魔剣に宿りし魂は

「おはようございますー」

「ゲンゴローおはよ~」

「源、来たか。これなんだけど」


 今日の分のテストが終わって先輩たちが待つブースに行くと、みんな深刻そうな顔をしていて。何があったんだろうと思ったときに、朝霞先輩が見せてくれた物。それは、ステージの小道具として作った剣。だけど、完成した時から形が変わってる。


「えっ、折れて、えっ」

「俺と山口が朝ブースに来てみたらこうだ」

「だから、絶対幹部連中じゃん。はーヤダヤダ。いつか絶対潰す」

「今はそんなことを言ってる場合じゃない。源、どうにかなるか」


 朝霞先輩に手渡された剣だった物は、柄の部分と刃の部分で真っ二つになっていた。今日が木曜日で、ステージは土曜日。あと1日ちょっとで最初から作るのは無理があるし、直すにしても。うーん。

 俺は高校のときに演劇部で小道具や衣装を作っていたのもあるし、趣味でコスプレを軽くやってることもあってこういう作業が得意だ。先輩たちはそれを認めてくれて、朝霞班でも小道具制作の仕事を任せてもらえた。

 これはステージの進行にもちょっと関わる道具だけに、やっぱり形を変えずに修復した方がいいんだろうけど時間や材料のことを考えるとやっぱりなあって。時間とお金がいくらでもあるなら直せるんだけど。うーん。


「厳しいか」

「朝霞先輩、少し相談があるんですけどいいですか?」

「言ってみろ」

「残り時間を考えると真っ当に直すのは少し難しいです。でも、この折れ方だったら中途半端に直すよりは志半ばで折れて朽ちてしまった剣、という体で加工した方がいいかなあって」

「ちょっと待ってゲンゴロー、剣の設定が変わるってことは~」

「台本も変わっちゃいますし、効果音も変わります。でも、やれることはやりたいです」


 朝霞先輩は目を閉じて、腕組みしながら何かを考え込んでいる。俺たち班員はそれを黙って見つめていて、朝霞先輩がどういう決断を下すのかをただただ見守っている。簡単に言っちゃったけど、台本が変わるというのは大きなことだ。

 今までやってきた練習が覆されるかもしれないということ。進行が変わればBGMや効果音も変わる。ひとつ変わることによって全体に矛盾がないか見る必要だって出てくるかもしれない。それでも。


「……その発想はなかった!」

「えっ!?」


 突然上がった朝霞先輩の声に、びっくりして俺も声が上がる。


「いいぞ源、ぜひそのようにやってくれるか!」

「あっ、はいっ! やりますっ!」

「設定としては、勇者が魔王と戦った時に力及ばず敗北し、その際折れた物に悔いて迷える魂となったかつての勇者の怨念が乗り移りし魔剣、というのはどうだ。そして数百年の時を経て次の勇者が発見し、さまよえる勇者の魂を解き放ってかつての輝きを取り戻したときに――」

「あっはい、いいと思います! 二次元的な心をくすぐります」

「山口、台本変えるぞ!」

「何でも来て来て~」

「戸田、SE探すからSE集を隣でひたすら再生してくれ」

「はいはい、人遣いが粗いなあ」

「何だと」

「別に? やっぱ朝霞サンは直前までムチャ振りしてくれなきゃね」


 何て言うか、凄い。今から台本や使う音源が変わるのに山口先輩とつばめ先輩は動じてないどころか、やっと始まったって言わんばかり。そして、朝霞先輩の手の動きも凄まじい。俺も圧倒されてる場合じゃない。これを直しに行かないと。

 何が起きても、どう転んでも。進む方角を変えながらでも確かに前に進んでいく力が凄い。何て言うか、凄いしか言ってないけど凄いしか言えない。俺も、この剣にそれ相応の命と魂を吹き込まなきゃ。


「すみません朝霞先輩! 家で剣を加工してくるので少し時間をください!」

「ああ、行って来い。頼んだぞ」

「行ってきます!」

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