第117話 低い方 3

二人で誰も居ない家に帰る間、僕たちは互いに一言も口をきかなかった。星弐が何を考えているのかはわからない。

ときどき、顔を盗み見たけれど、僕には何もわからなかった。


(怒って……る?)


星弐はどんどん先を行ってしまう。

僕はどうするのが正解か判断がつかなくて、結局、楽な方を選んだ。

そのまま星弐の後ろを着いて歩く。


気まずさを堪えてようやく家の前に着いたとき、アンティークの鉄の格子門こうしもんを押しけたまま、やっと星弐が僕を見た。


「何してる、早く来いよ」


「……うん」


その声には凄みがあった。

肩の高さの薄い飾り門には緑色のつたが洒落た様子で絡みついている。

丁度僕らの顔の下辺りに咲いた赤い花が、脇を通り抜けたとき場違いに優しく香った。

星弐が玄関扉に手をかけたとき、門が僕たちの後ろで不自然に重い音を立てて閉まる。


「っ……」


急に心細くなる。逃げ道を塞がれた気がして、僕は自分の呼吸が浅くなったことに気がついた。

逃げなければ。

そう思って僕は星弐に背を向けた。


そのときだった。家の中から星弐の腕が伸びて来て僕の二の腕を掴んだ。

そのまま、ぐいっと乱暴に引っ張られた僕は、気づいたら弟の腕の中に抱き込まれていた。

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