感じるビビビ
「それでは、これより13時まで昼休みにします。午後の講習の5分前までには集合してください。以上です」
トラブルに見舞われ続けた初心者講習会も何とか開講。この件に関しては本当になっちサン様々としか言えないし、野坂に逆切れメールなんて送って来た三井はマジでふざけんなって思う。
まあ、三井なんか相手にしていてもしょうがないワケで、午後からはアナウンサー講習とミキサー講習に分かれていくことになっている。アタシが就くのはミキサー講習の方。
「おーい、つばめ。昼行くぞ」
「あ、うん。ゴメン今行く」
「どうした、ボーっとして」
「ボーっとはしてないよ。1年生は元気だなって」
「ああ、確かに。コミュ力高いよな、もう打ち解けてる」
アタシが見ていたのは、教室の中の方。講習を受けている側。その中に、気になることがひとつあって。だけど、今はとりあえず昼食の準備をすることに。対策委員と講師の3年生は弁当を用意してあるから、それを。
「はい、飲み物と箸は回った?」
「うん、みんな揃ったよ。ありがとうつばちゃん」
対策委員が作って来たおかずを寄せ集めた講習会弁当。果林はおにぎり、野坂は唐揚げ、ヒロが卵焼きでアタシはポテトサラダと言った具合に各々の担当が決まっていて、それを3年生に振る舞おうって。
やたらカズさんがみんなのレシピを聞いて回ってたとか、なっちサンが密かに仕込まれていただし巻き玉子に夢中になってたとか(某鬼の人を思い出したよね)、そんなことが印象に残った。
だけど、さっきからずっと気になって仕方ないことがぐるぐる渦巻いていて、気になって気になって話にも集中できないし気持ち悪い。思い違いじゃなかったらいいんだけど。
「ゴメン、ちょっとチラ見してくるわ」
「チラ見?」
食事もそこそこにチラ見に向かうのは講習の会場になっている教室。そこでは主に1年生の参加者が昼ごはんを食べている。アタシが何を気にしてるのかって言ったら、ひとつ。
「おー、つばみ!」
「何だハマ男、アタシ今忙しいんだけど」
「なんだよー。あっ、チョコ食う? さっき買ってきたんだけどさ」
「それはもらう」
ハマ男からもらったチョコを齧りながら、観察をするのは教室の中央。1年の男子が固まっているところ。今年は特に女子に偏りのある学年のようで、どうやら少ない男子の間に連帯感が生まれているらしい。
その中にいる、どっかで見たような顔の奴だ。ただ、星ヶ丘は大体いつも教室の後ろの方で群れてるし、現に今だってまとまって輪を作ってる。なのに、確かに学校で見たような奴が他校の子と輪を作っているのだ。
「ダメだ、見てらんないわ」
「えっ、ちょっとつばみ! おーい」
見てるだけとか性に合わない。気になることは早々に潰しとけって言うし! そうと決めたアタシは、1年男子の輪の中に単騎で突っ込む。こちとら2年だ、対策委員だ。話しかけるくらいいいだろう!
「ねえアンタ、星ヶ丘だよね。名前は?」
「あっ、源吾郎です。みんなからはゲンゴローって呼ばれてます」
「ふーん。班はどっかある? パートは?」
「えっと、お世話になってるのは鎌ヶ谷班で、パートはミキサーに興味があります」
「ねえ、星ヶ丘って大体後ろの方で群れてるっしょ? アンタはそうしなかったの?」
「せっかくですし、他校の人と仲良くなりたいなって思って。もしかして、ダメでしたか…?」
「いや、全然いいよ」
ひょっとしなくてもゲンゴローは“はみ出し者”かもしれない。しかもミキサーと来た。この瞬間、アタシは確かに何かを感じたし、チャンスだと思ったよね。何だどうしたっていう他の子の視線も気にしない。
「ゲンゴロー、帰りに大事な話したいからちょっと待っててくれる?」
「あ、はい。わかりました」
「じゃ、そういうことだから」
よし、とりあえず話は取り付けた。あとは講習が終わってから考えよう。さーて、弁当まだ残ってるかなー。……いや、野坂と果林がいる時点で無理か。
「ハマ男、まだ食べる物持ってる?」
「クリームパンならあるぜ! クリームパンマジパねえよな!」
「そうか? 美味しいけど」
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