その日に向けた問題は?

 例によってかかった緊急招集。今度は何かと言えば、3年生まで集まったちゃんとした特別活動日。しかし菜月先輩はご実家にいらっしゃるので今日ここに来ているのは菜月先輩以外のメンバーということになる。

 何の議題かと言うと、4年生卒コンと卒業式のお見送り、それからその時に手渡す色紙だ。泣く子も黙る筆不精集団MMPでは、この色紙というのが何よりの大問題だった。卒コンは卒コンでまあ、粗相のないようにといういつものヤツを。


「他の大学さんは卒コンどうしてんのかって聞いたら緑ヶ丘がマジパねえ」

「ノサカ何ハマちゃんのマネしとんの」

「ん、緑ヶ丘の飲み会がパなくない理由は見当たらなさそうだけど?」

「圭斗先輩、何がパないのかと言いますと金策です。大学祭で稼ぎに稼いだ金を積み立てて、ここでどーんと解放すると」

「やァー、緑ヶ丘はさすがスわ。しかしここは向島。金もなければ策もないンで、諦めやしょう」


 果林によれば、緑ヶ丘の学祭で行われた女装ミスコン、そこに伊東先輩とタカティが参戦していたそうだ。伊東先輩は優勝賞品の某オーディオメーカーのカタログから好きな物というのに釣られた高崎先輩に売られたとかで出ていたそうだ。

 そこでしっかり機材を獲得して来られたのと、超絶美少女の伊東先輩とインテリ系美女のタカティが何とサークルで出している焼きそばの売り子を担当。使える物は使えという高崎先輩のお言葉通り、使う物を使って学祭のブース賞まで獲ったそうだ。

 一方我らが向島は、自分たちが食べるためのスープをたまに来た人に適当に売りながら、その日の材料がなくなれば営業終了。早々にテントじまいをして中でウノなどを始める始末。そんな調子で儲けらしい儲けなど出るはずもなく。

 緑ヶ丘のように女装ミスコンでもあればと思ったけど、MMPじゃ出来上がるのはゲテモノばかりだろう。唯一圭斗先輩がそれらしくなるかと思われるけど、圭斗先輩は女装しない方が美人だと思う。


「卒コンはどうにでもなるんだ。問題は色紙なんだよ」

「やァー、これだから筆不精は」

「ちきしょう律てめえ! しかし誰も反論出来ない!」

「ボク今年なんかちょっと書けそうな気ーする!」

「ナ、ナンダッテー!? ヒロの野郎、裏切りか!」

「ボク今年語彙力つける練習したしね。去年までより自信あるわ。去年と違ってメッセージ書くん知っとる人やし」

「あ、それもそうか」


 1年の時の4年生と言えば、既にサークルを引退しているということもあってどういう人たちなのかもあまりよく知らなかったし、色紙にメッセージをと言われてもいまいちピンとこなかった。

 だけど2年の時の4年生、村井サンと麻里さんと言えば自分たちが1年の時の3年生だからガッツリお世話になっている。4年生になられてからもサークルにはたまに顔を出してくださっていたし。そう考えると、俺も少し自信が出てきた。


「それじゃあ、各々このカードに書いてくれるかい?」

「圭斗先輩、このカード何ですか」

「筆不精の僕たちが、この小さいカードにメッセージを書くだろう? それを菜月さんが写真を貼りイラストを描いて装飾してくれた折り畳み式の色紙にレイアウトする。そうすると一冊のメッセージブックが出来上がるという仕掛けだよ」

「相変わらず菜月先輩の酷使が激しいスわ」

「まったくだ」

「僕たちの時にはこんな大層なこと、期待しないから好きにやってくれればいいよ。菜月さんあっての小細工だし」

「ははァー、自分らは小細工は出来ヤせん。でも、菜月先輩と圭斗先輩への想いを綴ろうとするとカードや色紙で足りなくなる男が出ると思うンで? そりャあー愛のこもった封書とかになると思うンす?」


 そしてじっと突き刺さる視線。まあ、そりゃあカードや色紙で菜月先輩と圭斗先輩への想いが足りるはずがないのは事実なんだけれども。いや、ちゃんとした手紙に想いを込めていいのならそうするけど。いや、重いか? いや、しかし。


「あの、圭斗先輩」

「ん、どうした野坂」

「大変失礼な質問になるかと思いますが、村井サンは本当に卒業出来て…?」

「一応卒業出来るらしいから、ちゃんと送り出してやるように」

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