第59話 視える甥 8

(き、気まずい……)


パタンと閉まったドアの音に、緊張を煽られる。

数年ぶりに見る萌の部屋は、机の上こそ参考書や筆記用具などで散らかっていたが、とても綺麗に片付けられていた。


落ち着かず彷徨さまよった視線が以前、自分が萌にあげたプレゼントの数々をとらえる。


小さい頃から萌は、恵一があげたものを大事にしてくれた。

それが嬉しくてこの子には、昔からついつい貢いでしまうのだった。


(そうだよ、俺。ガキの頃から面倒見て来た甥っ子相手に、何を身構える必要があるんだ!)


そうは思うが、自然と緊張してしまうのだからしょうがない。

調子のいいときは話が弾み出せばすぐに気になら無くなるのに、どうやら今日、恵一のコミュニケーション力は調子が悪いらしい。


そんな恵一の気持ちなど知りもしないだろう萌は、ソファーの、恐らくいつもの定位置だろう場所にどさっと腰を下ろした。


「兄さん」


そして自分のすぐ隣を手の平でぽんぽんと叩き示して、「ここに座ってよ」と無言のうちに伝えてくる。


(近いな……)


一応、大人しく従う。

ただ、ちょっとだけ隙間をあけた。

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