吹奏楽のための交響的詩曲「不滅の風」

作者 鉈手ココ

88

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★★★ Excellent!!!

誰一人として脇役ではない、誰一人として同じではない。そんな高校生たちの音楽に懸ける青春を、視点を変えながら吹奏楽部の歩みと共に紡ぐ連作短編であり。
そして、「不滅の風」という曲に象徴される、切ないながらも熱く温かい願いの物語でもあり。

非常に心ときめく物語でした。
永遠ではない時間の中で凝縮された熱量が、どれだけ時間が経っても消えない宝物を生み出すのだと思います。

同じ吹奏楽部が六人の視点で、そして多様な仲間との交流や葛藤と共に描かれることで、音楽への向き合い方や楽器の魅力が広く深く伝わってきます。違う個性が音を合わせるのは、楽しいばかりではないけど。それでも違いがあるからこそ、音色の輝きは深くなるようで。

音楽には関わってきた、しかし吹奏楽にはあまり馴染みのなかった自分にとっては、吹奏楽にもっと親しみたくなると共に、これまで聴いてきた演奏を新たな見方で思い返せるようになる要素が満載でした。

演奏シーンの描写も眩しく。コンクール、地域イベント、マーチング、少人数アンサンブル、定期演奏会……と、それぞれ違う方向のチャレンジが待ち構えているのも楽しいです。吹部の「エンタメなんでも部」感。

勿論、キャラ同士の変化や掛け合いも楽しいです。みんな応援したくなりますし、特に気に入ったり自分と重ねたくなるような子もきっといるでしょう。僕は時次くんにかなりシンパシーを覚えていました。
各章のタイトルに彼らの名前が隠れてる、なんて楽しい仕掛けも。あとエピソードにも曲オマージュが。

そしてキーキャラクターといえる、自称宇宙人のバリサク少女、瑛莉ちゃん。
吹っ飛んだ宇宙人設定と突き抜けた明るさ、バリサクに対する強固な情熱と技術。それらの中から徐々に滲んでくる不可解な言動。
その裏にある事情に、築かれてきた絆が収束していくクライマックスの没入感と熱量が最高でした。泣けますし、それ以上… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

吹奏楽経験者であれば、まるで通って来た道を辿るように、そして青春の日々の記憶を辿るかのような懐かしさを感じる事、間違いなしです。

「吹奏楽」と言うと一言で終わってしまいますが、1つ1つの楽器、1つ1つの音が集まって創られるもの。

演奏者の性格も個性も腕前もバラバラ、例え同じトランペットが10台あっても、全て個性も癖もバラバラ。
それらが1つになって、音楽と言う1つの芸術作品を創り出す訳ですから、もう奇跡に近い。

そしてコンクール。
楽しむ事が優先か、勝つ事が優先か・・・

心を1つにするどころか、その狭間で揺れ動き、摩擦や軋轢が生まれます。
それを乗り越えるのもまた、吹奏楽の醍醐味ではないでしょうか。

吹奏楽に青春の全てを捧げた者として、大変楽しく拝読させてもらいました。

★★★ Excellent!!!

経験者、未経験者、音楽歴もさまざまな子の集まる吹奏楽部では、始めは一つの音楽を作り上げることを目標に日々練習しますが、まだ成長段階にある彼女・彼らは、思ったことも遠慮して言えなかったり、疑心暗鬼になったり、悩んだり、他人の才能に嫉妬したり……。

それぞれの性格が楽器を通して音色にも現れることを知り、上手い・下手だけでは計り知れない、それ以上に訴えるものが音楽にはあることを知ります。

一緒に練習する同じ楽器の同級生や先輩とかかわることで、ぶつかったり、考えを話すことでわかりあえ、それまでは見えなかったお互いの良い部分が見えてきます。
どんな想いをもって、一人一人が演奏しているのか。
楽器の演奏だけじゃない青春が、吹部にはあるのだということが、熱く伝わって来ます。

他の方のレビューにもあるように、決して経験者や音楽に詳しい人にしか通用しない物語ではなく、誰にでも身近に感じられ、さらに音楽的な部分の描写が本格的で芸術的である、読み応えのある作品となっています。
学生時代に何かに打ち込むのっていいなぁと、つくづく思いました。

★★★ Excellent!!!

平城山高校吹奏楽部には宇宙人がいる。
正確には、自称宇宙人がいるのです。

そんな個性的な女子高生、瑛莉ちゃん。
彼女の所属する吹奏楽部には彼女に劣らず、誰を引っ張り出しても主役を張れるくらいに個性的な面々が揃っています。

同じ楽器だからって同じ音が鳴るとは限らない。それは、楽器から出る音が奏者の性格や個性に大きく左右されるから。平成山高校吹奏楽部の部員たちも、時に笑い合い、時にぶつかり合っては、自分たちの音を作り上げていく。

久々に一気読みでした。本作はいろんな視点から語られるので、いつの間にかまるで自分もそこにいるかのように物語の中にのめり込んでしまっていました。彼らと一緒に笑ったり、喜んだり、はたまた演奏前にドキドキと緊張したり。そんな感じで読み進めるのが楽しかったです。

実際には私は吹奏楽の曲は知らないのですが、演奏のシーンは雰囲気が伝わってきてこんな感じかなーで楽しむことができました。でも、知っていたらもっと楽しめたのかもなぁと。

お話全体を通して、部員たちのお互いを思いやる気持ちがひしひしと伝わってきました。

仲間っていいな。
きっと読み終わったらそう思える、素敵なお話です。

★★★ Excellent!!!

私も楽器や声楽が好きで、習い事や部活などでしておりました。

ただ、喘息があり、吹奏楽はできませんでした。

本作は、自分の想い出と共に旅に出られました。

一人孤独だった、自分のバイオリン。

皆とできた、ギター。

友達は、トランペットを吹いていたっけ。

彼女だけは、今でもメールをしている。

自分の青春と重ね合わせて、オーディションやコンクールにあつくなる皆の息吹が届きました。

もしかしたら、作者様の青春だったのかも知れない。

そんな色の音がきこえます。

ぜひ、ご一読ください。

★★★ Excellent!!!

こういった専門知識が問われる物語は、どうも入り込めず放棄してしまうことが多いのですが、これは、吹奏楽のすの字も知らない私でも最後まで大いに楽しむことができました。
読者を置いていかない適切かつ分かりやすい説明と、リアリティーあふれる描写。演奏のシーンは、まるで音が聞こえるよう。
キャラクターたちも魅力的で、ひとりひとりの葛藤、そして人生が、とても繊細に描かれています。
今日半日かけて一気読みしましたが、すごく充実した時間でした。
深く瑞々しい、珠玉のヒューマンドラマです。

最後に一言。
書籍化したら、買います。

★★★ Excellent!!!

子供の頃、縦笛が上手く吹けなかった。
だから楽器というものにはまるで興味が持てなくて、オーケストラとか吹奏楽とかも同様だった。
歌うのは好きだから(音痴だけど)歌謡曲なんかは好きだけど、クラシックみたいなのは何を聴いても「ふーん」ってなもんだ。

そんな自分が思わず「with heart and voice」をYouTubeで視聴していた。
多分、これまでの自分ならばいつも通り楽しめなかったはず。
だけど今作を読んだ後では「あ、このパートはあそこで話していたところだな」「なるほどなるほど、ここを合わせるのは確かに難しそうだ」と、ひとつの音も聞き逃さないとばかりに夢中になって聴いた。
それなりの年月を生きてきて、初めての体験だった。

相変わらず楽器は出来ない。
だけど楽曲に込められた演奏者たちの情熱とドラマをこの小説で知った僕は、今はもう奏でられるハーモニーに様々な想像を巡らせることが出来る。
小説から始まる音楽体験。まさかそういうのがあるとは思ってもいなかった。
今はもうこの小説に出会えた幸運に感謝しかない。

★★★ Excellent!!!

何かに熱中する事――
僕は今、何に熱中しているだろう。この物語を読んでいたら、そう自問せずにはいられなかった。だから登場人物たちそれぞれが楽器や音楽と向き合い、やがて同じ方向を見つめ音を奏でていく成長が、一途な熱意が、とても羨ましく思えた。やり遂げなければならない事がある。そういった気持ちのエネルギーを、この作品は(作者は)明るく健気に描き出している。

ここで一点、特筆して伝えておきたいのは――この作品には、吹奏楽を知らない人にこそ、むしろオススメの楽しみ方があるという事。僕は吹奏楽に全く触れた事のない人間で曲も楽器も専門用語も全く知らないのだが、わずかに出てくるそれら用語は物語中の少しの説明と雰囲気でなんとなくイメージさせてもらえたし、なにより無知なおかげでこの作品からはとてつもない感動を受け取った。そのちょっとしたコツを最後に書いておくので、このレビューを読んだ方はぜひ試してみて欲しい。


物語は、一つの吹奏楽曲からスタートする。
各登場人物たちは、その音楽を、今はまだ別々の場所から聴いている。演奏するステージを取り囲むようにして、それぞれの想いが描かれる。その緩やかだけれどもどこか激しい展開に――そして何かがはじまりそうだという熱い予感に、僕はグッと惹きこまれた。なんとなく、そんな風な出だしのクラシック音楽があるような気がした。

それからは各章ごと、主人公がバトンタッチしていく群像劇の形式をとっている。さっきまで主人公だった子が今度はわき役で、しかし確かな存在感をもって新しい主人公を支えている。ずっと存在感のなかった子が今度は主役を張り、そこで読者はその子の新たな魅力を知る。そんな物語を読んでいて、ふと思った。

まるで、吹奏楽だ。

一人一人が、一つの音、一つの楽器、そして和音、楽曲となって組み合っていく。時にソロで、時に伴奏で。沢山の感情がカラフルな音色に… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

高校吹奏楽部を舞台とした、青春群像劇。
この物語の魅力は、大きくふたつの軸で出来ている。


ひとつめは、吹奏楽そのものの楽しさや、青春のまばゆさ。
筆者の実体験も大いに含まれるであろう、魅力的な楽曲や楽器、高校吹奏楽部の舞台裏は、圧倒的なリアリティを持って聴く(あえて読むではなく、聴く)ものの心を震わせる。
その現実感が、押しつけがましくなく巧みな文章表現によりストーリーに反映され、納得感と感動の連続はまさに協奏曲のよう。
また、アオハルらしい、みずみずしい感情の競演。ときにニヤニヤ、ときにくすっと、ときにきゃー! となってしまう青春の煌めきは、多くの方の胸を打つだろう。


ふたつめは、中盤から後半にかけての構成力。
大きなコンクールを終えて、ひとつの区切りがついたあと、今まで丁寧に立てて来たフラグが、少しずつ回収され始める。
そこには、切なさ、悲しさ、歯がゆさ、胸を締めつけるような愛おしさがあって。聴き続けるしかない没入感とともに、あっという間に読み終えてしまっていた。
特に、最終話の少し前に起こる、感情の集積は必聴。目の奥がじんわりと熱くなるのを感じる。


そのほかにも、メインはもちろんのこと、魅力的な多くのキャラクターにも注目。セリフ回しを聞くだけでも楽しい。
そして、各章のサブタイトル。メインの登場人物に合わせて構成されており、細かい部分への気配りを感じさせる。

間違いなくオススメの青春群像劇。ぜひとも、一人でも多くの方に、この素敵な交響曲を聴いて頂きたい。

★★★ Excellent!!!

一気に読めました。
とりわけ中盤からの話の展開がとても魅力的ですね。鉈手さんの書きたい気持ちが溢れるようで、こちらもページを繰る手が止まりませんでした。

学生時代、吹奏楽部でなかった私は極めて近い位置で他の部活に勤しんでおり、時折楽器を演奏する同級生たちの姿をちらりちらりと見かけていたのですが、あの吹奏楽部の人たちはこんなことを考えていたのか…と、はっとするところがありました。顔では考えていることが分からなくても音色は雄弁で、のような表現や、演奏中に楽器が鳴る度にあの子の楽器の音色だ…と心に思うところなど、自分が追体験しているようなリアリティがあり、この気持ちを共有していたであろう吹奏楽部にいた人たちに少しジェラシーを感じます。

あと、キャラクターの描写も上手ですね。序盤は人数の多さに把握出来るか不安でしたが物語を読み終える頃には各キャラクターが実在の人物かのように脳内で勝手に動き回っていました。
他の作品もまた読ませてもらおうと思います。これからも執筆活動頑張ってください!!

★★★ Excellent!!!

青春群像劇もの。

吹奏楽部を舞台に描かれる高校生の物語で、10代の子たちのリアルな空気感が絶妙に表現された素晴らしい作品です。また吹奏楽に関する豊富な知識のもと描写されているので、作中の練習やコンクールなどといった音楽シーンはリアリティがあってとてもよかったです。この青春要素と音楽要素の描写クオリティがよいので、まさに目の前で作中の登場人物を見守っているかのような気分になります。

あと、癖のない文章であり、ストレスフリーで読み進められるのもいいですね。吹奏楽ものに限らず、専門知識を必要とする作品はどうしても説明描写が多くなりがちで、くどさと退屈さが増してきてしまいます。この作品も説明的な部分が多いことは多いのですが、しかし文体的に内容がスルスルと入ってきます。この専門知識系作品特有のデメリットを文章力でのカバーというアプローチは、非常に素晴らしいと私は感じました。

作風の傾向としては『響け!ユーフォニアム』に近いものがあると思います(同じ吹奏楽ものですし)。おそらく『響け!ユーフォニアム』が好きな方はこの作品も気に入ると思われますので、オススメします。


★★★ Excellent!!!

 吹奏楽部を中心に描かれる青春群像劇。あたかも作者様や読者がこの高校の吹奏楽部にいるような、不思議な錯覚さえも起こさせる。キャラクターの作りこみと、楽器の組み合わせが素晴らしかった。レヴィ=ストロースの『やきもち焼きの土器つくり』の序章を彷彿とさせる。この著書は神話学の本だが、序章は楽器とその奏者のイメージが何故結びつくのかという事について論じられている。まさにこの作品が体現しているところである。
 何と言ってもこの作品の登場人物たちは、音楽を愛し、楽器を愛し、そして仲間を大切に思っている。これだけの個性豊かな多くの人物をぶれることなく描写し、登場人物たちの関係性に神経を研ぎ澄ましているのに、これらのことに対しては初志貫徹している。
 また、音の表現についても細かく描写されていて、音楽が苦手な小生でもすんなり読むことができた。また、曲の説明もなされているので、まるでコンサート会場でゆっくりくつろいで鑑賞している気分になる。そして何より、登場人物たちを応援したくなる。
 これだけの登場人物が多いのに、個性がかぶらないため、誰でも誰かに感情移入できてしまうこの作品。是非、お聞きください。

★★★ Excellent!!!

この作品は音楽と向き合い、演奏に情熱を捧げる、吹奏楽部員達の青春群像劇です。

物語は『自称宇宙人』である一人の少女を中心に、彼女と関係する人物達の視点から描かれた、それぞれのエピソードによって進んでいきます。
吹部という大所帯の部ならではの、考え方もキャリアも全く異なる奏者達が織りなす、音楽に対する熱意や苦悩、衝突そして友情といった様々な人間模様が展開される中、彼等はコンクールという目標目指して想いを一つにしていくわけですが、やがて物語は意外な結末に向かうことに。
どのような結末かは、是非読んでいただくことをお勧めします。

部活動。文系、体育系その種類は多々ありますが、学生時代何かしらの部・サークルに所属していた(もしくはいる)方がほとんどではないでしょうか。
特に中高なんて勉学が本分とはわかっていつつも、他のことを何も考えず部活動にひたすら打ち込んだ時期があったはずです。
朝練いって、早弁して、足んなくてお昼食べて、授業寝て、放課後真っ暗なるまで部活やって――技術云々とか上達云々の前に演奏してるのが楽しくてそれだけずっとやってたかった――そういった学生時代の熱い想いを、読んでいて思い出すことができた作品でした。

音楽に対する知識がなくとも、高校生の全力青春ストーリーが楽しめますし、楽団経験者なら散りばめられた吹部あるあるに思わずにやりとしながら楽しめると思います。
作者の作品に対する熱意と楽想、そして音楽知識に敬服せざるを得ません。

この度完結されたので拙いですが、レビューさせていただきました。
お疲れ様でございました。

★★★ Excellent!!!

吹奏楽部に入部した六人の新入生が主役の群像劇。
六人それぞれにスポットライトを当てていきながらも、吹奏楽部という母体を軸にして一つの大きな物語が進んでいきます。
それぞれのエピソードで読者の心を揺さぶりながら全体の物語を徐々に盛り上げていくので、一気に読みたい人も、区切りのいいところまで読んで休憩する人も等しく楽しませてくれるのです。

エピソードが変わり主役が変わっても、吹奏楽部の物語としては地続きに進み、一年という時間が少しずつ流れていきます。
そのため読者は主人公たちの過ごす青春の一年間にぴっとり寄り添い、物語を楽しめます。
まるで部員の一人になったような一体感を持って読めるのはとても心地よい体験です。

そして音楽への愛着を感じる丁寧な文章で、練習や演奏の描写や説明がされます。
音楽の知識のない読者を置いてけぼりにしないよう配慮もされていて、
物語を効果的に彩るためにその愛と知識が用いられているところが最大の特徴。
細部に気を配りながらも全体のバランスを管理することも怠らない。
音楽のみならず読者への愛まで感じさせる文章、
そして登場人物たちのことも愛しているとわかる、とっても気持ちのいい物語でした。