パーティーでコスチューム
安部ゼミで開かれるハロウィンパーティーのドレスコードは、何らかの仮装をしてくること。もちろんお菓子も忘れてきてはいけない。普段なら仮装なんて、パーティーなんてと思うところだが、ゼミのパーティーは話が別だ。
そもそも、ゼミでパーティーと言って何をするのかと言えば、その名の通りのパーティーだ。ハロウィンパーティーの場合はお菓子を配り合って、各々の仮装に茶々を入れたりする。他には、七夕やクリスマスにパーティーが開かれる。
このパーティーにはもうひとつの顔がある。それは、パーティーに参加すると、安部ちゃんからのプレゼントとして出席1回分のボーナスが支給されるのだ。本来ボーナスは就活や病欠の補填に使うべきものだ。
「高崎、お前やる気あんのか」
「飯野てめェ、誰に向かって言ってんだ。パーティー回はフル出席余裕だぞ」
「パーティーに出ないと出席足りなくなる奴がよく言うぜ」
「あ? レポートがゴミクズな奴に言われたくねえな」
俺はお世辞にも出席率が高い方ではない。何故かはわからないが、木曜日は14時40分から始まる4限にも寝坊で遅刻または欠席することも決して珍しくはなく、このボーナス制度は非常にありがたい。
みんなで持ち寄るお菓子も当然安部ちゃんの好きなかりんとう。いろんな種類を集めてあるからどれかはお気に召すはずだ。このテの賄賂は去年贈ったけど、今回のは賄賂ではなくあくまでトリックオアトリートのお菓子だ。
「つーか、お前大祭前なのにパーティーなんかやってる余裕あんのか」
「バカ野郎お前、パーティーは別腹だ」
「何だそれ」
「俺くらい卒業がギリギリだと、逆に授業に出やすいんだ」
「逆にな」
飯野と同じ大学祭実行委員の倉橋は今日のパーティーには来れないらしい。それだけ大祭実行としての仕事が立て込んでいるとか。しかし、大祭実行のナンバーツーであるはずの飯野がパーティーを楽しむ気満々とか。
「それにしたってお前、その仮装はねーよ。いや、仮装とも言えねーよ」
「カボチャの帽子かぶっときゃ問題なくねえか」
「お前はただでさえ出席足りねーんだからもうちょっとやる気見せとけよ」
「こっちはバイトでもそんなことやってんだ、何が悲しくてゼミでまでンなことしなきゃいけねえんだ」
バイトでもハロウィンシーズンだからという理由でちょっとした仮装をしなくてはならない時期だ。何が悲しくてゼミでも。そういう思いは多少ある。ただ、何よりも大事なのは出席だ。背に腹は代えられない。
すると、飯野が様々な仮装グッズを取り出して、どれが俺に似合いそうか遊び始める。血糊風なのか、コウモリなのか。ここぞとばかりに顔にシールをべたべたと貼ろうとしてくるのが鬱陶しい。
「ゾンビとかどうだ? 傷メイクとかシールとかでさ」
「死んでもやるか」
「ゾンビだけに」
「上手いこと言ったつもりか」
「じゃあドラキュラとか? ほら、お前ずっと寝てるし棺桶って感じでいいじゃんな。マントとか羽織ればそれっぽくなるし簡単な部類だと思うけど」
「大体よ、街を我が物顔で練り歩いてる連中は悪趣味すぎんだ」
ゾンビだのミイラ男だの、所詮仮装だとわかっていても嫌な物は嫌だ。大体ハロウィンなんざここ最近広がり始めた祭りで、本来外国でやってるようなモンとは全然違うことになってやがるじゃねえか。
「うーん、そしたら狼男かフランケンシュタインってトコじゃないか?」
「狼男なあ」
「髪染めるスプレーとかチョークならあるけど」
「つかお前準備良すぎじゃねえか」
「いーからいーから」
「ちょっ、てめェ何しやがる!」
問答無用で髪の色を焦げ茶からグレーに塗られ、ワイルドに見えるようセットされる。グレーのカラコンなども入れさせられ、一応は狼男風なのか? そう言い張ればそうなるということにしておこう。
「これで出席は何とかなりそうだな」
「かぁーっ! 何だこれ! バカじゃねーのこれだからイケメンは! 仮装じゃなくて単なるイメチェンじゃねーか!」
「お前がやっといてよく言うぜ。で、お前は何の仮装をするんだ」
「なんかお前が恨めしいからゾンビかミイラにでもしようかな」
「ふざけんな」
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