簡単レシピで逃げ道知らず
「菜月、そろそろ何か食べるか」
「えっ、もうそんな時間?」
時計を見れば夜の8時。今日は真希の家に遊びに来ていて、真希の好きなバンドのライブDVDやらミュージックビデオやらを延々と見るだけの遊びをしていた。好きなバンドって言っても一組じゃなくて、それこそいろいろ。
ちょこちょこお菓子をつまみながらだったから、特にお腹が空いたなあと思うこともなく、気付けばこんな時間になっていたという感じ。家に帰るモードでもなく、そのままここでご飯を食べていくことにした。
「サラダと」
「えー」
「出来合いのトンカツでカツ丼を作りました」
「カツどーん!」
「あと即席だけど味噌汁ね」
「うん、丼に味噌汁大事」
真希は良く食べる。本人が言うにはそれだけ食べるからこんな丸々とした体型になってるんだけど、食べないと動くエネルギーにもならないから食べるのだと。食べっぷりは見ていて気持ちがいい。ノサカみたく目立った好き嫌いがあるワケでもないし。
付け合わせのサラダ……と言うか袋で売ってるカットキャベツを真希はマヨネーズでムシャムシャと食べてるんだけど、うちは生のキャベツが好きじゃない。それとなく、スッとお皿を真希の方に差し出す。
「菜月、サラダも食べな」
「生のキャベツは嫌いなんだ」
「じゃあ、生じゃなきゃいいんだな」
そう言うや否や、真希はうちの分のキャベツを持って台所へと行ってしまった。しばらくすると電子レンジがチンと鳴る。再びやって来た真希が手にしていたのは、さっきまでただのキャベツだったはずのお皿。
「生じゃなくしたから、食べな」
「厳しいなあ」
「菜月は野菜を食べなさすぎるから」
「なにこれ、卵?」
「巣ごもり風ってヤツ。バターも乗ってるし美味しいから騙されたと思って食べて」
「それじゃあ、いただきます」
キャベツの真ん中に乗っている卵を箸で割ると、固まり切らない黄身がバターと一緒にとろりとキャベツに絡まる。味付けは少しの塩コショウ。アクセントにはブラックペッパーをゴリゴリと回しかけて。
「う、うまー!」
「そうだろ。作るのも簡単だからたまにやるんだ」
「えっ、どうやって作るの。教えて、教えて」
「キャベツに卵を落として黄身を爪楊枝とかでちょちょっと刺して、味付けしてラップして3分半から4分レンチン。バターを乗せて完成」
「ふむふむ。家でやってみよう」
「とろけるチーズを乗っけたり、サラダチキンをちぎっていれるのもいいぞ」
「なるほどー」
生じゃなければ食べられるようになる野菜だってグンと増える。キャベツとか、トマトとか。要は調理法なんだ。真希から教えてもらった巣ごもり風はもやしなどでも代用が利きそうだ。いろいろやってみよう。かけるものをポン酢とかゴマ油にしてもおいしそうかも。
「真希は簡単で美味しいのをいっぱい知ってるなあ」
「ダテに80キロになってないからな」
「言っても、筋肉もあるだろ?」
「筋肉もあるけど脂肪もある。ただ、こう見えて健康診断の血液項目は何も引っかかってない」
「真希に弟子入りしたらうちも野菜食べるようになるかな」
「言うほどレパートリーもないけどな。レンチンでおしまいとか、ちょっと炒めておしまいとかそんなんばっかだし」
「そういうのがいい。逆にね」
夕飯を終えたら、BGMはそのままに簡単な野菜レシピを調べる大会に移行することにした。出来れば安くて簡単、美味しい、生じゃないメニューを。そろそろ野菜やらキノコやらを鍋にぶち込んで煮るだけじゃ芸がないと思い始めてたところだし。
「そういやさ、菜月の部屋ってカセットコンロなかったっけ」
「あるけど、どうした?」
「今度鍋やろうよ、そろそろいい季節じゃんね」
「いいね、やろう。うちこんにゃく食べたい」
「2人っていうのもなんだし、適当に1人2人呼ぶか」
「知ってる人がいいなあ」
「まあ、その辺は後で詰めよう。今は菜月の食生活改善セミナーだ」
「えっ、いつの間にそんな大それたことになってた?」
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