モブの掟
「水鈴さん、こんにちは」
「あーッ、あやめちゃんッ! 元気ーッ!?」
星港市某所。今まで立っていた簡易ステージが撤去されていく中で、まさか声をかけられるとは思わなかったから。通りかかりにそのイベントを見ていてくれたそうだ。うう、嬉しい。さすが雄平の後輩、いい子だなあッ!
「何か裕貴がゴメンね。かんなちゃん拉致ってばっかりで。今日もでしょ?」
「いえ、デートの日取りは事前にわかってるので大きな問題はないです」
「それも裕貴の律儀なところだよねッ」
「萩さんは毎回デートの後でかんなを家に送ってくれるんですけど、私にも挨拶をしてくれます」
「真面目だなあ。まだ付き合ってないの?」
「まだだと思います。彼氏が出来たら報告するっていうルールですけど、まだ何も聞いていません」
雄平もあやめちゃんからその話を聞いてビックリしてたそうだけど、でもやっぱり裕貴を知ってたら驚くんだよね。大学に入ってから今まで恋愛の気配が全然感じられなかったし。
裕貴の堅物っぽい雰囲気が周りを遠ざけてるんだよね。要は裕貴が変にエリート風なのが悪いんだけどさッ。部活に関係ない場所だったらーッて思ってはいたけど実際そうなってみると話が早すぎて呆れたっていうのは雄平と一致しましたよねッ!
「萩さんとかんなはほっといてもそのうちくっつくと思うので措いときましょう。水鈴さん、諏訪あやめの習作、見てもらっていいですか」
「おっ、なになにーッ?」
「本当は大きなパネルとかで出したいんですけど、そこまではまだ出来ないのでタブレットで」
かんなちゃんとあやめちゃんは青敬で映像の勉強をする学部にいるそうなんだけど、あやめちゃんは写真にも関心が強くて、趣味で写真を撮っているらしい。そのあやめちゃんの習作。試験的にやってみたのかな。
そのタブレットを受け取ると、モノクロの写真が。筋骨隆々とした男性の上裸。雄平が読んでるような筋トレ雑誌とかにありそうな写真。肩から、背中、腰。ああー、この、途中で切れてて見えてないお尻のラインが気になるッ!
そして何よりこの被写体ですよッ! お天道様は誤魔化せても、この水鈴さんは見逃さねえッ! ンぁーッ……これはアートこれはアートこれはアートッ! でも確かにこれはパネルで見たいッ!
「あやめちゃん……これ、いくら積んだらパネルにしてくれる…?」
「あ、いえ、そんな。恐縮です」
「どうやって雄平をここまで脱がせた? これ、ほぼ脱いでるよね?」
「被写体になってくださいってお願いをしました」
「雄平は何て?」
「最初はちょっと恥ずかしそうでしたけど、最終的には「背面なんかを見ることはなかなか出来ないから良かった」って言ってました」
「なるほど、客観的な筋肉の分析」
「ですね」
他にもあやめちゃんはいろいろな角度から雄平の肉体を撮影した“作品”を見せてくれた。下心のない、純粋に肉体を収めたいがためのそれらを。
「なるほど。確かにいい写真ではあるんだけど、熱量が控えめって感じだね」
「やっぱりわかりますか」
「何をやりたいかにもよるしアタシカメラは素人だから偉そうには言えないんだけど、こう、躍動感もたまにあるといいなーって」
「アドバイスありがとうございます。ちなみに、爪先から頭までを映したスロー映像もあります」
「いくら積めばそれを譲っていただけますかッ!」
撮影の仕方がギリギリ過ぎて。いくらアートでもこれは際どい。ポーズと角度で穿いてないように見えるとかじゃなくて、本当に穿いてないんだもん多分。あっ、これに躍動感なんてついたらアタシ死ぬ。興奮しすぎで死ぬ。
「そもそも、かんな以外に見せないことを条件に撮らせてもらったものなので、見たことも内緒にしておいて欲しいんです」
「大丈夫、黙ってる。任せてッ! あっ、なんなら同じテーマでアタシと雄平の絡みなんかどう!?」
「アリですね。むしろいいですね。あっ、どうしよう……水鈴さん、体見せてもらっていいですか…? 逞しい男性の肉体と、しなやかな女性の肢体……興味が…!」
「あ、えーと、ここじゃさすがに脱げないよねッ!」
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