第23話 けーちゃんの貢ぎグセ 11

暗い話は苦手だ。

友人の悩み事ならば、自分で良かったら進んで聞きたいと思う。

ただ、自分は人にそういった話をするのがどうにも苦手だった。


今も案の定、精一杯サクサクと明るく簡潔に説明したつもりだったのだが、恵一の目に涙の膜が張っているのが見える。

どうしよう。

どうするのが正解だ…?

内心焦りすぎて悩み、萌が黙っていると、恵一の方から沈黙を破ってくれた。

背後の時計をわざとらしく振り返り、

「あ!もうこんな時間になっちゃったな」

と言う。


あまりの大根役者ぶりが、恵一には申し訳ないが、可愛いかった。


時計は10時を指している。


「萌、お前今日はうち泊まってけ。姉貴には明日うちから登校させるって今、電話するから。先風呂でも入っとけ。な?」

そう言うと恵一はさっとリビングから出て行ってしまった。


…自分の携帯を置いて。


(どうやって電話するつもりだ…)


泣き顔を見られたくない叔父の努力を無駄にしないために、萌は「風呂、借りるね」とドアの向こうに聞こえる様に言った。

その間に携帯を持って行ってくれれば良いと思う。

あと二時間で今日が終わる。

萌の見た未来は回避できたようだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る