地獄でサバイブ

「年の瀬の忙しい時期にお邪魔して申し訳ございません。こちら、つまらない物ですがお世話になりますお礼と年末のご挨拶を兼ねてお持ちしました。どうぞ皆さまでお召し上がりください」

「あらー、こーたクンいつもご丁寧にどうもー。どうぞ上がってー」

「お邪魔します」


 こーたがちょっとした荷物を持ってうちにやってきた。本人曰く「親年代の女性と仲良くなるのは得意」とのことらしいけど、うちの母さんもこーたには甘い。どんなにこーたが人として出来ているように見えても所詮ただのウザドルだ。


「こーたクンも大変だったわねえ、せっかくのリゾートなのに留守番で」

「いえ、私はバイトもありますし、私みたく口煩いのがいない方が弟も気楽でしょうから?」

「確かにこの時期のスーパーは戦争よねえ」

「私はレジ打ちなどではなくサービルカウンター業務や贈り物のラッピングが主な仕事なので、生鮮食品ほどではありませんね」

「あらっ、もしかして今持って来てくれたこういう包みも自分で出来たりするの?」

「はい。これは実際に私が包みました」

「あら上手ー」


 チッ。ウザドルが安定のウザさだな! まあ、こーたがこうやって母さんの機嫌をそこそこに保っておいてくれれば平和な年末年始を送ることが出来るかもしれないと思っておいてやろう。

 そもそも、神崎家はこーたの弟(高3)の彼女(中3・ハーフ)の家から年末年始は南の島でとお誘いを受けて、家族揃って出かけているのだ。こーたは先述の通りバイトがあるからと留守宅を預かっている。

 ――と聞くとこーたが真面目なヤツにも見えてしまうかもしれないが、実際はどうしても外せないネットの生放送やその他国内であるイベントの生配信を見たりするのに忙しいのだ。オタ活ってヤツですね。

 で、何かよくわからないけどこーたがしばらくうちにいるみたいですよ? 意味がわからない! 何がおかしいって、母さんを除く家族もこーたのことを割と好意的に受け入れてるところなんだよな!


「フミ、アンタさっさと布団運んじゃって」

「えっ、布団って」

「こーたクンの布団」

「――を、どこに」

「アンタの部屋によ」

「ナ、ナンダッテー!? いや、それだけはご勘弁を! ご慈悲を!」

「どうせ2人仲良く朝日が昇るまでネットかゲーム三昧なんでしょ。だったらアンタの部屋に布団を置くのが一番いいじゃない」

「ご、ご尤もです……」

「お世話になりますので、お布団は私が運びましょう」

「あらそう? ごめんねえ。フミ、アンタ友達と一緒に寝れないってどんな疚しいことがあるの」


 疚しいとかではなく、こーたと言えばインターフェイスの中でも伝説級の寝汚さで……。いびきと歯軋りで眠れなかった子羊は数知れず。俺も寝相の悪さが通報級らしいけど、それでもこーたよりはマシだと思う。こーたのはガチだ。

 そんなこーたとそこまで広くはない部屋で布団を並べて寝るとか拷問でしかない。それこそ延々とオールし続けるしか逃げ道がないじゃないか。いや、他の家族に迷惑をかけるくらいなら俺がそれを受けろということか。


「野坂さんと布団を並べると、明日には見知らぬ痣が大量に出来ていそうですねえ」

「お前にだけは言われたくねーよ。お前と同室とかそもそもうるさくて寝れない」

「そうは言いますが、野坂さんくらい入眠が早いと私の騒音など屁でもないと思うんですよ。それに、野坂さんの眠りは深いじゃないですか」

「何でお前が俺の眠りの深さを知ってんだよ、適当言ってんじゃねーぞ」

「いえ、電車を寝過ごしで往復出来るということは、多少の騒音や揺れなどは意に介さず眠り続けることが出来るということではありませんか。その結果菜月先輩を何時間お待たせしたんです?」

「お前! そこで菜月先輩の話を持ってくるのは反則だろ! 新年を迎えられなくしてやろうか!」

「フミ」

「はい」


 何だか去年より騒々しい年末になりそうだなあという気がしてきた。まあ、実際ネットかゲーム三昧だろうし何の問題もないワケだけど。オタ活をしたいのは俺だって同じだった。はっ、年末には菜月先輩にご挨拶を入れないと!

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