第75話 Precognition 3

「同類?」


意味をはかりかねる顔で瀬口が萌を振り返る。

萌の方も訳がわからず、じっとアレクシを見つめた。


Ouiウィ, 同類。僕らは言葉で説明しても理解してもらえない。行動で示すよ。まずはその監視カメラだね」


アレクシは手近なパイプ椅子を引き寄せて腰掛けた。長すぎる脚がすっと組まれる。

そして、突っ立ったままだった看護師に向かって言った。


「ごめんね、mademoiselleマドモアゼル、少し席を外していただきたいんだ……あと君もね」


アレクシは看護師だけでなく、瀬口と共に現れた若い警官にも退出しろと言いたいらしい。ただ、こちらに対してはひどく素っ気ない態度をとった。

あごでくいっとドアを指し示す。

青年の顔には「関係者なのに何故だ」と、たちまち不満の色が浮かんだ。


「君は口が軽いから」


「は?」


「……はぁ。葉山、悪いが今はそうしてくれ。石橋さん捜索の指揮を頼みたい。私は木芽さんに石橋さんの行き先の心当たりを伺うよ。その間、病院周辺をさらっていてくれないか」


瀬口は彼の上司にあたるのだろう。

仕方ないと言うように、葉山と呼ばれた警察官はアレクシを睨みながら渋々ドアの向こうへと消えて行った。


「ようやく舞台が整ったね。さあ、はじめようか」


一瞬、室内に流れたピリリとした空気など構いもせずにアレクシはにこやかに微笑んだ。優雅に組んだ細い両指の上に、小作りな顔が乗る。


「まず始めに言うと、僕はtelepathテレパスだ。口をひらかない他人の考えも理解できるし、口を動かさないで自分の考えを他人に伝えることができる」


(え?…嘘、本当に?)


「嘘じゃないよ。ふふっ。今、中二くさいとか思った?モエが近くに居るんだ。似たようなのが居てもおかしくないだろ? ついでに言うと、この力はそう珍しいものでもない。telepathは世界中にいるからね」


「僕が知ってるだけでも…」と、指を折りながら何人かを思い返している風にアレクシは数える。


「…1、2、…3人は居るかな?でも、Precognitionはとても少ない」


「プレ…何?」


聞き取れず、萌が尋ねた。


Precognitionプレコグニション、つまり『未来予知』。モエ、君の力だよ。極めてまれなんだ」


室内の視線が一斉に萌に集まった。


「まさか日本で出会えるなんて。流石、神秘の国だ」

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