044 夏の夜の妖精

 冒険者組合には級があって、貢献度や実力によって10級から0級の11階級があるんだって。

 僕がさっきまで入ってた10級は、見習いと呼ばれてる。非戦闘依頼だけが許可されてて、子供や街の徒弟が採取をするために入っていたり。怪我をして戦闘が出来なくなった人が席を残すために利用していたり。

 9級は参入者、8級から7級は修行者と呼ばれ、6級から3級が冒険者と呼ばれる。つまり6級が一人前と認められる感じらしいね。でも小さい街とかだと7級でも当てにされるとか。

 その上は、2級の到達者、1級の超越者、0級列神。ただ2級から上は実際にはいないんだって。一応、このアガテ王国の建国者である初代女王アガテは2級だったという話だけど。

 それ、1級と0級作る意味あったのかな?


 そんな感じの事を僕は聞いていた。

 飲み屋のカウンターで、ゴードンさんから。


 ゴードンさんは、僕の審査に来てくれた黒剣団のリーダーさん。ちょっと暴走気味だけど、正義感の強いまっすぐな人だと思う。詐欺とか直ぐだまされそうだけどね。


 冒険者組合から出た後、フラム様やバスカヴィル商会の人達と誕生日と昇級を祝って食事会をしたんだ。街の居酒屋でね。まぁ夜に空いてる飯屋で粘れるところがないので仕方ない。見た目は僕も少年だしね。飲まなきゃいいでしょ。

 その事もあって、早く帰りたかったんだよね。まぁ商会の人達は余り当てにしてなかったみたいだけど。

 ちょっと遅い開始時間になったけど、居酒屋でワイワイ話してたら近くに黒剣団の皆さんもいて、一気に混沌としてきたんだ。ほんともう。これだから酔っ払いどもは。


「サウル、お前は中々見所がある」

「あ、はい」

「俺が絡んだ後、お前は『公平に』って言ったよな。あれは中々出来ない。普通はそこで何か要求を押し込む物だ」


 ぐいっとグラスを空けるゴードンさん。次のエールが届くがぬるい奴だ。僕はそっと冷やしてあげた。

 昼間は30度を超える位暑かったけど、今は23度。ひんやりとした空気の中虫の鳴き声と盛り場のざわめき。

 なんかコウタロウさんの記憶の祭りみたいだなぁ。


「ん、んーーーそんなものですかね」


 黒剣団を買収するのは失敗のリスクが高いし、その後脅される可能性もある。不正が発覚した場合、僕一人じゃなくてコミエ村にも確実に飛び火する。

 そんなリスクは割に合わないよね。

 でも、そんな事を言うよりも、ちょっと曖昧に笑顔をみせた。


「お。何だこのエール、すごく冷えてるな。山の湧き水みたいだ」

「えぇ。四大術でちょいと」

「……すごいな、お前」

「え、そうですか? 僕なんてまだひよっこで……」

「俺は四大術の事は分からないけど、うちのロブやサミーは仰天してた。ホバリングは絶対やってみるって息巻いてたぞ。

 風を発生させる術はあったけど、組み合わせて人間が飛ぶなんて話は聞いた事が無いってな」

「そうだサウル。あのホバリングとやらは気に入ったぞ、私にも教えるのだ」

「え、いやフラムさん四大術使えないのでは?」

「何を言ってる! この私が使えない訳……が。うん使えなかったな」


『設定守ってくださいよフラム様』

『やー、すまんすまん。酒は飲んでも飲まれるなってな!』


 その後は色んな人に絡まれながら食べたり飲んだりしてたけど、誰も僕の事構わなくなったので帰ることにしたよ。僕の誕生日だった筈なんだけど。まぁいいけどね。23時も近いし、いつもの時間に起きるのは難しい気がする……。


 お酒を出す店の一角を抜けるとほとんど灯りは無い。僕はふらりと街を歩く。

 まっすぐ部屋に帰ろうかと思ったけどなんか勿体なくて。

 ほんとは。

 こんな真夜中に、子供が一人街歩くのは危険なんだけど。

 あ、ロジャー笑わないでくれる?


 所々にある薄明かりだけを頼りに外壁へ。

 アレハンドロの外壁と住宅の間は広い間が取られている。

 演習用、防御用などの意味で。たまに冒険者や兵士が訓練しているね。

 ここは、街中で見るより空が広く見えて僕は好きなんだ。

 たまに来て、星や月を見ると落ち着く。


 いつも僕が腰掛ける丸太の山に、先客がいる。

 華奢なライン。女性だろう。僕は彼女の横顔をぼんやりと見る。

 だって夜空を見上げる彼女のラインがとても美しかったから。


 ほんの刹那か、それとも5分? 10分? ふと気づけば、彼女は僕を見ていた。

 僕と彼女の視線が交差して、僕はふらりと彼女の方に歩んでいる。

 もしなら、何か得体の知れぬなら、きっとロジャーが何か言うだろう。

 でももしそのであったとしても、僕は彼女に近づきたいと思った。


 彼女に釣られ、丸太の山に登ると彼女の顔がよく見えた。

 年の頃は13、14? そろそろお嫁に行く頃だ。

 鎖骨まで掛かる黒髪。分けた前髪から彼女の笑みをたたえた瞳が見える。大きく丸い黒目がちの瞳。

 暗い夜なのに彼女は太陽のように明るい。


「やっと会えたね」


 弾むような声に、僕ははっとした。

 僕は彼女を知っているのかな?

 正気に返った?

 いや、記憶にないなー。でもこういう時に迂闊なことを言うと修羅場になるってアラン様が言ってた。


「ぼ、僕も嬉しいよ」

「ふふ、ホントは誰か分かってないでしょ?」


 ドキリとした。脳裏によぎるのはセレッサさんに折檻されるアラン様のお労しい姿。


「大丈夫。気にしないで」

「ありがとう。その、それで君は?」

「ふふ。また後でね」


 そういうと、彼女はふわりと2m程も積み重なっている丸太の山から飛び降り、外壁へと走る。生身のスピードではない。

 速度を落とさず外壁までたどり着くと、8mあると言われる外壁を一飛びで飛び越えていった。闘気法使ってもちょっと無理です。ええ。何あれ?

 急展開に僕がポカーンとしていると、ガヤガヤと人の気配がしてきた。

 あぁ、門番さんや衛兵さん達だ。


「おい、お前、冒険者か? 怪しい奴を見なかったか?」


 知らない兵士が、僕に尋ねてきた。

 んーーー、まさに見たばかりなんだけど。


「何か有ったんですか?」

「この真夜中にすさまじい早さで街を駆け回る奴がいるって事で通報があってな」

「んー、ちょっとわからないですね。ごめんなさい」

「お前もこんな所にいると、疑われても仕方ないぞ。さっさと宿に戻れ」

「あ、分かりました」


 もう散歩する気分でもなくなったし、帰ろうか。

 帰り道、ロジャーに聞いてみたんだけど教えてくれなかったよ。なんかニヤニヤしてるし感じ悪い。

 部屋に戻ってさっさと休んだけど、あぁこんな時間か。明日は寝坊確定だなぁ。

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