GO, ACTION

 寒くなると、ゴミ捨てに出るのも億劫だ。建物の前にゴミ集積ボックスみたいなのがあるところもあるそうだけど、うちのマンションは道が細くてゴミ収集車が入れない。だから自分で集積場まで持って行かなくちゃいけない。

 ゴミ集積場までは歩いて2~3分ほど。溜めに溜めた、とは言えそこまで重くはないゴミ袋を片手に2つずつ下げて夜道を行く。冬になると個人宅のイルミネーションも増えて歩きやすくなるなあと思う。

 4つの袋をぽいっと捨てれば、手ぶらで帰るだけ。うちはここから少し散歩を始める。散歩と言っても、外に出たついでの買い物だ。コンビニはいつだって明るい。ついうっかりふらふらと誘われてしまうんだ、特に冬の夜は。


「いらっしゃいませー」


 何を買うワケでもないのに無駄にコンビニに寄るからお金もなくなるし、スカートだってキツくなるんだろう。だけど、そのまままっすぐ家に帰りたくないと言うか、何かあったかい物を欲したんだ。


「いらっしゃいませー」

「あ。こんちわっす」

「ああ。そういや、近所だっけか」

「すぐ裏っす」


 やってきたのは、真希と同じバドミントンサークルの前原だ。何か、謎に最近は真希の部屋で鍋をしたりして顔を合わせていたのだけど。話していくうちに、ノサカのゼミの先輩であることや、うちと同じ緑風出身であることが発覚している。

 人の繋がりという物はどこで誰とどんな風に繋がるのかわからないところが怖いなと思う。うちの高校時代の悪友とこの前原は中学バドミントン時代に因縁の間柄であったとか。因縁っていうか、宿敵ポジション的な?


「年末、いつごろ帰るんすか」

「27」

「あー、やっぱそうっすよねえ。え、電車すか?」

「バスだ。地元まで通ってるから」

「橘君と会う予定あります?」

「例年通りに行けば忘年会はやる予定だけど。それがどうかしたか」

「いや、気になっただけ」

「そんなに気になるんだったら亮介と直接話せばいいと思うんだ」

「連絡先も何も知らないんすよ」

「忘年会に来たらいいんじゃないか? めんどくさい」


 めんどくさいというのは心の叫びだ。連絡先を教えるのもめんどくさいし、正直好きにしてもらえばいいからそんなに亮介のことが気になるなら忘年会に乗り込んで来いと。連中は突然1人増えるくらい大丈夫だし。


「忘年会ってどこでやってるんすか」

「大体光星か大鐘」

「ワーオ、遠いー」

「ウルサイ、ボンボンが。ちょっと街だからってみんながみんな無条件で緑風の中心まで出てくると思うなよ」

「へーへー、サーセンした」


 前原は緑風エリアの中心も中心、緑風市のど真ん中に実家がある。しかも、その中でも特にボンボンが多いとされる校区で、前原の家も例に漏れずそこそこの家だそうだ。聞いてるだけで殴りたくなったのは別に内緒でもない。


「そーいや奥村さん、何買いに来たんすか」

「別に何を買いにきたワケじゃないんだ。ゴミ捨ての帰りで」

「あ、俺さっきパチンコ勝って余裕あるし気分もいいんで中華まんとかゴチりますよ」

「じゃあ肉まん」

「へい肉まん一丁」


 ――と、ホイホイ乗っかったワケだけど、まさか裏はないよな。みんながみんな三井みたいにつつけばつつくだけポコポコ落とすような奴ではないはずだ。


「まさか、それをネタに亮介に話付けとけとかじゃないよな」

「あっ、じゃあお願いしていいすか」


 まさか、純粋な善意だったか。しまった。でも、そうなったからには善意とは別にお代が欲しいところではある。


「ふーん、じゃあプリンもつけてもらおうか」

「へーへー、プリンもすね」

「――って何当たり前のように税込み100円なんだ! こっちだろう」

「いや、何当たり前のように税込み300円のヤツなんすか」

「まあ、うちは別にお前が亮介とどうこう出来なくたって何の問題もないワケだし」


 無事に肉まんと300円のプリンを買ってもらったところで、請け負った仕事はきっちりこなす必要が出てきたワケだな。体はすっかりあったまったけど、今度はコンビニから出たくないレベルにまで達している。


「はー、さすがにそろそろ帰るかー」

「野坂君に泣きつかないとなー、先輩に毟られたーって」

「残念だったな。ノサカにはこれくらいよく見る光景だ。今更驚かないぞ」

「奥村さん鬼っすね!」

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