鉄扉の外野会議

公式学年+2年


++++


「康平、弟はどうした」

「まあ、見ての通りで」

「果林も最近イケメン君に避けられてるってしょぼくれてるし、早いトコ解決しないかなと思ってんだけど」


 課題に何となく目処をつけた後、4年生何人かと飯を食いに来た。と言うか半分は半ば強制的に拉致されてきた。千葉ちゃんはバイトだっつってたし、高木はそのままスタジオに籠もってくっつってたから来てないのが好都合。

 岡山サン、小田サン、それから平田サンの間でも最近千葉ちゃんの様子がおかしいということは話題に上っていたらしい。普段は何ら変わりないけど、高木の話になると空元気になるという現象が見られるとか。


「康平、何か聞いてないの」

「少なくともアイツは千葉ちゃんを嫌いで避けてるワケじゃないっす」

「ですよねー」

「むしろ好きだから避けてるパターンのヤツじゃないかと俺は思ってるんすけどね。千葉ちゃんのことが頭から離れないし、千葉ちゃんのことを考えてたら感情が乱されて自分が自分でなくなる感じがするとか言ってるし。それが怖くて避けてしまう自分が嫌でー、的な?」

「先輩後輩としての仲良しが、男と女のそれになろうとしてるみたいなこと?」

「――じゃないかと俺は思ってんすけどね。学祭のときも市川サンに妬いてる感じだったし。まあ、アイツが自分でたどり着かないと意味はないんでそれ以上は言わないっすけど」


 4年生3人があからさまに「何だよ」という顔になって、呆れ笑いが浮かんでいる。自分たちは痴話喧嘩に巻き込まれてるのかと。痴話喧嘩と言うには少し違うけど、ニュアンスとしてはそれが近い。

 高木と千葉ちゃんは先輩後輩として仲が良すぎたというのもあって、周りがみんな「お前らそれで付き合ってないのかよ」という視線を一度は注いだことがある。むしろ今、互いを意識して少し余所余所しくなっているのが不自然すぎるくらいで。


「恋愛経験がなさすぎてキャパオーバーしてんじゃん? 的な。千葉ちゃんに対する感情が一気にどーっとなだれ込んできて混乱してるっつー状況すかね」

「とりあえず果林には、嫌われてるワケじゃないってのだけは伝えてあげた方がいいね」

「そうやなあ。きっと時間が何とかしてくれるやろー。なあ小田ちゃん」

「人様の問題にあんまり外野がどうこう言うのも違うからね。でも、いいねえ。初恋かあ。青春だなあ」

「小田ちゃんそういうの好きなんだ」

「嫌いではないよ」

「でも、仮に弟が千葉ちゃんを好きだったとする。千葉ちゃんは弟をどう見とるんやーって問題が発生するんでない? それこそ後輩とか弟止まりやったら」


 平田サンの問題提起に全員があーとうなだれる。高木の千葉ちゃんへの感情がほぼほぼラブで結論づけられた後だけに、次の問題は千葉ちゃんだ。避けられていることにしょぼくれるくらいには仲良しだとは思っているけど、高木をどう見ているのかと。後輩なのか、男なのか。


「岡山さん、千葉さんから何か聞いてない?」

「聞かないよ。ただ、イケメン君に嫌われるのはすごく嫌とは思ってるみたい。何か悪いことしちゃったかなとか」

「アイツが勝手に拗らせてるだけなんで千葉ちゃんは何も悪くないとだけ伝えてもらって」

「強いて言えば弟にとって千葉ちゃんが魅力的なのが悪い的なヤツやなー」

「あー、いいねー」

「店長、小田ちゃん、ちょっと黙って」

「すみませんでした」


 結局、俺らがここでどういう言っても所詮は外野。きっとこの問題を解決するのは時間だ。2人の感情を誘導するようなことはしないようにしようと着地する。ただ、俺たちみんなが見ている未来は、どういう名前の関係であろうとも今まで通りに仲良くしている高木と千葉ちゃんだ。


「この話が丸くまとまったらみんなでご飯でも食べに行こうか」

「そうやね。千葉ちゃんが元気かどうかは食べっぷりを見ればわかるでね」

「あー、そうすね。高木にも飯を食わせないと」


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