flap flap
「ひゃっほーい、やってるー?」
――というその人の声に静まりかえるサークル室。お呼びでない。菜月先輩と圭斗先輩の固まりきった表情がそう物語っている。お二方の顔に、ひゃっほーいとふざけた顔でやってきたその人も固まるのだ。
「えーと……圭斗、菜月ー? 村井おじちゃんだよー」
「帰れ」
「圭斗テメー! それが先輩に対する態度かー!」
「騒がないでもらえますか。筆先が乱れるので」
「あ、はい、菜月様すみません」
「村井サン、同じ3年生の後輩に対する態度ですかそれが」
「うるせー圭斗この野郎、お前がこの現場で何やってるっつーんだ!」
「僕は菜月さんを見守り必要な物があればすぐにでも買いに出掛けるという大切な仕事をしているんですよ。待つことも仕事のうちです」
「だから黙れって言ってるだろ」
これにはさすがの圭斗先輩もすみませんでしたと菜月先輩に頭を下げた。そう、大学祭の前ということで準備が加速する中、菜月先輩は今日も例によって装飾の作業を執り行われている。
もちろん、学年問わずこういう作業が得意なMMPではないので菜月先輩が1人で手掛けるというのは当たり前のようになっているし、村井サンも菜月先輩にはよーくお世話になってきている。
10月は大学祭の準備があるということで、曜日を問わずに来れるメンバーは来て作業をしていたりする。ただ、装飾に関してはなかなかお力になれないという事情もあり、主にDJブースのことや菜月先輩から指示された簡単な仕事をしている。
「野坂、お前は何やってんの」
「俺はDJブースで使うストックリストの作業ですね。たまにAD作業の済んでない物もありますし、いつ現れるかもわからない三井先輩に託すよりは自分でやってしまった方が早くて確実ですので」
「確かに。お前ならマメそうだし安心っちゃ安心だな。なあ圭斗」
「ですね」
動きの鈍いデッキのボタンと戦いながら、ストックリストの作業は続く。MDストックのリストには、曲名、アーティスト名、曲のトータルタイム、イントロの秒数などのデータを書き込んでいく。
どのディスクの何トラック目にあるのかということも記してあるし、ストックを溜めてあるケース自体の整頓も必須だ。残念ながら、その辺で几帳面なメンバーはそういないのが今のMMP。たまに菜月先輩が整頓をしてくださる程度で。
「そういやさ、圭斗」
「何ですか」
「代替わりのこととかもう考えてんの。次の役職とかさ」
「ええ。一応3年会議も開いて少しずつですが考え始めています」
ナ、ナンダッテー!?
「お前らが全員集まって会議とか違和感しかないな」
「それは僕たちが誰よりも感じてますよ。ですが、三者三様の意見があるのでそれを交わしながらですね」
「えっ、えっ、大まかな考えとかはあんのなあ圭斗、どうなんのよ、お前がどういう戦いをやってんのかは大体読めるけど」
いやこれ俺がAD作業やらでヘッドホンしてるからっていたいけな2年生のいる場所でする話題じゃないですよね! 聞こえてるんですよ何気に! う~わ~、来期のMMPとか。菜月先輩と圭斗先輩のいらっしゃらないサークルだなんて想像も出来ないぜ!
「圭斗」
「ん、何だい菜月さん」
「代替わり当日まで来期の役職については2年生以下には伏せる方針だろ。ノサカが今ここにいることを失念してないか」
「ああ、そうだった」
それだけ言うと、菜月先輩はまた作業へと帰って行かれた。圭斗先輩は「2年生は4人いるので代表と会計を分けることにしました」とだけ告げ、それ以上のことは大学祭最終日の代替わりまで伏せられることに。うう、緊張する。
そして、せっせと筆を動かす菜月先輩の役職は総務。総務が何をするのかは他の役職に比べると見えにくいけど、今期の感じで言えば書類の代筆などもあるし圭斗先輩のお世話……もとい、代表の補佐か。何となくだけど、ここにはこーたが来そうな気がする。ツッコミがいないとどこまでもラブピだし。
「なあ圭斗、おじちゃんちょっと気になったことを言っていいか」
「何でしょう」
「去年もその前も装飾は菜月がほぼ1人でやってたけど、来年以降はどうなるんだ?」
「……それは、2年生以下の課題ですので僕からは何とも」
……そ、装飾問題…! き、聞こえなかったことにしてもいいですか…!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます