高らかに鐘を鳴らせ

「うち、生協で買い物するけど何か欲しい物ある人ー。あっ、お金は後からしっかりいただきます」


 菜月先輩からかかる突然の募集。みんな、何かいる物はあったかなーと考えているようだけど、俺には菜月先輩をパシらせるだなんて出来るはずもなく。と言うかお前らよく菜月先輩をパシらせようとしてるな!?


「菜月先輩、抽選会狙いに行くンすか」

「ああ。ちょうど注文してたCDを受け取りに行くついでだな。どうせなら会計の合計金額を上げて抽選できる回数を増やしたい」

「そう言えばやたら鐘の音が響いているなあと思ったら、抽選会でしたか」


 生協の購買で行われている冬の抽選会は、まあまあ豪華な景品が当たるのだ。買い物ついでにちょっとやってみようかなと思わせるには十分な。

 1等は某有名テーマパークのペアご招待券。2等は据え置きにも携帯型にもなるという例のゲーム機。3等は緑風産コシヒカリの新米5キロ。4等は文房具引き換えチケット2000円分。5等は学食で使える1000円分のお食事券、そして6等(はずれ)はお菓子セットだ。

 菜月先輩の狙いは恐らく2等のゲーム機だろう。しかしそんなことになったら菜月先輩がますます引き籠もりになられてしまうので、健全な社会生活をお送りになられるのであれば当たらない方がいいのではないかと、うっすら。


「あ、そしたら自分MDが無くなりそうだッたンで、ついてきヤす。あと、雑記帳がそろそろなくなりそうスわ」

「菜月先輩、ホワイトボードマーカーがそろそろ掠れているのでお願いしてよろしいでしょうか」

「何か、本格的なサークルの買い出しじゃないか」

「会計処理の練習にちょうどいースね」

「そう言えば、ゴミ袋もなくなりそうだったんだ」

「やァー、この調子で買い物が膨れ上がれば2、3回くらいは抽選出来ヤすかねェー」


 もしも俺が抽選をして、某有名テーマパークのペアチケットをもらったとしても、菜月先輩は某有名テーマパークがお好きではなさそうという問題があるワケで。いや、何かついうっかりデートの妄想なんかをしてしまっているワケだけれども。

 仮にデートの妄想をした場合でも、ネズミが幅を利かせるテーマパークよりはゲーム機かなあと思うワケで。おうちデートなんてのもオツじゃないか。いや、でも最近の菜月先輩はスマホゲームもやられているのでネズミと愉快な仲間たちを見てもスキルの話になりそうだ。


「おーい野坂、現実に戻ッてこーい」

「はっ」

「ノサカ、お前は買い物はいいのか」

「俺は特に何を切らしているということもありませんので大丈夫です。と言うか菜月先輩にお願いするだなんて恐れ多くて」

「抽選会のためだぞ」

「ところで、菜月先輩は何狙いでいらっしゃるのですか?」

「もちろん2位のゲーム機だ」

「――だとは思いました」

「テーマパークには興味ないし、緑風産コシヒカリって言われても家にあるしそんなに食べないし。文房具引き換えチケットはちょっと嬉しいかな。学食のお食事券はすぐなくなりそうだけど、2日くらいはイケるかな」


 もしも宝くじが当たったら、という捕らぬ狸の皮算用的な話にもなってきているような気がするけど、そもそもテーマパークデートの妄想の時点で俺は人のことをどうこう言えなかった。そして菜月先輩の狙いはやっぱりゲーム機でしたよね! と言うか俺も普通に欲しい。


「それじゃあ、行ってきます」

「行ってきヤーす」

「菜月先輩土田さん頑張って下さーい」


 いざ抽選へ。買い物に出た菜月先輩と律を見送ったところで、入れ違いの形で圭斗先輩がやって来られた。抽選会に出陣したのだと説明すれば、ゲーム機狙いだねとやはり納得の表情。


「僕は菜月さんにぜひ米を当てていただきたいなと」

「お米ですか? 菜月先輩はあまり食べられないのでは」

「だからだよ。カレーパーティーをやる理由になるじゃないか。米はあるから参加費の負担が軽くなる」

「はっ…! その発想はありませんでした…! 菜月先輩のカレーは素晴らしいですからね。ぜひ食べたいです」

「もしも菜月さんが米を当ててきたらすぐにでも開催予定を立てようじゃないか」

「ナ、ナンダッテー!? おーこーめ、おーこーめ!」


 カレーパーティーという一番楽しい妄想に広げてくださるだなんて、さすが圭斗先輩だ! さて抽選の結果はどうなる。問題は、菜月先輩がお米を求めていらっしゃらないというところだけれど。

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