姉カップルも使い様

「ハマちゃん先輩」

「おっ、どうしたあやめ」

「千鶴さんから、ハマちゃん先輩がお祭りのプロだと聞きました」

「おうよ、祭りのハマとは俺のことよ! マジパねえ!」


 この辺である祭りを教えてくれと、あやめが俺に声をかけてきた。どうやら、屋台の出るような祭りがいいらしい。それで何をするのかと聞いてみれば、夜の写真を撮りたいのだという。


「夜の屋台はコントラストの利いたいい色合いの写真が撮れると思って」

「なるほどな」


 ここ最近、UHBCの活動は春に比べてなあなあになっていた。ヒロさんが入院してしばらく。ヒデさんが言うにはヒロさんはちょっと前に退院したらしいけど、それでも本格復帰にはまだまだかかるそうだ。

 ヒロさんがいなくなってUHBCの活動はいつもよりさらにぐだぐだになった。人もさらにまばらになった。俺は一応毎回来てるけど、同じように毎回顔を合わせる人はそうそういない。

 諏訪姉妹で言えば、あやめは出席率が高い。かんなは最近彼氏が出来たらしく、デートとか何とかで一緒にいるようになったとか。あやめは最近作品制作がとても楽しいらしく、そればっかり。


「かんなにお祭りの話をして、屋台の中で手を繋いだりするカップルの構図を撮りたいです」

「作品のために兄弟売るとか」

「利用するのが身内ならまだいいじゃないですか」

「うーん、それもどうかと思うけど、とにかく祭りだな!」


 お願いします、とあやめはメモ帳を手に俺の目をキラキラと見つめてくる。屋台とカップルの写真をよほど撮りたいのか。ヒロさん、作品にここまで貪欲なのは俺も見習っていきたいと思うっす。マジパねえ。


「来月は七夕祭りが結構そこらであるけど、近場でデカいのはこの商店街の周りのヤツな。ホコ天みたいになって結構パねえ」

「いいですね」

「雰囲気重視ならこっちの神社の方でやってる七夕祭り。神社の雰囲気が何とも言えない。商店街のは1週間やってるし、神社の方も3日間やってるから割と行きやすい」

「ありがとうございます」


 かんなに彼氏が出来そうになってからのあやめは、それまでよりもかなり積極的に動くようになった。今までがかんなの後ろにくっついて一緒に動いてばかりだったということもある。かんなと思うことや行き着く行動が同じだったから。

 今では“ニコイチ”でなくなって、新しい世界がどんどん見えてくる。それを写真や映像という形で表現したいのだと、とにかく前に前に攻めて行けるようになった。周りにいる人が優しいから踏み出せたんだそうだ。


「雰囲気重視で神社にも行かせたいです」

「とは言っても、神社は静かだし暗いから危ないぞ。夜だし」

「うーん……あっ、越谷さんに引率をお願いしましょう。かんなと萩さんのデートなんて絶対興味あるはずですし、尾行する体で」

「えーと、越谷さんてのは」

「バイト先の先輩です」

「作品のために先輩まで利用しやがる! あやめお前パねえな!」

「越谷さんにはすでに被写体として協力してもらってますし、今更です」


 ヒロさん、あやめがガチすぎてパねえ怖さっす。あやめの先輩っていう人がどういう協力のさせられ方をしているのか見せてもらったっすけど、野球やってる方はともかくグラビアの方はパねえっす。ここまで脱がすとか女子の所行じゃねえっす。

 聞けば、あやめは最近人体とか筋肉について興味があるそうじゃないっすか。肉体美とか、体を魅せることに興味があるとか。俺は貧相で良かったと思います。俺はこの先輩みたくムキムキじゃないから被写体としての魅力もさほどないっすし。


「ハマちゃん先輩、お祭り楽しみですね」

「お前の目の輝き方がマジ怖い」

「制作意欲に燃えてます」

「サークルに入ってきたときに比べて口数も増えたよなあ」

「一人なら普通に喋りますよ。かんながいるときは後ろで同意すれば通じるのでそうしてますけど」

「へ、へー。あっ、ところでかんなの彼氏ってどーゆー人なんだ?」

「えっと、星ヶ丘大学の4年生の人なんですけどー」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る