052 戦闘開始
ハンナが戻る前に、少し泡倉の三人に連絡。
僕の物資が置かれている倉庫近くに居たのは、生産系が得意なアーダという女性のハイエルフ。リーダーのイェニとマルックはいなかった。僕が頼んだものを作るための材料探しだとか。
僕が泡倉を使うとき、おおよそ望みの所に手を突っ込めるけど、細かい部分までは見えない。どうしても手探りになるんだよね。顔まで突っ込めば別だけど。
なので、戦闘時なんかで咄嗟にものを取り出したいときには、専用の場所を作ってるんだ。
倉庫の一部に区画を作り、そこを縦横4つづつに区切って16区画。そこに決まったものだけ置いておく。補充はハイエルフ三人衆にお願いしてる。もちろん、僕も手伝えるときには手伝うよ? コウタロウさんの記憶が「ブラックは駄目だ」ってささやくからね。なるべく働きやすい環境を作ってあげたい。
さて、今回はちょっと考えてる事があるので、区画の内4つに、とあるものを詰め込んで貰った。足りるかどうかは分からないので、アーダにいつでも補充できるように待機してもらう。……生産はさすがに間に合わないかな? いざとなれば三人に四大術使わせるか?
かなりの重量があるそれらを、アーダはあっという間に配置する。エルフは肉体を半ば捨てた種族だって聞いてたけど、ハイエルフは違うのかな? それともアーダが?
おっと何か寒気がするのは何故だろうね。
周囲に気を使いながら5分後、いきなり後ろから肩を叩かれた!
ビクッとすると同時に
「ハンナだよ」
と言われてほっとしたよ。やっぱり僕も探索術か、五感の強化が出来るようになりたいな。
「どうだった?」
「馬車が三台。守る人は少ない。アランいた。セレッサは見えなかった。魔物と人間の襲撃者。組んでいるわけじゃ無さそうだけど。良く分からなかった」
ざっくりと地図を書いて貰う。僕たちから見て手前に人間の襲撃者が5人ほど。馬車の向こうに魔物。魔物はゴブリンとゴブリンより強いホブゴブリン。半分以上は倒されてるけどまだ10体くらい。馬車は、周辺に炎の壁。戦えない人達は荷台で。前後に数名。アラン様は人間側。炎の壁はアラン様が出してるんだろう。
しかし。
「アラン様の様子は?」
「苦しそう。エーテル沢山漏れてる」
そう。
アラン様に送った術理具のベルトは、アラン様の魂倉や霊的センターから漏れるエーテルを強制的に供給するもの。
アラン様が普段以上に術を使えば、当然漏れる量も増える。そしたら供給が間に合わなくなって、苦しくなる。
一応の解決策は組み込んでるし、アラン様も知ってるけど、使ってないみたいだね。ほっとしたよ。
「僕たちが行けば助けになる?」
「なる」
「勝てる、かな?」
「勝てるけど。サウルは、まだ人を殺してないよね?」
そう。僕の実戦は、こないだのゴブリンだけ。いつかは人ともやり合うつもりだったけど。さっきのならず者相手にはびびってしまってた……。
「……でもやるよ。アラン様を助ける」
「分かった。ハンナはサウルを助ける」
「でも、なるべく遠距離で行くけど」
「良いと思う」
どう攻めるか。まずは人間の襲撃者からだね。上手く助けたいから。そうだな。
「よし、僕がホバリングで突っ込んで、一発大きいのでびっくりさせるよ。ハンナは僕がやってから突っ込んで。僕は後を追う。そしてアラン様を助けるよ」
「分かった」
「僕は全速を出すけど、ハンナは無理せずにね」
さて、やってみよう。
ホバリングの術式を魂倉に取りに行く。魂倉の呪文書から術を呼び出す。
呼び出された術は僕が与えたパラメータとエーテルを取り込んで具象化する。
「ホバリング、開始」
いつものパラメータセットとは違うホバリング。
野生動物などを追い払いながら進むために作ったセット。
いつもの倍以上の騒音と、砂埃。はっきり言って目立つはず。でもそれが目的だから問題ない。
ハンナはかなりびっくりして、僕から一歩離れてしまってる。
「ぼ!!! ……そ!!! …… !?」
術の音が大きすぎて、ハンナの声が聞こえない。でも、多分「暴走か?」みたいな事を言ってるんだと思う。
大丈夫という印に、僕は両腕で大きく丸を書いて、その後、進行方向を指した。
「行くよ!」
聞こえたかどうか分からないけど、発進だ。
さすがに人が居る近くで全速を出すと危ないので、最初はゆっくり。
しかし、すぐ急加速をかける。
ただしほんの数秒だけ!
練習でも出したことの無い加速に体がひっくり返りそうになる。
必死で前傾姿勢を保とうとする。
景色が流れる。
頬が引っ張られてよだれが垂れる!
前しか見えない!
ちらりと右下を見れば時速150km? 160?。
風が痛い。
目を開けられない。
でも、僅かな視界の先に、見える。あれだ!
そしてアラームが鳴り、急ブレーキ!
か、体が! 前に吹っ飛ぶ!
想定外!!
慌てて、というか何も考える前に反射的に5本の風の管が僕にぶち当てられる。
めっちゃ痛い!でも、無事に止まったんだよ。助かった。
視界が晴れ、全体が見える。
およそ100m程先には半壊した馬車と炎の壁、襲撃者に魔物、アラン様も。
皆こっちを見てる。
よし!
僕は名乗りもせずに、次の手を打つ。
頭上に輝く円が4つ。それぞれ泡倉の区画に繋がってる。
そこにあるのは、椎の実型の鉄片。一つ数グラムのそれだけど、音より早く打ち出せば、先日の手投げ矢どころの威力じゃ無い。
問題は……
「ウワーーーーーーーーー!!」
僕の叫び声が、炎の壁が立てる音と混ざる。
まずは、100発!
4つの穴から弾が出る端から全力で撃つ!
恐ろしい雷のような音がドロドロと鳴る。
狙ったのは、真ん前の襲撃者の手前。
街道の地面をほじくり、弾丸はその辺に撃ち出される。
次の瞬間そこにあったのは赤い霧と襲撃者のすねから下。
余りの光景に、僕の心は凍ったままだ。
そして、僕は気づいた。
アラン様の体に無数の傷が有り、左手首の先が無い事を。
沸騰する。
沸騰する。
沸騰する!!
ゆるせない
ゆるせないぞ!!
あいつら
あいつら!
あいつら!!
ころす
ころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころ……
ガツン
唐突な衝撃に僕は冷えた
気づくと、僕の横にロジャーが居て僕をじっと見ていた。
その目の色は分からない。
「お目覚めですかい? 坊っちゃん?」
僕は、ぶるりと震えた。
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