は無い。だから皆色々と試した。お前の父親が慣れない野菜に手を出したのもそれだ。お前が養い子になった遠因だな」

「そんな事が……。三倍って無茶でしょう?」

「あぁ無茶だ。しかし、色々有ってセリオと息子の政敵の派閥はそれを通しちまった。無理ならコミエ村は解散し、敵対派閥に明け渡し。もうほとんどそれに決まりだった」

「そこに僕が現れた、と」

「そういう事だ。芽が出ちまった。希望が生まれちまった。だから」

「今がある」

「そういうこったな」


 ……となると……


「ねぇアラン様。アレハンドロはどうなります?」

「多分大丈夫だ。日和見気味だが。コミエ村建設を受け入れたのも領主一族がセリオ達の心情的な味方だからだ。今回も敵対には至るまいよ」

「とは言え、ちょっと不安要素に心当たりがあるんです。僕にできる手は打っておきます」

「あぁ、良く分からねぇが分かった」


 そこでアラン様が周りの様子を見た。

 薄明かりの中の木々のざわめき、蝉の声虫の声。たき火の音、炊事と食事の声。

 キャンプだなぁ、とライブラリ該当する記憶を寄越した。夏の風物詩。


「しかし、あれハイエルフだろ? なんで復活歴が始まる前、幻魔大戦には消えたと言われる幻の種族がお前の部下なんだ?」

「僕にも色々あるらしいです。僕の前世の人よほど偉かったらしいんですよ。それで、らしいです」

「大恩があるが契約があるか、か」

「えぇ、そんな感じで」




 その後、食事と準備を終えると、人目の付かないところに馬車と皆を出したんだ。返り血や色々な汚れも綺麗にして、食料も積み替えて。お風呂は入ってしまうとおかしな事になるから我慢したけど。


 僕とハンナはこっそり付いていくことに。

 昨日の戦いの後、僕の諸元はこっそり増えてたらしい。セニオが教えてくれた。

 肉体精神霊性が五元素に別れた十五個の諸元。骨格体格を司る土の肉体は日に日に増えていて凄いことになってるし、術関連の精神霊性も凄い。

 普通の人が40から60。以前、コミエ村で鑑定したときにもすでに80台なんかが有って中には100越えで凄かったのに。今、一部150越えがある。

 アラン様に教えたら散々罵られた挙げ句に呆れてた。アラン様だって90越えが幾つかに100越え一つなんだそう。

 周辺国で一番の大学で、第一の天才と言われるアラン様がそれ。

 絶対に他人に言うなよ、と言われちゃったよ。

 契約を結んだ人は勝手に言えないし、下手をすると契約の効果で死んでしまう。けど、僕がバラしちゃうのは問題ないんだそうだ。なんともおっきな穴のある制度だね……。

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