うつる



 俺、自分で言うのもなんだけど、社交性は割とある方だと思う。初対面のヤツとでも何となく話題を見付けて話とかできるし。ただ、“知り合い”の一線はあまり超えない。別に相手のことを信頼してないとかそういうわけじゃないんだけどさ。何となく、特に職場だと同僚だからか“職場のヤツ”だとしか思えないのかもしれないな。

 これは前の職場での話だけど、そこの職場、大抵2人ずつで30分の休憩を2回とることになってたんだ。それぞれ自由にその時間を過ごしてもいいんだけどさ、何となく流れで大抵2人揃って休憩室で時間まで過ごすって感じだった。黙ってるのもなんだから、お互いに下らない会話とかするわけよ。んで、その日も下らない話をしていた。確か俺は、少し前に映画館にホラー作品観に行ったんだけど、いざ開演すると朝一の回なこともあってかだだっ広い映画館の真ん中で自分以外誰一人いない状態で最後までその映画を観た。内容よりもその状況が怖かったわ、なんてことを話していたと思う。

 そしたら今度は同僚がそういえば……って話し始めたんだ。最近急に携帯の電源が落ちることがあるって。それがさ、本人曰く、友達の家で怖い話をしていたときかららしいんだわ。

 霊現象って、機械に影響を与えるって言うじゃん。磁場だとかなんだとかでさ。昔のホラー映画もよくVHSに呪いの映像が……って設定のヤツとかがあったじゃん。その同僚は「このたまに電源落ちるのほんと困るんだよな、霊の仕業とかなのかな。怖いわ」って呟いてたけど、割と怖いもの好きらしくてさ、そこからあとの休憩時間はその話で盛り上がった。

 その日の帰り道だったかな。携帯弄りながら歩いてたら、急に画面が真っ暗になったんだ。別に電池とか切れる残量具合じゃなかったし、不思議に思いながら電源ボタンを長押ししてみた。そしたら、短いバイブと共に携帯が起動した。なんだ動くじゃん、って思ったのと同時に、休憩時間、同僚と話した内容が脳裏に浮かんだ。その瞬間、あ、うつされたって思った。うつされたって、我ながらちょっとバカバカしい表現だと思うわ。でも、その日から高頻度で携帯の電源が落ちるようになった。下手すると起動した端から電源が落ちる。そのうち今度は電源がつかなくなることが増えていった。何度も長押ししてやっとつくって感じ。ダメならちょっと時間置いてまたチャレンジってな具合でさ。あれ、結構イライラするんだよな。

 俺、携帯は割とズボンのポケットに入れる派なんだけどさ、結構しゃがんだときだったり、取り出すときだったり高確率で地面に落とすんだわ。だから、多分どっか壊れたんだろうって携帯ショップに行くことにした。その直前も電源が落ちてつかなくなってさ。何やかんやで電源がついたのは俺の順番が来て店員のいる席に着く少し前だった。

 どうしましたって聞く店員に、充電が十分であっても電源がすぐ切れること、電源が切れると中々つかなくなることを伝えて携帯を渡した。じゃあ一度電源を切って試してみますねって店員が俺の携帯の電源を切って、少し待って入れなおした。そしたらさ……すぐつくわけよ。俺も店員も「あれ?」ってなって、一応軽くその後も調べてもらったけど異常はなかったみたいで大丈夫そうですねってその日は携帯を返された。

 ま、その日から携帯の電源が落ちるのは頻度が減ってきたんだけど、今度は携帯のホーム画面からアプリのアイコンが消えることが増えた。その代わりにメニュー画面のダウンロード一覧のアプリのアイコンが2つに増殖するってことが起こり始めた。そのアプリってのが、その頃始めたホラーゲームのアプリでさ。呪われた日本人形を供養しようって感じのヤツで。やり始めると意外と可愛く見えてくんだよなぁ、その日本人形。……あ、話それたな。

 で、まぁ俺、ゲームのこととか機械系あんま詳しくないからさ、そういうゲーム仕様なのかな、最近のゲームってすげぇなってそのアプリをやり続けてた。現に2つに増えたアイコンどっちを押してもそのゲームは起動されたから不自由はなかったし。だけどそのうち、消えたり増殖したりするのがそのアプリだけじゃなくなってきた。さすがに困ってそのゲームの開発元にメールしたわけよ。こういう現象起こってるんだけどそういう仕様のゲームなのか、って。

 ここ、ホラーゲーム作ってるとこなのに、案外対応が丁寧でさ。メールして速攻、すぐに調査しますって連絡が来た。ホラー作ってるからってわけなのかもしれねぇけどさ。そこんとこ、メチャクチャ好感持てたよ。

 んで、数日後、本題の返信が来た。

「初めに、本ゲームではそういった仕様は行っておりません。お調べした結果、他のプレイヤーの方にもそういった現象は起こっていないようです。稀に、携帯との相性が悪く、不具合が生じる場合がございます。今回の現象はその結果と思われます。申し訳ございません」

 そんな感じの内容だった。要は相性悪くて俺の携帯がバグったってことだったわけだわ。でも、原因がわかっても、結局答えとしては曖昧で、俺は何となくそのアプリをアンインストールすることにした。

 けど、今度は増えていた分のアプリの箇所が空白で存在するようになった。他のアプリを移動させるとその空白も動いて、なのにその空白は決して一番下端、要は最後尾にはいかない。何かが存在するのだと仮定してアンインストールを試みたけど空白はどうにもできなかった。そしてそれは、携帯の機種変をしても変わらなかった。2、3度機種変を試みたし、修理にも何度か出したけど異常なし、の繰り返し。もうほんと訳分かんねぇよ。

 ……あ、携帯の話ばっかりもなんだからさ、別の話もするな。

 俺、割と寒いところの出身でさ。だからってわけじゃねぇけど、俺んち、基本暖房とか使わねぇんだわ。寒さに対する感覚がちょっとマヒしてんのかもな。だけどさ、寒さなんて服とか厚着すればどうってことねえじゃんか。……まぁ、ほんとのこと言えば金がねぇってだけなんだけどさ。そこは一応、節約ってことにしといてくれよ。

 んで、まぁ、今住んでるとこそれなりに経つんだけど、この前ちょっと体調崩してさ、病院に行くことにしたんだ。すっげぇ寒くてさ、珍しく俺、結構厚着したんだ。でも、いくら着ても寒くてさ。まぁ、それは体調崩してるからだろう、早く病院に行かなきゃって気にせず家を出たんだ。だけど、玄関出た途端、それまで感じてた寒さが消えて、むしろ、暑くさえ思えた。普段、暑いとか寒いとか考えたこともなかったからこれは体調崩してるせいだって俺はそのまま病院に向かった。

 で、病院で問診受けたとき、そのこと話したんだ。外にいるよりも部屋の中にいるときの方が寒いと感じる、ってさ。

 そしたらさ、医者が凄くバカにしたようにこう言ったんだ。

「この時期に外にいるよりも部屋の中が寒いなんてありえない。きっと熱にうかされて冷静な思考ができないんだろう。少し時間をやるからもう一度冷静になって症状を説明しろ」って。……俺のことを頭のおかしいヤツ扱いしやがった。医者だけじゃねぇ、そこの看護師も、だ。優しい笑顔を向けながら「先生の仰る通りです。どうぞゆっくり頭の中整理してください」って変なものでも見るような目を向けやがった。……そんときの俺の気持ちがアンタに分かるか。

 その日は一先ず、医者達のいうことに合わせたよ。そうですね、頭がちゃんと回ってないのかもしれませんって。でもさ、その日の俺、熱なんて平熱すらなかったんだぜ。笑えるだろ。

 これは漫画の請け売りだけどさ、心霊的現象が起こっている場所では、しばしば気温が下がるらしい。今回のそれも、そうなのかもなって俺は思うんだ。

 ま、こうやって全て霊の仕業、みたいにこじつけて話してみたけどさ、結局は何かが見えたわけじゃないし、怪我をするような直接の危害を受けてたわけじゃねぇ。気にしなきゃいいだけのことなわけ。

 あぁ、そういえばさ、アンタ知ってるか。心霊現象とか怪異とかってヤツはさ、そういう話をしたり、聞いたりしているだけでも寄ってくるらしいぜ。

 なんてな、まぁ気にしないでくれよ。これがそういう現象だなんて決まったわけじゃねぇんだからさ。

 だけど――……これでアンタにうつってるといいな。



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