バブリーな妄想は泡となる

「ねえ……たまちゃん……」

「アヤちゃん大丈夫?」

「大丈夫じゃないよ! 何これ! テロ!?」

「ちょっと体を張ればこれくらい楽勝ですよ」


 アヤちゃんに見せたのは、先日ノリと勢いで撮ったサンタクロース衣装での写真。ただのお遊びをコスプレが本職の人に見せるのはなかなか勇気が要るけど、見せたかったですよね。うちはともかく相方のクオリティですよ。


「カズさん超絶美少女! 尊い! 5000兆点! いくら積めば写真集出してもらえますか!? 5000兆円!?」


 何を隠そう、カズを女装させて撮った写真ですよね。それこそ本当にノリと勢いで。まあ、前科って言うか、学祭の女装ミスコンでやってるから要領は掴んでるし、あとはいかにカズをその気にさせるかですよ。

 で、そこが体を張るポイント。むっつりどころでない助平が、サンタ衣装を纏う彼女を前にして何もしないはずがなく。カズのガチ女装写真を撮るためなら体くらいやっすい物ですよ!(ただしカズに限る) グレードを上げるためのオプションも忘れずに。

 そうしたらカズがノリノリでミニスカートの衣装を着てくれましたよね。髪もちゃんとウィッグでかわいくしてるし、学祭の時に作ってもらったブラと詰め物でささやかな胸も作って。


「5000兆円あったら夢の国建設するよね」

「たまちゃんが夢の国とか言うと一定の層しか狙ってない腐った夢の国しかイメージできないんだけど」

「大体合ってるから問題ないよ。1億差し上げますのでこれで新刊出してくださいとか、10億差し上げますのでこれであなたの作品をアニメ化していただけませんかとかやってみたい」

「5000兆円あってもすぐなくなりそうだねその使い方してると」

「いいの、お金だけじゃ満たされない、精神面での潤いを大切にしたいのうちは」

「5000兆円あれば、の話なのがね」

「5000兆円とは言わないけど、せめて宝くじでも当たればなあ」

「買った?」

「買ってない」

「じゃあ当たらないよたまちゃん」


 5000兆円どころか10億円でも十分バブリーではあるんだけど、買わないくじは当たらないので自分でコツコツと捻出していくしかないんですね、尊いものを得ようとするならば。


「アヤちゃんもさ、5000兆円あれば先輩さんを探す資金に出来るじゃん。先輩をお金で呼び寄せたり出来ないのかな」

「先輩はお金で揺れ動くような人じゃないから! 気高く生きてる人だから! いくら積まれてもポリシーに反することはして欲しくない、だって先輩は先輩だから…!」

「お金じゃ得られない尊さを大切にしていきたいね、うちらは」

「そうだねえ。でもたまちゃんはさ、体を張ればカズさんから搾り取ることも出来るじゃない、よっぽど飢えたら」

「そうだね」

「でも私は……私は……」

「先輩さんとは関係なくコスプレは趣味でしょ?」

「ですね」

「ならそれでいいじゃん」

「何か違うような気もするけどいろいろな熱があるのはいいことだっていうことにしておくね!」


 いつも思うけど、アヤちゃんは自らハードモードの道を選びに行ってるような気がして。先輩さんのことを誰かから教えてもらってもいいんじゃないかなあって。それに本人の連絡先だって消してないんだから。

 ただ、運命というものを信じて突き進むその道は、それこそお金では買えない物を信じて行くしかなく。情報が少なすぎて共感も理解もしにくいけれど、頑張れという気持ちはある。


「とりあえずさ、5000兆円あったら向島にもコミフェやれるような大きな展示場作ってさ、オリンピックとかで開催出来るか怪しくなったイベントを全部向島で引き受けたらいいと思うんだよ。それで、遠方のサークルさんをヘリで送迎して、いつもは交通費に回してる分を頒布物や買い物の資金にしてもらってー」

「たまちゃん名案!」

「まあ、それだけのお金があればですよ」

「ないね」

「ないよねえ」

「でもねたまちゃん、その煩悩は除夜の鐘で消しちゃダメだよ」

「大丈夫、消えないし、消えてもすぐまた浮かぶ煩悩だから」

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