055 夜闇に死人が起き上がる話
泡倉で寝るのは初めてだなぁ。
昔はよく中央山の中腹でキャンプを張ったもんだが。あの山2万メートルもあるから、山頂というわけにも行かなかったんだ。
と、自分の意識に気がついた私は身を起こした。
見慣れない少年の体。見慣れない粗末な天幕。
ハンナが何故か同じテントにいてびっくりする。キラキラと光る目は、私が誰か気がついているようだ。
「コタロ?」
「あぁ、私だよ。しかし私が出てくるとなると、幾つかの条件が有ったはずだが。どれだ?」「私めへの命令。泡倉への10名以上の招待。ご自身の初の大ダメージでございます。コータロー様。いえ、名も無き大神よ」
「セニオか。その名は止めてくれ。私は飽くまでアドバイザーでしかない。信仰を集めることも無いから大神どころか神ですら無い」
「だからこその此度の転生でありましょう?」
「私の出生は地球だし、色々と特殊だから、まともに下で転生できるか疑問だったが。上手く行って何よりだ。
しかし、なんだかこの彼も大変なようだね。サウル君、だったか?」
「うん。サウル頑張ってる。でも不安。自分が誰かいつも考えてる。コタロ、何とかしてあげて欲しい。」
「あー、アイディンティティなぁ」
幾ら私の知識や、あの頃のネットのアーカイブに、神界での研鑽した内容の一部があるとは言え、それは力でしか無いからなぁ。
「もうちょっと積極的に何か道筋を示してあげるべきなのだろうね。セニオ頼めるかい?」
「はっ。ではそのように。浩太郎様の教えに寄りますと、『デレ』ですな。よろしい。最高のデレを提供致しましょう。」
「そういえばロジャーはどうしたんだ? あのうるさい奴がいないのは変だな」
「そう。そしてあのやかましい下品な男は、昨日サウル様が陥った激情を醒ますために干渉致しまして。ダメージを癒すために休眠中でございます」
「無茶するなー、大丈夫か?」
「おそらくは大丈夫かと。幾らか激励と共に差し入れを致しましたので」
「それ、激励の方がダメージで掛かったりしないだろうな?」
「さぁ?」
私からは彼に干渉できないし、彼も私に干渉できない。
私は一度死んだ身で、この体に宿っている魂はサウル君のものだ。私はたまたまくっついてる寄生虫みたいなもの。サウル君が死なないようにある程度の干渉は出来るが、それまでだ。
私がこうして意識を取り戻すことはあと何度有るか。出来れば無い方が良いのだけど。
幾つか、最初に想定されてなかった事を相談すると私は眠りに就いた。
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