インタールード

「はー、お疲れさまー」

「お疲れさまでした」

「じゃあ、撤収からの移動ねー! 青山隊行くよー」


 ――と、いつから“青山隊”になったのかはわからんが、路上ライブが終わって次の場所へと移動する。

 元は、青山さんから吹っ掛けられた話だった。春山さんに対するドッキリを仕掛けたいのだと。現在、春山さんは年末年始で実家のある北辰エリアに帰省している。春山さんのいないところで面白いことをやるぞ、というドッキリだ。

 それが、ブルースプリングのベース抜き編成でやる路上ライブ……だけの予定だった。オレも春山さんへの復讐のためと青山さんからの誘いに乗ったまでは良かったが、路上が終わってからもまだまだ宴は続くのだという。

 機材サポートの高山、それから路上ライブを見に来ただけのつもりが気付いたら踊り子と化していた綾瀬もこれから始まるもうひとつの宴の出演者。“青山隊”と名付けられたオレたちは、それぞれの機材を担ぎ駅へ向かう。


「綾瀬、お前のそのスーツケースは何だ」

「今日東都から帰って来て直行だったんですよ!」

「ほう? この時期の東都と言うとコミフェか、お前のような人種であれば」

「さすが雄介さん、大正解です。友達と3日間行ってたんですよ」

「お前が行くのであれば買い物を頼むのだった」

「雄介さんもコミフェに行く用事があったんですか?」

「同人音楽などは結構好きだからな。いつもはスペースを出しているサークル主についでの買い物を頼んでいたのだが、腰痛を拗らせて今回は参加を見送ってな」

「ああ…! 腰は辛いですね…! また機会があれば遠慮せずに言付けてくださいね」


 ただ、綾瀬が言うにはコスプレ道具と戦利品だけでなく、これから始まる宴の衣装も入っているとのこと。あらゆる事態を想定した荷造りをしてあったそうで、分単位のスケジュールで動く年の瀬の戦争を想わせる。


「みんなどう? それぞれのノルマは」

「私は舞台曲がほとんどだったので普段とやることが変わらないかなと思ったんですけど、ロックの曲もあったじゃないですか。ドレスでロック? と思って」

「いいじゃんドレス。最高にロックじゃん」

「私はやっぱりまだ慣れませんね。誰と組むのかという問題もありますし」

「あっ、ネタバレにはなるけどアオキちゃんの番には俺かたいっちゃんのどっちかは絶対にいるから安心してねー」

「初心者への配慮をありがとうございます」

「主催の相方も、普段ライブにも行かないような初心者の子がやるんだよって言ったら楽しみだーって言ってたよ。どんな音楽も楽しい物だって思ってもらえるようにしたいって言ってさ」


 それから青山さんは、自分の知り得る宴の情報をネタバレになり過ぎない範囲で語ってくれた。参加バンドは当初予定していたより多くなったこと。人が人を呼び、人数もどんどん増えたこと。当初は手薄だったボーカルも増えたとか。

 これから行く丸の池公園近くのライブバーには、1回だけ行ったことがある。あれは確かオープニングライブの日で、サックス奏者の須賀誠司が来るという話を聞いて春山さんと特攻をかけた記憶が蘇る。確か、立派なグランドピアノが置いてあった。


「そうそう、リン君はキーボードも持って来てもらってるけど、お店のピアノも弾いてもらうよ!」

「そうですか。あの店のピアノは立派ですからね、純粋に楽しみです」

「この音楽祭もライブで芹ちゃんに見てもらいたいから、現地での中継もアオキちゃんにはお願いしたいしー」

「人遣いが粗いですね」

「後でちゃんとお礼します」


 そう言ってウインクを飛ばす青山さんの不気味さと言ったらこれ以上はない。これから何が起こるのか、わからないことがワクワクするのと同時に一定の恐怖もある。ただ、それがスリルという物なのだろう。安定ばかりではつまらん。予測不能なくらいが面白い。


「ところで青山さん」

「どうしたのリン君」

「音楽祭も中継すると言いますが、それを春山さんが確実に見るという保証はあるんですか」

「何時に送るチャンネル見てねーとは言ってあるから大丈夫だと思う。何だかんだ芹ちゃんて、悔しがりながらも体がそれを求めちゃうから」

「ほう」

「あっ、それっていうのは音楽の事ね」

「……この文脈で他に何が?」

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