春は血の色物騒な色

「ちー、誕生日おめでとー!」

「わー、ありがとうございますー!」


 今日は大石君の誕生日ということで、何故か僕と村井サン、それから麻里さんが召集されての食事会が開催されている。いや、村井サンが呼び出されるのは言うほど“何故か”でもない。主催が星大のみちゃこさんだから。

 村井サンとみちゃこさん……能登美沙子さんは1年生の頃から仲が良く、2年生の頃には対策委員の活動を通じて距離が縮まり付き合うに至った。ただ、それからはいろいろあって付き合ったり別れたりを繰り返しているという煮え切らない関係。

 そしてみちゃこさんと大石君は同じ星大のサークルで、まるで姉弟のように仲良くしている。姉弟と言うより飼い主と忠犬のようにも見えるけど、同じ主と忠犬という先輩後輩の菜月さんと野坂とはまた違う朗らかな雰囲気だ。


「ちーちゃんよかったねー、みちゃこから祝ってもらえてー」

「向島の皆さんもありがとうございます」

「みちゃこはいいなあ、後輩の男の子が可愛くて」

「可愛くない後輩ですみません」

「菜月さんが可愛いから3年生は許されてる」


 さて、お気付きでしょうが僕と麻里さんは完全に巻き込まれてますよね。ただ、定例会という繋がりがあるから全く関係がないというワケでもなく。何をモチベーションに来ているのかと言えば、村井サンの冷やかしですね。


「なっちって独特ですよね感性が」

「まさか大石君から言及があるとは思わなかった。どういう点が?」

「他の女の子より俺のバイトに対する食い付きが凄いもん。フォークリフトとかにも興味があるみたいだし、体型維持についても聞かれたなあ。でも、話してて楽しいよ。つい喋りすぎちゃう」

「菜月さんは肉体労働の現場にときめくみたいだからね。あと、スタイルならただ細いよりも筋肉質な方が好きとも」

「ああー、なるほどな。菜月のフェチを大石が刺激してんのか」


 以前、菜月さんからこれだからウチの男どもはと向島の男をボロクソに言った上で大石君の何がいいのかを熱弁されたことがある。もちろん、ボロクソに言われていたのは僕と三井なのだけど。

 ちょっと面白いことになってきたぞ、と僕と麻里さんのスイッチが入る。もしかすると大石君の浮いた話に誘導できるかもしれないとか、そんな期待が。もちろん村井サンの隙も窺いつつ。


「ちーちゃん的に菜月はどう? 手ぇ出したら殺すけど」

「手は出さないです!」

「菜月さんあんなに可愛いのに手出さないとか殺すしかないね高崎の次に」

「えっと、可愛いです! 可愛いですけど恋愛とかじゃなくって、ご飯食べてるところが可愛いです!」

「麻里、ちーには幼馴染みの子がいるんだしさあ」

「違いますよみちゃこさん、あずさとは普通の幼馴染みなんですから」

「でもさー、家におかず持ってきてくれたりよく遊びに来るってマンガでも今時ないと思うんだよ」

「それは多分、俺が一人で留守番してたときの名残ですよ。昔は今ほど料理も出来なかったんで、おばさんがあずさにおかずを持たせてくれてて。それにあずさが好きなのは朝霞ですし――あっ」


 もちろん、それを聞き逃す僕たちではなかった。しまったという顔をしてももう遅い。ただ、それは朝霞君との関係がどうこうというのとは別に、春にまつわる不穏な動きにも関係していて。


「ちーちゃん、そのあずさちゃんて星ヶ丘なの?」

「あ、えっと、そうです」

「大石君、悪いことは言わないから少し彼女について教えてくれないかい。西海在住で星ヶ丘大学の映研で脚本を書いている茶髪で赤い眼鏡をかけた中肉中背のあずさちゃんという子が三井に狙われているという情報があるんだ」

「えっ!? それって完全にあずさじゃない! えっ、どこから聞いたの圭斗」

「菜月さんが春の空気を纏わせてた三井の口を割ってくれたんだよ」

「圭斗、どうしたらミッツを止めれる!?」

「今は菜月さんが女子代表として三井の言動にドン引きした上でバッサバッサと斬って時間を稼いでくれているけど……場合によっては星ヶ丘に盾を用意した方がいいね」

「そうだ、朝霞に――……あっ、ステージ前の朝霞にそんなことを頼んだら殺されちゃう! 俺があずさに気をつけてねって言うくらいしか出来ないのかなあ……」


 三井の惚れっぽさの被害に一番遭ってきているのが何を隠そう星大さんだ。僕もその関係で大石君には何度か頭を下げている。そういうこともあって、身近な女の子が三井に狙われているとわかってパニクる大石君と言ったら。


「どうしよう、もしあずさに何かあったら。そう言えば映画のエキストラの人につきまとわれてるって言ってたけど、もしかして」

「あ、それだね。大石君、それだ」

「ちーちゃん、菜月さんに相談してみたら? 現時点で一番情報持ってるの菜月さんだし」

「そ、そっか…! 連絡先は知ってるし、迷惑じゃなかったら……」

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