何を残し、育むか
「うわ、うまっ」
「バンちゃんサイコー!」
「ありがとー。俺も友達から教えてもらったんだー。簡単だし2人もやってみなよ」
秋学期の授業が一段落して、帰省してきた。ひょんなことから今年の夏に再会した友達とうだうだ集まる年の暮れ。俺の実家なのに支度をするのがバンデンなのはご愛敬として、とにかく愉快なメンツの鍋パーティーだ。
「今になって気付いたんだけど、薫くんの家族は?」
「父さんと母さんはクラシックコンサート、兄貴は学校、渚は塾じゃねーかな。受験生に盆正月はないとかニートは自由だなとか帰ってきて早々嫌味言われたっつーの。うるせえ趣味もなければ勉強に目的もねえクセにっつって」
「うわー。ロイド君、安定の兄弟仲の悪さだな」
俺と渚のそれに関しては今に始まったことじゃない。兄貴がいれば兄貴が納めてくれるけど、いなければやりたい放題だ。ただ、最終的には大体のパターンで渚が「低能なニートに構っている暇はない」と言って逃げていく。
「お兄さんて先生だよね。数学だっけ」
「ああ、数学。うちは親も含めて文系なの俺だけだし、さらにそれを教えるとか理解出来ねーんだよ」
「あー、理系は文系なんざクソって思ってるみたいなトコあるもんな」
「それな」
「う、ううん、違うよ薫くんしんちゃん、文系の人をバカになんかしてないよ。文系の人がいるから保ってる世の中の構造があったり歴史の新事実が明らかになったりするんじゃない」
密かにめちゃくちゃデキる理系のバンデンが文系の中でも底辺にいる俺とシンのフォローに忙しくしている。バンデンは人が良すぎる。自分の能力を鼻にかけることもしないし、その上謙虚すぎるのだ。お前は自分の出来ることをもっと誇れよと思う。
「あ、つかバンちゃん話戻るけど後で鍋のレシピ教えて。緑ヶ丘に戻ったら俺もやりたい」
「うんうん、いいよー。薫くんは?」
「俺も聞いといてみようかな。いつだって山口がやってくれるワケじゃないし」
「ロイド君、アニは元気?」
「ああ。こないだ泊まりで出かけてきた」
「あっ、そう言えば薫くん」
「ん?」
「こないだ大学のゼミの子たちとお鍋やったんだけど、そこの後輩に野坂くんと佐久間くんがいてさ」
「――っつってもあんま喋ったことはないんだよな、知ってるけど」
彼らの話は定例会で圭斗から、あとは戸田から対策委員での愚痴と一緒に聞くから何となく知ってはいるけれど、俺が直接話すとかではないからちゃんとは知らない。だからそれを聞いたところで大袈裟なリアクションも取れない。
「同じことを野坂くんも言ってたよ。それでさ、高校のときにやった漫才の話になって。映像持ってたりしない? 見たいって言ってくれてるんだ」
「どうだったかなあ。パソコンにあると思うけど。あとで見とくわ。あ、でもその映像をスマホに送るとかのやり方はわかんないな」
「大丈夫、そういうのは見ればわかるよー」
「バンちゃんさすが理系」
「理系すげえ」
「今のケースは別に文理関係なくないかなあ」
昔勢いでやったそれを今になって見たいと言われることに対する恥ずかしさは少しある。書いた物の粗もそうだし、さらには自分が舞台の上に立って演目を披露しているワケだから。俺は“ステージスター”には到底向かない。
ただ、書いた物は時々掘り起こさないと自分の中にも残っていかないし、自分の中に残らない物が他人の中に生き続けるかと言えば、必ずしもそうでもない。作品を出した時の人の反応を見て何を残し、育てていくのかを見極めることが“書くこと”には必要だ。
「そう言えばさ、話全然変わるけどさ、ロイド君家って確かめっちゃボードゲームなかった?」
「ああ、あるある。何かさっき見てたらまた増えてたし。鍋終わったらやるか」
「やろうやろう!」
「あっ、いいねー。今ボードゲーム流行ってるみたいだしねー」
すると、ドアが開いて誰かが帰ってきたような音がする。……渚じゃないといいんだけど。いろいろめんどくさいし。
「ただいまー。薫、やってるね」
「あ、兄貴。おかえり」
「お邪魔してます」
「玄関まで美味しそうな匂いしてて、お腹空いちゃったよ」
「薫くん、お兄さんにも食べてもらったらいいんじゃないかな」
「そっか。そしたら兄貴はそっち空いてるトコ座ってもらって」
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