さようなら。私のふるさと

団地へ行くといろんな知り合いに出会います。随分とオッサンになった同級生を見かけた事もあります。あちらはあちらで私の事を随分オバサンになったと思っている事でしょうが。。父の知り合いもいます。。しかし、今回私が行くと私の姿を見てそそくさと方向転換される事も多く、そうならない場合においては挨拶しますが、怪訝に思っているであろうことはすぐに分かります。。「父から色々聞いているんでしょうね。」と言うと。。「ああ。。お金の事をね。。」と言った方もいます。

もう、父も戻らないのだし。。と思って全部話しちゃったこともあります。

「お金を持ち逃げして私が来なくなった。」なんて。。その前は私は北朝鮮で死んでいた事になっていたのです。。世間からしたら興味津々な訳です。。

介護中父とお茶を飲みに行ったカフェがあって。。今回私はそこに寄って一呼吸おいてから帰宅していました。。ここでも私の悪口は言われていたようです。私が小学生の頃から知っている常連さんと店主だけになった時。。父との事を話し、お金持ち逃げに関しても嘘話だと言いました。で、色々話すうち面倒になって、ネットに私の自叙伝があるからそれを読めば分かると思いますよ。。と言うと、まず、店主が怒り出しました。「あんな良いお父さんの事をどうしてそんな風に書くの!」って。。「少しはお父さんの功績を考えなさい。あなたのそんな事ぐらいでお父さんに泥を塗るようなこと。。世間が許さないから。」って。。「あんなに温厚で良い演技ができる人だったのよ。。お父さんのそんな話、知ったらみんな傷つくじゃない。あなたにそんな権利は無いわよ。。私だって傷ついてる。。そんな話は胸の中に納めるのが常識ってもんよ。。」まぁ一気に言われた訳ではありませんが、でも、夕飯一食食べる時間内くらいでこれぐらいの事は言われました。もう一人の常連さんからは。。「書きたきゃ書かせりゃいいわよ。。言っとくけど私だって戦争でそれは酷い目にあってる。でもね、当時はそれはみんなで支え合ったわよ。でも今はもうそんなことは忘れたの。。忘れていきなきゃね。。」

{心の中で思った。。当時話せる状況で救われてるではないか。私は当時もっと話せなかった。。。今はもう忘れてる?否、戦争の事忘れちゃダメでしょ。。次世代に言い伝えなきゃ。。そうやって運動してる人も居る。だから戦争の悲惨さが中々伝わらない世の中になってるのに。。それに忘れて生きる。。そんな風に生きて体に悪いって事散々体験してきた。。}

更に続けられました。

「誰にだって人に言えない過去はある。。そんなことぐらいをいつまでもこだわって本にしようなんて、いいわよやればいい!あなたが避難されればいい。。」って。。

「私も非難されたいですよ。。避難されるようになれば本望です。それだけ話題になるってことだから。。今増えてるんですよ。。同じ被害者。。でも、もういいです。この話はやめましょう。。」といっても終わらない。。

「あなた。。書くつもりなんでしょ。。」って。。

「ここで言われた事ぐらいでやめるんだったら最初から書きませんよ。。」と言った。。


この日から私は嫌味の様に実家に行くたびにこのカフェに堂々とお邪魔しました。。

ここまであからさまに言われると私は人間ウォッチングしたくなっちゃうアマノジャクです。。ただ、食事をして帰ってくるだけでも話さなくてもいいのです。。

堂々とお客として。。嫌がる話は申しません。。だから普通に。。

すると、向こうから父の話を振ってくる。。

「お父さん今どうしてる?」とか。。そろそろ私の病気の問題もあるから手をひこうかなと答えた途端。。店主が噛みついてきました。。

「あなた娘なんだからお父さんの面倒を看る義務がある。世間の人はみんな親の介護で苦しんでる。。あなたの過去がどうであれ、介護を手放すなんて世間が許さない。それに法律だって逃れられるわけがない。。」

私は「そうなんですか~。」と答えてバクバクご飯を食べてました。

常連さんも「いい根性してるよ。あんたも!まぁそのぐらいじゃなきゃ生きられなかったんだろうけど。。やれるだけやりゃいいんだよ。」

。。。。

最後の日にご報告だけ。。完全に開放されました。。色々ありがとうございました。。と挨拶しました。。


昔。。このお店があったところがパン屋さんだった。。端っこのお店は手芸やさん。。後は八百屋さん魚屋さん肉屋さん酒屋さん米屋さんだった。お向かいは蕎麦屋さん。寿司屋。文房具屋。薬屋。美容院。床屋。。

みんな私と母との思い出の場所。。

そう。。伊勢丹も。。父と会いたくないから封印していたけれど。。伊勢丹には伊勢丹オリジナルっていうのが昔あって。。習い事に行く私を目立たせるために母が良く私を伊勢丹に連れて行って洋服を買ってくれた。。伊勢丹はセンスがいいって!

私と母との思い出は全部塗り替えられてしまったんだと思いました。


城田さんに鍵を渡し、父を手放すにあたり、父の焦げ付いた不払い金には手を付けないようにする事。どこか一か所でも手を付けたら保護者という事になるのと、不払いも全部に支払わなくてはならないそうです。なので介護事務所の支払いもしないでください。と言われました。問題は私の母が眠る墓。。父の名義なのです。利用料は振り込み扱いでしたので私の方に送ってもらっていましたが、速やかに父の居なくなってしまう団地に戻してくださいとのことでした。その利用料も私が支払ってはダメだそうで。。お墓は放置ということになります。

父の株もそのまま放置。。だそうです。。

まるでババ抜きをしているようでした。区は水道代三十万以上の人のライフラインを守るとなると特別予算が必要になってくる。。きっと早く私にサインさせたかったのでしょう。でも、みんな悪気なく自分の立場や言ってみれば家族を守るために、そのギリギリのところでそれなりに父が路頭に迷わないように一生懸命やってくださったのだと思います。。今は素直に感謝しています。


後に霊園に電話して住所を元に戻してもらう手続きのついでにこのような場合母の骨がどうなるのか聞いてみました。。

暫くはそのままお墓はあるようで、本当は墓じまいに二十万円程かかるそうですが、その費用と未払い金は父の負債になる。でもだからと言って母の骨を粗末にはしないそうです。。永代供養の墓地に移動するらしく、お墓参りに来て、もし、お墓が無くなっていたら合同慰霊塔の方をお参りすればお母さんに届きますよと教えてくださいました。


今回サインをしないと最終決定したのは佳代さんのやっていた株の口座のおかげです。

私の母には申しわけないけれど。。お墓の事。。母もきっと「もういいよ。」と言ってくれているような気がします。

母は大地から、佳代さんは海から、私を守ってくれているような気がしています。


団地を去る時。。さようなら。。と一言つぶやいた。。

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