第50話 声 6

声とともにうっすらと見えた映像には、街の街灯を受けて輝くショーウィンドウが見えた。


まるで見覚えの無い通りだ。


しかし、萌は何かに惹きつけられる様に、向かうべき場所がそこだとわかった。

進んだ先に恵一が居る確信がある。

けれど、それがどういう事なのかはわからない。

それでも動かずに居られない。


「ここで止めて」

目的の場所まで来ると、通りの脇の駐車スペースに車を寄せてもらった。


「すぐに戻るから」

そう言って萌は車を飛び出した。

皮膚がピリピリとする不思議な感覚がある。


(この感じ……前にどこかで)


その感覚を頼りに、微かな痕跡を追って通りを走り抜ける。

似た様な店ばかりだ。


(ここじゃ無い。ここも違う)


探すうちに、とうとう大通りのはずれまで来てしまった。

グンと人通りが減って、道が暗くなる。


-どこだ?


「兄さん!」


-どこに居るんだよ


立ち寄る店も無い。

人も居ない。

こんな薄暗い場所なのに。

誰も居ないのに。

何も無いのに……


-兄さんがどこかに居る。


「兄さん!」


何故、こんな場所に恵一が居ると思うのか、自分だってわからない。

けれど。


「兄さ……恵一さん!」



たまらず叫んだ、そのときだった。


ふと、首筋と背中にひんやりとした冷気を感じた。


「「萌…」」


すぐ耳元で弱々しい声がする。

振り向くと後ろから萌を抱きしめる様に立つ、今にも消えてしまいそうな恵一が居た。

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