第62話 視える甥 11

「萌、そろそろ寝よう」


「眠くない。兄さんは?」


「俺も眠くないけど」


こんな身体になってしまったからなのか、それとも今日は色々なことがあったからなのか。


「それならさ、朝まで二人で話そう」


「ダメだ。明日からまたお前が頼りなんだから早く寝ろ」


「……わかった」


一応、萌はそう答えたが、不服そうだった。


「ねえ、兄さん。最後に一つ、聞いても良い?」


「ん?」


「どうして俺の前では『僕』って言うの?」


今更すぎる質問だった。

もう、「僕」を使い始めてかれこれ十数年は経つ。


「小さかったお前への配慮だよ。学校の先生だってそう言う人多いだろ?『俺』より『僕』の方が印象がまろやかだし」


「萌のためだよ」と、言ってしまった。

けれど、本当は自分のためだ。

打算があったのだ。

優しい叔父だと思われたい。

昔も今も。

小賢しいけど。


「何か嫌だな。キョリ感じる」


「お前、人の気遣いを…」


「だから、そう言うの必要ないよ。もう俺そんな子供じゃないし」


「わかったよ。じゃあ今度から止める」


「今度からって?」


「妙に突っ込んで聞くなぁ。……じゃあ、元の身体に戻れたらかな」


「約束。早く元の身体に戻ろう?」


すっと萌が小指を差し出す。

恵一もつられて小指を差し出した。

けれど今度は、二人の指は絡まらなかった。


「……おやすみ」


「ああ。おやすみ」


「俺が寝てる間に消えたりしないでね」


かわいいな。そう思った。

身体はでかくなっても、俺にとって萌はいつまでも小さな子どもだ。


「消えないよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る