続くコン・カローレ
「なーリンー」
「む。何だ、カンノ」
「リンってもうバンドやんねーの」
今ではゲーム実況の方が濃い感じになっているけど、元々俺たちとリン君は音楽で知り合っている。年末にあったシャッフルバンド音楽祭という企画が元で出会っていて、俺とカンはCONTINUE、リン君はブルースプリングというバンドで出ていた。
CONTINUEは今でも精力的に活動をしているし、USDXで使っているBGMもCONTINUEで作っている曲がちょこちょこある。だけど、あれからリン君がバンドで忙しそうにしている様子を見たことがなかったのだ。
そりゃあ、俺だって少しは気にしてたけど、それをズバッと訊きに行けてしまうのがカンなのかもしれない。やってるのか、やってないのか。やってないとすれば、これからどうするのか。進退が気になるのだろう。
「ベースの先輩が向島を出たからな、当面はないだろう。青山さんの進路のことはスガノも知っているだろう」
「言って年末もピアノとカホンだったじゃんか」
「元々ブルースプリングというバンドは大学祭の中夜祭に出るためだけに結成されたバンドで、年末までその名前があったのが不思議なくらいだ。確かに解散とは聞いてないが、事実上は解散しているだろう。そもそもがベースの気紛れだ。そのベースがいなくて何をどう活動するのかと」
「ウソだ!」
「ウソを吐いてどうなる」
「解散とか、メンバーが許しても俺が絶対許さねーからな!」
「カン、それくらいにしとけ。他所のバンドのことなんだから」
「だってよー、スガー」
「あ、リン君カンがごめん」
「いや、気にしてない」
こういう活動をしていると、活動休止だ解散だという話は腐るほど聞いて来たし、何も珍しい話じゃない。だけど、カンがブルースプリングに執着する理由だ。それが俺にはまだ少しよくわかっていない。いい刺激を受けていたんだろうとは思う。
カンがブルースプリングの曲を練習していた時から、当時は顔も名前も知らなかったブルースプリングのピアノに対抗意識を燃やしていたように思う。今はこうして一緒にゲームをするまでになったけど、それでも原点はピアノだ。
ブルースプリングの曲に触れてからのカンは、それまでよりもがむしゃらに練習をして、それまでよりも誠実に音楽に向き合っていたと思う。練習も、ショパンばかりでなくベートーヴェンなどにも手を出すようになった。
「だって、何だかんだ俺はまだブルースプリングの完全体を見てないんだぜ!?」
「まあ、確かにそうだけど」
「ちゃんと3人揃ってたらどうなるんだよ!」
「学祭の映像ならあるが」
「生じゃねーと意味ねーの! でも映像は見る!」
「はいはい」
「それにライバルがいなくなるとピアノも編曲も張り合いがないし!」
「ライバル? オレが、お前のか」
「あっクソ、俺の事なんか眼中にないみたいに言いやがってー!」
どうやら、俺が思う以上にカンはリン君から刺激を受けていたらしい。えっお前これで飯食ってくつもりなのかと思わず訊ねずにはいられないほどの熱量。あまりに堂々たるライバル宣言に、リン君も呆気に取られている。
「そりゃあ一緒にやるのは楽しいけど、やっぱ負けたくはないんだよ。手が小さくたって、俺にはやれることはいっぱいあるし」
「確かに、お前はキーボードの機能をフルに活用することと運指の速さに関しては群を抜いている」
「でも、リンは俺の運指にもついて来たじゃんか! マジかよって思って! 就職か解散か何か知らねーけど、そんなことで埋もれさせていいプレイヤーじゃないんだよお前は!」
「……いや、バンドでの活動は当面ないが、洋食屋のバイトはまだ続けるぞ」
「え」
カンの熱量があんまりなものだから、リン君も少し引き気味だ。洋食屋のピアニストとしての仕事はまだ続けるというその報告に、音楽自体から身を引くんじゃないかくらいの勢いで語っていたカンはすっかり固まる。顔の前で手をひらひらと翳しても、反応がない。
「リン君、カンがごめん」
「いや。しかし、プレイヤーとしてここまで求められた経験はそうそうない。バンド活動こそ当面ないだろうが、機会があればコラボレーションやゲストプレイなども視野に」
「スガ! コラボやるぞ!」
「早っ」
「あとさーUSDXのBGMとかも一緒に作ろーぜ!」
「それは興味深い」
「決まり!」
ゲーム音楽を通って来たピアニスト同士、何か思うところがあったのだろうか。それか、単純に今がいいからこそのノリや勢いなのか。どっちだろうと何だろうと楽しかったら別にいいけど、テンションの上がり切ったカンの面倒を見る方の身にもなってもらいたい。
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