かわい子怖い子皆々おいで

「鵠っちー! 鍋の準備オッケー!?」

「大丈夫っす!」

「よーし、それじゃあGREENs納涼祭始めるよー!」


 ここは俺の住むアパート、コムギハイツの駐車場だ。ここで大々的に行われるのはGREENsの納涼祭と称したそうめん大会。ラーメン屋でも始めるのかというような鍋でそうめんがたっぷりとゆでられている。

 俺の部屋の台所では伊東サンが天ぷらを揚げていて、その脇では三浦が揚々と薬味の準備をしている。まあ、伊東サンとそうめんだったら薬味大会みたいなところがあるのも頷ける。

 慧梨夏サンは食材に手を出すととんでもないことになるから企画運営と会場設営が主な仕事。今もそうめんをゆでているのは3年生のサトシさんだ。


「慧梨夏さーん、薬味準備オッケーですー!」

「はーい!」

「つか、想像はしてたけど軽く斜め上を行くなやっぱり」


 薬味の種類を挙げていくだけでも長くなりそうだから割愛するにしても、さらにとんでもないのはその量だ。俺の中で、薬味は少しつゆに浮かべる程度だという認識だ。それがどうだ。明らかにネギが主食じゃん?


「慧梨夏ちゃーん、天ぷらも揚がったよー」

「待ってました!」

「慧梨夏、そうめんもゆで上がったぞ」

「それじゃあ各々好きなようにやっちゃってー」


 慧梨夏サンの号砲で思い思いにそうめんや天ぷらを皿に持っていく。人によっては酒を飲んでいたりもする。俺はひたすらそうめんを食ってるような感じ。天ぷらもたくさん用意してあるけど、食べ方を考えないと食い過ぎて迷惑がかかる気もする。


「んー! タケノコおいしいですー! 三浦のお箸が止まらないヤツですよ」

「そうでしょー、冷凍だけどうちのじっちゃん家の裏山で採れたヤツだから元手ゼロだよ」

「裏山! うらやましいっす!」

「三浦、今のは得意のボケなのか?」

「何が?」

「いや、何でもない」

「ねーちょっとー鵠沼クンなーにー、なんだったのー、ねーねー」

「何でもないからそうめん食ってろお前は」


 この手のイベントで何がアレって、伊東サンの薬味使用量だ。そうめんと薬味の割合が1:1くらいに見えるのは気のせいだろうか。なんならネギがそうめんにぶっかけられてる。

 それを見た三浦も楽しそうだとネギを自分の器にぶっこみ始めるし、伊東サンのネギ教に洗脳させられている面々は自分ももうちょっとネギを足そうかなと継ぎ足していく。

 現に俺もいつも自分でやるときよりも薬味をたくさん使っていたし、つゆにおろししょうがを入れた物で食う天ぷらは美味いし食欲も湧く。何か、食い過ぎて他の人に迷惑とか考えなくてもよくね、的な。


「くげ、食ってるか!」

「もうちょっと天ぷら食おうかなと思ってたトコっす。尚サン食ってますか」

「おうよ! GREENsの何がラクって、かわいこぶる必要ないとこだわー」

「は? 普段かわいこぶってんのか」

「うるせー! 俺みたいに可愛いとインスタ映えするのとかスイーツとか食ってる方が受けがいいんだよ! そうめんにビールとか俺のイメージじゃないんだ!」

「ご苦労じゃん?」


 尚サンには尚サンなりの苦労があるらしい。こんなとき、俺は厳つくて良かったと言うか。いや、厳ついとインスタ映えするような物やスイーツなどを食ってると引かれたりするのだろうか。


「だけどもだ。GREENsは俺が受け狙いでかわいこぶってるのを知ってるから、天ぷらにビールも全然オッケーだし、何なら鼻からそうめん食ってもオッケーなワケよ」

「じゃあ、どうぞ」

「は?」

「鼻からそうめん。食うんだろ?」

「食わねーし! バカじゃねーのお前がやれよ!」


 駐車場でこれだけ騒いで大丈夫な物かと思うけど、実は他の住人の人も駐車場に結構集まってたりするらしいとは慧梨夏サン談。だからGREENsだけがどうこう言われることじゃないとかでちょっと安心。俺も心ゆくまで食おう。


「鵠沼クン! ネギまだあるよ!」

「ネギだけでは食えないじゃんな」

「ネギのおともにそうめんもあるよ!」

「それこそ文字通りのおまけみたいに言われてもな。食うけど」

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