手順と段階
「かんなさん」
「はい」
「良ければ、俺と付き合ってもらえませんか」
もしかしたら、いつかはって思ってたけど、思ったよりも早くてびっくりした。初めて会ってからまだそんなに時間が経ってない。確かに2人で会う機会は出会ってからの時間の割には多かったかもしれない。だけど。
「初めて会ったあの日から、俺はかんなさんに惹かれていました。何度か会っているうちに、ただ友人としてでなく、恋人として付き合いたいと思うように。かんなさんのことが好きです」
「あの、私で良ければ……よろしく、お願いします」
「本当ですか…!」
「はい」
デートの途中で立ち寄った公園のベンチ。急に改まった話が始まるから何かなって身構えたら、まさかの告白。正直、嬉しい。だけど、少し考えることもある。
いざ本当に萩さんと付き合うことになったら、何がどう変わるんだろうって。手は3回目のデートの時くらいに繋ぎ始めてたし。一緒にいることがもっと増えるのかな。漠然としていてよくわからない。
――と、ここで、やらなければいけないことを思い出す。あやめへの報告だ。もしかしてって思い始めたときくらいに作ったルール。彼氏が出来たら報告するっていうのと、部屋に関する決めごと。
「えっと、あやめに報告しないと」
「そうですね。俺も雄平には言っておかなければならないと思っていて」
そうとなれば2人でそれぞれ報告の文面を作るのだ。付き合うことになりました、と。私のそれは生活にも関わってくることだから結構重大な報告なんだよね。同居してるといろいろ問題も起こってくるだろうし。
「あの、丁寧語とさん付けはそろそろ」
「では、互いに普通の話し言葉で。俺のことも普通に名前で呼んでもらえれば」
「は、恥ずかしい…!」
「そこを何とか。かんな、頼む」
「……裕貴っ…!」
「俺は今、かんなを抱きしめたい」
「あのっ、外だしっ、さすがに、しない……ですよね…?」
「かんなが嫌なら。ただ、手はもう繋いでいるし、手順を踏むなら次はハグかなと」
「あーもう出た変に真面目ー! 妊娠が先じゃなきゃ順番は大丈夫! 真顔で言うのがさらに恥ずかしい!」
「妊娠」
勢いで口に出ちゃったから自分も予期してなかった単語。それを裕貴が復唱することによってコトの重大さが後から襲ってくる。だって妊娠って、ねえ。することをしないとしないことだし。
最近あやめが人体とか筋肉とかっていうジャンルに興味を持ち始めたらしく、そういう写真とかもどこでかは知らないけど撮ってるみたい。それをチラッと見る度に、その……少し、考えちゃってた、ですし。
「あ、えっと、そのっ!」
「大丈夫。避妊具はちゃんとつけるし、病気がないかも検査してくる。だからそれはもう少し待って欲しい」
「まるで待ってるみたいに、なっちゃった……ですね。あーもー恥ずかしい」
「恥ずかしがるのが可愛いと言ったら?」
「意地悪」
「そんなつもりはなかった」
あんまり恥ずかしいから、穴があったら入りたい。でも穴はないから裕貴の胸に顔を埋めたい。でも外だし恥ずかしい。行き場のない感情に、空いている左手で裕貴の脚を無言で叩くしか出来ない。
「かんな、この後どうする」
「……2人に、なりたい。だって、外でこんなのが続くとか恥ずかしいし」
「2人になれる場所……家は、あやめさんがいるし」
「事前に言えばオッケーってルールではあるし……ねえ、今あやめに言うしうちに行こっ、うちでなら何でもしていいし」
「それでは、遠慮なく」
確かに「何でもしていい」とは言った。私が悪い。後に考えなしのこの発言を深く後悔しつつも、何だかんだ満たされてしまっている自分に呆れかえってしまうことを、今はまだ知らない。
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