天邪鬼のスタイル

「レ・イ・ちゃーん」

「気色悪い、寄るな。目ぇくり抜くぞ」

「ちょっとやめてウソウソ今回すっごい真面目な用事!」


 明るい茶色のボブヘアーがすっごいエアリーで可愛いのに、突き刺す目付きが極寒。でもそれがいい怜ちゃんに今日はちゃんとした頼み事。土田怜ちゃんと俺、青山和泉とは軽音サークルの同期で、バンドや楽器は違うけどまあ話す方の仲かな。


「お前が真面目だったことなんか今まで年1しかねーだろ」

「今年は年2!」

「で? それと後ろにいる女は何か関係あんのか」

「そーそーあの子にもちょっと関係するの」


 俺の後ろでこのやり取りを見ていたのは、演劇部の綾瀬香菜子ちゃん。まだ2年生なのに演劇部の看板女優。看板女優だけあってすっごい美人だし、実力も凄いよ。演技の細かいことはわかんないけど、少なくとも歌と踊りは。

 何かの縁で、って言うか刺激を求めてぷらぷらしてたら、成り行きで演劇部の音楽監修なんかをやることになってましたよね。次に演劇部がやるのはミュージカル。つまり、歌と踊りで構成される。

 音楽監修をやるのはよかったんだけど、生演奏以外のところの音源を用意しなくちゃいけないし、芹ちゃんに自慢したいからって張り切ったらそれが膨大になっちゃって。

 俺はそういう編集ソフトを持ってないから情報センターで出来ないかなーと思ったら、センターにそういうソフトはないし、芹ちゃんには追い出されるしで散々。学祭で一緒にバンドやるんだからそれ以外の時も優しくしてくれたって……いや、いっか別に。


「それで、我らが怜様にお願いに上がりました」

「演劇部の綾瀬香菜子です。お願いします」


 怜ちゃんのバンドはギター、ベースボーカル、キーボード、ドラムの4人編成だったけど、キーボードの子がやめちゃって以来怜ちゃんの打ち込みでその音をカバーしてきた。いや、カバーじゃないねあれは。超越した新しいバンドのスタイル。

 機材を扱ってるときの怜ちゃんはそれこそ怜様と呼ぶに相応しい感じ。目付きの鋭さも様になってるし、とにかくカッコいい。……まあ、スルメをかじりながらっていうのがまた怜ちゃんぽさではあるんだけど。


「打ち込みはお前がやるんだろ、和泉」

「もちろん! あっ、でも簡単に手ほどきをしていただけると嬉しいな~って」

「へーへー、やりゃいーンだろ」

「ありがとう怜様~!」

「サマ言うな爪剥ぐぞ」


 すると、さっそくタブレットが出て来るところがウチの軽音一スマートな怜様なんだよね。出てきたタブレットは怜ちゃんが実際にDTMをやってる実機。怜ちゃんはパソコンよりタブレットの方が作業が捗るタイプなんだって。


「ドラムはお前の生音を録ればいいとして、他はどーすんだ。当てはあんのか。MIDIより実際にやる方が早いっつーこともあるだろ、イメージが固まってるならの話だけど」

「怜様~、ギターをやっていただけたりはしませんか~」

「クソが。ンなこったろうと思ったぜ」

「そこを何とか~」


 だけど、やっぱり俺は人選を間違えていなかったと思う。怜ちゃんじゃなかったらこんなにサクサクと話が進んでないと思うし。目付きは怖いし口も悪いけど悪い人じゃないからね。

 それだけじゃなくてやっぱり実力も見たいし、何より刺激的な期間になると思うんだよね。別に退屈してるとかじゃないけどさ、どうせやるなら惰性じゃねえ。


「カナコちゃん、怜ちゃんてすごいでしょ?」

「クールビューティーで凄いですよね! ワイルドでカッコいいと言うか」

「お嬢ちゃん、そんなこと言っても何も出ないんだよなァ」

「いえいえいえっ! 何か出させようとかそんなつもりじゃ!」

「和泉には気をつけな。コイツに気に入られたが最後、大なり小なり人生狂うぜ」

「えー! 人聞き悪いよ怜ちゃん!」

「で? 人に物を頼むからにはァー?」

「スルメを差し入れさせていただきますー」

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