第118話 低い方 4

「え?」


左肩に星弐せいじの顔が寄った。

薄いシャツを通して僕の肩に、星弐の熱が伝わる。高い鼻が肩に触れる、その骨の感覚がやけにリアルだった。

鎖骨にも温かい息を感じて、僕は腹の奥がずくんとうずくのを感じた。びくんっと身体が跳ねる。


(バカか!弟相手にっ)


慌てて身体を引こうとした僕を、星弐は許さなかった。

細いけれど筋肉質な両腕が僕の背中にまわる。

ぎゅっと抱きしめられる。

苦しいくらいに。


こんなに弟を側に感じたことは、十年以上無かった。

焦りに早くなる胸が、自分のものより遥かにがっしりとした星弐の身体に無理やりに添わされる。

いつの間にか下に降りてきた星弐の腕は、僕の腰をさらって力のままに引き寄せていた。


「すんっ」


耳の側で星弐の鼻が鳴る。

駄目だ。

この距離は近すぎる。兄弟の距離じゃない。

まるで女の子にするみたいに、弟は僕を抱いていた。


「おいっ!お前、何のつもりだよ、離せよ」


「嫌だ」と言うように、星弐は動かない。それどころか、ますます腕の力を強めたようだった。


「な、何?なにか言えよ。お前、怖いって」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る